- 糸井
-
今年またね、永ちゃん(矢沢永吉さん)をもっと好きになった。
暮れに急に電話があって。
永ちゃんは、思い出して、ひょいと電話をかけてくるんだけど。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
-
その日、永ちゃんが電話してきたのは、
昔うちで作った、犬の誕生を追っていく
『Say Hello!』っていう本があって、それを読んだからで。
「ずっとあったんだけど、それを今見たら、
糸井、面白いことしているねえ」って。
- 清水
- すごくうれしいですね。
- 糸井
-
「いいよ。そういうところがいいよ」って、
何年前の本だよって。
もうさ、14、5年前の本を今見て、電話したくなったって(笑)。
- 清水
- へぇー、少年っぽいですね。
- 糸井
-
「思えばおまえのやっていることは、そういうことが多くて、
俺にはそういう優しさとかっていうのが、ないのね」
って言うわけ。
- 清水
- そんなことないですよね、きっと。
- 糸井
-
だから「それは違うよ。同じものをこっちから見ているか、
あっちから見ているかだけの違いで、
俺は永ちゃんにそういうのをいっぱい感じるよ」って言うと、
「そうかな」って言って、「うれしいよ、それは」って言って。
- 清水
- へぇー、ずいぶん‥‥
- 糸井
-
いいでしょ?
- 清水
- うん。
- 糸井
-
だから、どう言えばいいんだろう。
ボスの役割をしているボスと、それから、
時にはしもべの役割をしたり、ただの劣等生の役割をしたり‥‥
永ちゃんって、全部しているんです。
- 清水
- そうか。
- 糸井
-
それを全部大体、ぼくは見ているんで。
あの世界ではもうトップ中のトップみたいになっちゃった、
別格みたいになっちゃったけど、変わらず同じだなと思って。
また今年、じーっと見てようかなと。
- 清水
- 糸井さんのいくつぐらい上ですか。
- 糸井
- 永ちゃんのほうが、一個下だよ。
- 清水
- え、そうなんだ。何で知り合ったんですか。
- 糸井
- 最初は、『成りあがり』って本を作るために知り合った。
- 清水
- あ、本ありきで?
- 糸井
- ありきで知り合った。
- 清水
-
へぇー。で、どんどん好きになっていったんだ。
永ちゃんにあって糸井さんにないものって、何だと思いますか。
三の線つったら、また怒られる(笑)。
- 糸井
- いや、三のところは、ぼくは一緒にしてもいいと思っている。
- 清水
- (笑)。
- 糸井
-
永ちゃんにあってはねえ、
うーん‥‥責任感じゃないかな。
- 清水
- へぇー。それこそ、社長としても‥‥
- 糸井
-
学んでいますよ、ぼくは。永ちゃんから学んでいますよ。
やれるかやれないかのときに、どのくらい本気になれるかとか、
遮二無二走れるかとか。でもね、そこだけでいうと、
そういう人はいっぱいいるからなあ‥‥。
あ、生まれつきっていうか、
ボスザルとして生まれたサルと、そうでもないサルがいる。
「ボス、すげえっすぅ!」みたいに扱われるような(笑)。
- 清水
- サル山にいそうですね(笑)。
- 糸井
-
チンパンジーのドキュメンタリーがあって、
ボス争いがあるんだよ。ボスになろうと、
クーデター起こそうとして失敗したやつが結局追い払われて、
隣の山からずーっと様子を見てて。
- 清水
- かわいそう!
- 糸井
-
面白いだろ?
メスたちは、ボスになった人のところのそばについて、
「蚤取ります、蚤取りますよ」みたいなのとか。
- 清水
- あ、そう(笑)。
- 糸井
-
そういうドキュメンタリーがあって。
で、ボスを何で決めるんだろうって思わない?
- 清水
- うん。
- 糸井
- そしたら、喧嘩じゃないんだよ。
- 清水
- 喧嘩以外に何かあるの?
- 糸井
- 教えましょう。パフォーマンスなのよ。
- 清水
- ウソ(笑)。
- 糸井
-
まず、クーデターを起こそうとするやつが、
「ボス、俺は、いずれボスに挑戦しますからね」
みたいな目で見たりするとこから始まる。で、ボスが
「おまえの最近のその目つきは目に余る」みたいなことで、
「おまえ!」なんて威嚇すると、すごすごと逃げたりする。
それを繰り返すわけ。
- 清水
- へえー。
- 糸井
-
あるとき、「ちょっと俺の仲間もいるんですよね」みたいに、
ボスの座を狙うやつが、仲間を連れてくる。
「ボスといつまでも呼んでいると思ったら大間違いですよ」
みたいにね。ボスが、「おい、目に物見せてやる!」つって
バーンとかかっていくと、1回ふにゃふにゃっとなるんだけど、
その後追っかけっこになるんだよ。
そして、たとえば川のそばに行くと、
石とか持って、川に向かってバッシャバシャ投げるんだ。
- 清水
- 川は関係ないのに。
- 糸井
-
何の関係もない(笑)。
で、ボスのほうも、ガーッ、バシャバシャって石とか投げるんだ。
- 清水
- すごいね。
- 糸井
-
で、今度、木があると、木につかまって、
ざわざわ、ざわわざわわ! やるのよ。
- 清水
- あはは、祭りだ。
- 糸井
- そう。ボスも、ざわわざわわって。
- 清水
- 「ざわわ」やめてください(笑)。

- 糸井
-
そうね(笑)。ひっくり返ったり、もう水しぶきあげたり、
もう自分が嵐になるわけ。
それで、負けたほうが、すごすごと引き下がるの。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
- つまり、殴られたパンチの強さとか関係ないんだよ。
- 清水
- じゃなくて、やろうと思ったらこれだけできるよっていう‥‥
- 糸井
-
パフォーマンス(笑)。
それを見てからますます、永ちゃんのステージとか見ていると、
やっぱり永ちゃんのボスザル感は、すごいよね。
多くの人がひれ伏すようなチンパンジーたちは、
芸能の世界にだっているよ。
人数でいったらこの人はこれだけ集めるとか、あるよ。
でも、永ちゃんのようなことは、これは、もうできない。
- 清水
-
ユーミンさんが1回、何かのインタビューで、
どうして矢沢永吉さんは毎日のようにやるパフォーマンスに
飽きていないのか知りたい、
みたいなことを言っていたんだけど。
それは皮肉じゃなくてね、本当に知りたいって。
どうなさっていると思います?
