- 清水
- 子どもの頃、クラスの中に面白い男の子っていました?
- 糸井
- いたいた。憧れてた。
- 清水
- 明石家さんまさんみたいな。
- 糸井
- いた。修学旅行とかでガイドさんがマイクを回すじゃん、そいつが取ったらもう絶対面白いみたいなやつ。
- 清水
- やっぱいるね。
- 糸井
-
ぼくも少しは頑張ったけど、つかめなかったよ、お客が。
- 清水
- 芸人だったらダメなやつだ(笑)。
- 糸井
- 笑ってくれるのはせいぜい何人かで。なんか、女の子の方が。
- 清水
- あー、どんな現場も女の人は多いですよね。落語とか吉本新喜劇も女性ばっかり。
- 糸井
- 男には案外ウケなかったんだよね。男はつい勝ち負けを考えちゃうからさ。認めるの、得意じゃないね。
- 清水
- そうかも。男の人って面白い人に嫉妬するって言いますもんね。
- 糸井
- 面白いやつもそうだけどさ、そういうのって生まれつきそうなのかなって。若いときのそういう学びはけっこう多いんだよ。
- 清水
-
そうなの?
- 糸井
- 昔ね、エレキギターを買って練習していたときに、全く音楽やっていないやつが「ちょっと貸してみ?」って言って、さらりと弾いたんだよ。
- 清水
- おお。
- 清水
- 「何だったんだ、自分は」って思った(笑)。
- 清水
- 負けてんなって。
- 糸井
- 負けてるどころじゃない。自分が登れないような山の上で、あいつは逆立ちしてるよって。
- 清水
- 価値観がひっくり返ったんだね。
- 糸井
- 自分の価値観の延長線上の遠くにあった夢をさ、今日の明日で叶えちゃう人を見てしまったわけで。あれは今の自分に影響を与えてるね。
- 清水
- 芸能とかでもさ、習わなくてもなぜか最初からできちゃう人って多いですよね。
- 糸井
-
でも清水さんはピアノも弾けちゃうわけで、弾き語りモノマネもできてしまう。
- 清水
- さすがに今日の明日じゃできないけど、私も10代の頃にすごい感銘受けたから。
- 糸井
- 何に感銘を?
- 清水
- 矢野顕子さんに。「私もあんな風になるはずだったのに」って。悔しかったんでしょうね、きっと(笑)。
- 糸井
- ああ。
- 清水
- なんか、“できない”っていうのが途中でわかって。
- 糸井
- その心って大事かもね。不遜な自分に…。
- 清水
-
なんという自信だったんだろうね。今思えば。
- 糸井
- 矢野顕子にあって、清水ミチコにないものは何?
- 清水
- 音感。あとピアノから何から。音楽性だね。
- 糸井
- だって、あなたもピアノ2台くっつけて弾き語りやってたじゃないですか。
- 清水
- あれは、矢野さんがササッとできるものを、綿密にコピーしてコピーして頭の中に入れて、さも「今弾きました」みたいなフリをしてるだけ。
- 糸井
- そうかぁ。
- 清水
- それはやっぱりすぐわかりますよ。全然違う。
- 糸井
-
例えば、サルの世界でもボスザルになるべくして生まれたサルと、そうじゃないサルがいるらしいんだよ。
- 清水
- へー!
- 糸井
- そういうドキュメンタリーをやってて。どうやって決めるんだろうって思わない?そのボスっていうのを。
- 清水
- 気になる。
- 糸井
- 喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
- あっ、喧嘩じゃないの?何なの?
- 糸井
- パフォーマンス。
- 清水
- ウソー!?
- 糸井
- まずはね、ボスになりたいサルが既存のボスに「ボス、いずれ挑戦しますからね」みたいな目で見るところから始まって。ボスもそいつを意識し始めるのよ。それがクーデター前。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- で、あるときに「ボス、いつまでもボスと呼んでると思ったら大間違いですよ」みたいにグッと来て、ボスが、「おい、目に物見せてやる!」ってバーンとかかっていくと、追っかけっこが始まるんだよ。で、川のそばに行くと、石を川に向かってバッシャバシャ投げるんだ。
- 清水
- あ、喧嘩じゃないね(笑)。
- 糸井
- そう、川に石を投げる。ボスもそれを見てバシャバシャ投げるんだ。
- 清水
- すごい(笑)。
- 糸井
- で、今度は木があると、木につかまってバッサバサ、ざわわざわわ!やるのよ。
- 清水
- もうお祭りじゃん。
- 糸井
- そう。ボスも、ざわわざわわ!って。
- 清水
- 「ざわわ」やめてください(笑)。
- 糸井
-
(笑)
ひっくり返ったり、水しぶきをあげたり、もう自分が嵐になるわけ。それで、負けたと思った方が引き下がるの。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- つまりさ、殴るパンチの強さとかは関係ないんだよ。
- 清水
- パフォーマンスなんだね。
- 糸井
- これは、もう自分にはできないもん。大人数をひれ伏すようなボスザルはもともといるよ、芸能の世界にだってね。
- 清水
-
なるほどなぁ。
- 糸井
- 永ちゃんがそう。
- 清水
- 矢沢永吉さん。
- 糸井
- そのドキュメンタリーを見てから思うよ、永ちゃんのステージを見てると。人数で言ったら、この人はこんなにも集めるのか、とか。やっぱり永ちゃんはすごいよ。
- 清水
- 矢沢さんにあって糸井さんにないものってい何だと思います?
- 糸井
- うーん…、量的にものすごく多いんだけど、責任感じゃないかな。
- 清水
- へぇー。それは社長としても?
- 糸井
-
うん。何かをやるとき、どのくらい本気になれるかとか、遮二無二で走れるかとか。学んでますよ、永ちゃんから。
だからぼくは彼に対しては、ずっと下に付こうっていう決意のようなものがある。
- 清水
- 下にいる方が気持ち良いよね。
- 糸井
- もうすごい楽しいの、そのボスを見るのが。そういう風に思わせてくれる人ってそんなにいないしね。親しくすることもできるし、見上げることもできるっていうのは、ありがたいことだよ。
- 清水
- 本当だね。
<つづきます>
