糸井

モノマネってすごいよね。

清水

モノマネ？

糸井

ぼくの仕事は消しゴムが使えたり、後ろに引っ込めたりできるけど、芸は全然種類が違うもんね。

清水

違うね。

糸井

不思議だよ。

清水

モノマネって、あんまり自分自身で表現したいものがない人の方が得意かも。私もそう。

糸井

あーなるほど。

清水

自分の歌を聴いてほしいとは全く思わないけど、「私が演じる“誰か”を聴いて！」ってすごく思うもん。

糸井

その人の代わりに歌ってるんだ。

清水

そうだね。「その人の代わりに私が歌うから、聴いて！面白がって！」っていうのは強い。

糸井

でもさ、どうして声が似るんだろう？普通おかしいよね。

清水

どうしてだろう。しかもそれで生計立ててるっていうね。

糸井

しゃべり方の癖を似せるのはわかるよ。でも、声の質までって。

清水

そうだよね。

糸井

だってあなたのレパートリーの「ユーミン」と「矢野顕子」は似てないじゃん。

清水

似てないですね。全然違う（笑）。

糸井

どうして“私”が挟まると似るんだろう。

清水

んー。それはやっぱり“私”が、その人たちのことがすごく好きだからなのかなって。

糸井

ああ！

清水

モノマネをしてる人ってみんなそうだと思うけど、だいたい自分が10代のときに影響された人がレパートリーになるんだよね。

糸井

だって、井上陽水さんもやってたよね！？

清水

うん、やった。

糸井

無理だろ！普通に考えたら（笑）。

清水

今考えたらそうだね（笑）。

糸井

ということは、例えば「今流行ってる歌手をマネしてください」って言われても、流行りの歌手を無理して自分の中に入れなきゃできないんだ。

清水

よくわかりますね。だからほとんどできない。

糸井

絵描きに例えたとして、水の中に氷が浮かんでいるスケッチを描く人は、そりゃあ描けるじゃないですか。それは目の前に見えているから。

清水

うんうん。

糸井

でも、ぼくらにはその氷（流行りの歌手）が見えていないんですよ。

清水

そうだね。

糸井

だから、描きようがない。

清水

本当にそう。例えば、安室奈美恵さんが引退するっていうときに、号泣していたファンの気持ちに１回なろうと思うんだけど、やっぱりなれないの。世代が違うから。

糸井

じゃあその世代に清水ミチコがいたら、安室奈美恵さんのコピーもできてるんだろうね、きっと。

清水

うん、きっと。

糸井

つまり、自分が10代で夢中になった人のマネはできるってことは、その頃は受け止める側の細胞がバッチバッチだったからだ。

清水

そうそう。歌で泣いたりとか感受性がもうね。
でもやっぱりこの年になると…。

糸井

脳がついていかない（笑）。

清水

うん、解像できない。

糸井

でも、あなたのベースになっている「ユーミン」のモノマネは、何年もたった今でも聞きたい人がたくさんいるわけで、浮世に流れなかったじゃない。

清水

ありがたいよね。

糸井

モノマネってけっこう難しくてさ、大ヒットが出たりすると良いけど、逆にその人と共に消えてしまうこともあるじゃないですか。かと言って、一つのレパートリーを長く続けるのも難しい。

清水

うん。

糸井

でも、あなたの場合はあれか、なんやかんや編集し直すのか。

清水

ヘンシュウ（笑）。

糸井

「ユーミン」には変わりないんだけど‥。

清水

薄めて薄めて…。

糸井

もう１回、ここに置けば違って見えるんだよね。それが編集。

清水

ごまかし、ごまかしね（笑）。

糸井

それで武道館ライブができちゃうんだから。

清水

本当だね。私の世代って、「ユーミン」とか、みなさんのキャラクターが強いのもありますよ。みんな知ってるし。

糸井

そうか、お客さんの好き度も濃いのか。「またユーミンやって！」って言いながら何度も来るわけだもんね。

清水

うん。私が心を込めて歌うのはいいから、「ユーミン」をやってくれと（笑）。

糸井

あはは。

＜　つづきます　＞