会社はこれからどうなるのか?
「むつかしかったはず」の岩井克人さんの新刊。
『会社はこれからどうなるのか』(岩井克人/平凡社)
これは、いま読むべき、とても重要な本だと思います。
経済学のプロ中のプロが持っている重要な知識を、
1冊で「素人の知識」として受け取ることができるから。

「会社」を経営する人も、「会社」で働いている人も、
「会社」からモノやサービスを買う人も、
「会社」って何で、「会社」をどうしたいのか、
どうつきあっていくか、考えてもいい時期だと思うのです。

あまりにもおもしろい本だったので、
岩井克人さんに、興奮気味に、いろいろ訊いてきましたよ!
インタビュアーは、「ほぼ日」スタッフの木村俊介です。

第4回 会社は株主のものではない


『会社はこれからどうなるのか』
(岩井克人/平凡社)

今回はじっくり読んでね。
「資本主義」の仕組みを、
岩井さんが、わかりやすく、
刺激的に語ってくださった!
ほぼ日 岩井さんが
「資本主義万歳という主流派が
 実際の社会と違うように見えた」という点って、
具体的には、どこが「違う」と感じたのですか?
岩井 資本主義そのものについては、いまは、
いいわるいは別にして、もう「ある」ものですし、
「そこで生きざるをえない」というものでしょう。

それに、人間が自由というものを求めたら、
かならず、資本主義になると思っているんです。

「資本主義を抑える」ということは、
「自由を抑える」ことですから、
自由を尊重しようとするならば、
資本主義の中で生きざるをえなくなる。

ただ、従来のアダム・スミス的な考えだと、
「いいものだ」という一辺倒なんですけれど、
「資本主義を100%純粋にすれば、
 すべての問題は解決される」
という主張には、疑問がありまして。

たしかに、
資本主義というのは
世の中をますます効率的にしていきます。
しかし、それは同時に、
世の中を不安定にしたり、
不平等を生んだりするもので……。

まず、実感として
「違う」というのは、たとえば
「不況があるじゃないか」ということです。
従来の主流派の経済学のなかでは、
理論上、不況なんてありえない。
起きたとしても、それは単に
人が非合理的に行動する結果なんだ
という見方なんです。


「人間が合理的になれば
 不況も起こらない。無駄のない良い社会になる」
主流派の経済学の言っていることは、
単純化すると、そういう発想なんですね。

「共同体のしがらみや政府の余計なお節介が
 人々に非合理的な行動をとらせてしまう、
 だから、資本主義がうまく働かない。
 そこで資本主義を純粋にすれば、
 問題がなくなる……」

だが、現実を見ても、
不況はあるし、インフレもある。
そもそも資本主義が「発展」と「不安定」の
二律背反性を、本質的に持っている
矛盾に満ちたシステムなのです。

矛盾を、具体的に言いますと……。
資本主義の、いちばんの基礎には、
「貨幣」、おカネがあります。

おカネさえ持っていれば、
相手がどんな人間であろうが、
モノと交換できるということで、
経済活動が発展していくわけです。
そして、そのおカネを、
単にモノを交換する手段としてでなく、
おカネ自体を欲しがり、蓄積するようになると、
資本主義が誕生します。

おカネがなければ、知っている人どうししか
関係を持てないし、物々交換はタイヘンですし。

しかし、そのおカネがあるがゆえに、
人々はおカネを貯めすぎることもある。
そうすると、企業はモノが売れなくなり、
不安になった人々は
ますますおカネを手元においてしまう。
これが不況です。

たとえ企業は
合理的に行動したくても、
合理的になれないのです。
また、貯めたおカネがモノより
要らないものになって
すぐに使おうとするとインフレになる。
インフレが行き過ぎて、
ハイパーインフレになって、
おカネそのものの価値が消えてしまい、
資本主義自身が崩壊してしまうことさえある。


資本主義を生み出したおカネは、
必然的に資本主義を不安定にするのです。

プラス面の裏に
マイナス面を抱えているというのが
資本主義の本質だと考えています。
そういうことは、もちろん、
ケインズやマルクスなども、
いろいろなかたちで、指摘しています。