いつもどこ行っても満員でワーじゃないですか。
どんなバンドも、それにちょっと飽きると思うんだけど。
- 糸井
- 「それは矢沢が真面目だから」。多分そういうことだと思うよ。
- 清水
- 好きなんですね。
- 糸井
-
手を抜けないんだよ、多分。で、抜いたらどうなるか。
矢沢じゃなくなるって。
だから、矢沢は矢沢を全うするんですよ。
- 清水
- そうか。それはみんなのためでもあるし。
- 糸井
-
うん。さっき「責任」って言ったのは、
それのちっちゃいやつは、みんなが持っているわけです。
たとえば清水さんの最初の武道館って、大勢が集まって。
- 清水
- うん。
- 糸井
-
あのときに、「私がぐずぐずしてらんない」っていうの
あったじゃないですか。なくはないですよね?
- 清水
- そうそう(笑)。
- 糸井
- ありますよね(笑)。
- 清水
-
それと糸井さんが、
「お客さんって、1人を見たいものだ」と言ってくれて。
そうかなと思って1人でやってみたら、
やっぱりなんか、あ、これ、いただいたって感じがして(笑)。
- 糸井
- すごかったでしょう?
- 清水
- うん。快感でしたね。
- 糸井
-
何だろう。ここを私がちゃんとしないといけないみたいなのは、
やっぱりちょっとずつは、みんな持っているんですよね。
- 清水
-
そうか。そういえばその武道館ライブを、
このあいだ森山良子さんと一緒にやったんです。
リハーサルスタジオに行って
うちのスタッフがエレベーターに乗ったら、
「何階?」って言ってくれたのが永ちゃんで、
めっちゃビックリしたって言ってた(笑)。
やっぱりいい人なんですね。
3階だけど言えないみたいな、押させられない。
でも、そういう方なんですね。
- 糸井
-
そういう方なんです。
だから、矢沢永吉としてできている、
みんなが思っているものを壊すのは
自分であってはいけないって気持ちがあるっていうか。
- 清水
- そうか。
- 糸井
-
分裂しているんですよ、ある意味ではね。
みんなが思っている矢沢永吉像と自分というのは、
やっぱり離れていると思うよ。
- 清水
- そうでしょうね。
- 糸井
-
それはイチローでも何でもみんなそうですよ、
とんでもない人たちは。
清水ミチコはどうなんですか。
- 清水
-
私、そのままかもしれない(笑)。
できるだけそのままでいようと思うしね。
- 糸井
-
自分で言ったことに、自分でプッと吹く人は、
そのままの人が多いね。松本人志と清水ミチコと(笑)。
- 清水
- 幸せ(笑)。

- 糸井
-
ぼくは永ちゃんに対しては、ずっと絶対に下につこうって、
もう決意のように思っていますね。
- 清水
- 下のほうが気持ちいいんでしょうね。
- 糸井
-
もうすごく楽しいの、そのボスを見るのが。
ボスザルを見るのが。そういうふうに思わせてくれる人って、
やっぱりそんなにいるもんじゃないんでね。
親しくすることもできるし、見上げることもできるし。
ありがたいことだよね。
- 清水
- ちょいちょい電話かかってくるっていう関係もいいですね。
- 糸井
-
ちょいちょいじゃないんだよ。何か節目のときなんだよ。
これからアメリカ行くんだみたいなときだとか、
こうしようと思うんだみたいなときにかかってきて。
で、それは、ずっと意識しているからだって本人は説明するんだけど、謎だよね。
- 清水
- 普通にしゃべることはできます? お電話でも対面しても。
- 糸井
- それは普通。
- 清水
- ビビらずに?
- 糸井
- うん。
- 清水
- へぇー。
- 糸井
-
だから、ぼくは永ちゃんには、
もう負けている場所にいるからっていうのも言えるし。
そこは楽ですよね。
- 清水
- そうか、立場をはっきりしとけば。
- 糸井
-
うん。若いときからの付き合いだったっていうのが、
よかったかもしれないですね。
- 清水
- ああ、そうかそうか。
- 糸井
- 清水さんだって、アッコちゃんと普通でやれるじゃないですか。
- 清水
-
いや、嫌われたくないっていうのがすごく強過ぎて、
よく噛む、本当に(笑)。
- 糸井
- 本当に?
- 清水
-
普段もっと面白いんですけどねえって思いながら、
こうやって自分を叩くんだけど、何も出てこない(笑)。