いま、30代から40代の
日本でもアメリカでも、主流派の流れで
ほんとに超一流の仕事をしている人たちがいます。
「そういう人たちが、これからどうなるかな?」
というのには、かなり興味があります。

一生懸命、ある意味では
世界的なひのき舞台で突っ走る。
それはそれですばらしい。

だが、そういう人たちも、
40歳を過ぎていくと、
それまで、いくら抽象的なことをやっていても、
いろいろなかたちで、
現実の社会に興味を持ちはじめる
と思うんです。

ちょっと年寄り臭い言い方をしますが、
そういう人が、どう変身を遂げるか。

そのへんには、関心があるんですよ。

特に優秀な人たちですから、変化を見てみたい。
もちろん、何の影響も受けずに
やりつづける人もいるかもしれませんけれど。
ほぼ日 この『会社はこれからどうなるのか』でも、
「現実と違う理論への違和感」が出てきますね。

たとえば、「会社って何なの?」という
問いにしても、岩井さんは、
一般的な人の思う「会社」の像とは
かなり違う事実について、丁寧に書いています。
岩井 はい。

「会社とは何か?」ということに関して、
みなさん、きっと不安があると思うんです。

「会社は株主のものだ」と主張され、
それこそ「グローバルスタンダード」だとか

と言われる日々で、みなさん、実はどこか、
「ほんとうにそうなの?」
と感じているのではないでしょうか。

でも、日々忙しいので、
疑問をそのまま放っておかざるをえない、
という人だって多いことでしょう。

ところが、
「会社は株主のもの」という主張は、
理論的にも誤謬なんです。


それはわたしは、
声を大にして言うべきことだと思っています。

「会社ってなんだろう?」
という問いは、いまの会社員にも重要ですが、
実はもう、ずーっと前から問われ続けた難問です。
この問いって、ローマ時代から
法学の最大の論争のひとつと言われている
「法人論争」と密接に結びついているんですよ。

この法人論争というのは、
「法人名目説」と「法人実在説」の論争で、
哲学上の大きな論争のひとつでもある、
「唯名論」と「実念論」の論争とも結びついた
形而上学的にも、
おもしろいものであることに気がつきました。

形而上学的におもしろい「会社」という存在が
資本主義の中核になっていて、しかも、
資本主義で最大の力として動きまわっている。
そのことに、わたしは、
まず、好奇心をかきたてられました。

法人論争は、
悠久千年も、論争が続いていて、
しかも、まだ、終わっていないものだった……。
そして、わたしには、大げさに言うならば、
「自分で決着をつけよう」
という意思があったんです。

それをもとに、
この10年研究してきました。
1999年に、
アメリカの比較法の学会誌に掲載した
わたしの論文は、自分としては、会社理論として、
新しいものが含まれていると考えています。

その理論で会社のことを見てみると、
自分で言うのも何なんですけれど、
「会社とは何だ?」ということが、
非常にハッキリとわかるようになりまして……。


それを、この本で、
実際に働いている人にも使っていただけるよう、
書いていったというわけなんです。

資本主義は、
利益を追及する仕組みだとされています。

そして、いまのアメリカ的な主流派経済による
資本主義の見方は、それを非常に強調するわけです。
「自分の利益さえ追求していれば、
 結局は、市場という見えざる手の働きによって、
 社会的にいちばん良い状態が生まれる」

……しかし、それだけでは、ないんです。

資本主義のいちばん中核には、会社がある。
その会社のどまんなかには、
実は、利益追求とまったく対立する
経営者の「倫理」があるんですよ。
これが入っていないと、
そもそも会社制度がなりたたない。
自己利益を追求する資本主義には、
倫理が本質的に入りこんでいるというのです。


それを理解するだけで、資本主義を見る目が、
かなり、違ってくるんじゃないでしょうか?
  (※つづきます。
  次回は、契約と信任についての関係を、
  そうとう丁寧にわかりやすくお伝えだ!
  明日の更新を、どうぞ、おたのしみに♪)



もくじ
  第1回  悩みは無知から生まれる
  第2回  成功を約束されていたけれど
  第3回  違和感が発見をきりひらく
  第4回  会社は株主のものではない
  第5回  「信任」こそ社会の中心
  第6回 差異だけが利潤を生む

2003-04-21-MON


戻る