- 糸井
-
俺、初めて武道館ライブをやったときの清水さんを見て、
立候補しないでボスになった人っていいなと思ったよ。
- 清水
- え、本当? どういうこと?
- 糸井
-
何ていうんだろう。
清水さんの周りの人は、利害関係なく集まってるじゃん。
- 清水
-
ああ、そうそう。
よくわかりますね。
- 糸井
-
プロダクションでもないのに人が集まっていて。
「こうしたほうがいいかな?」って誰かが言えば、
「そうじゃない?」って言うやつがいたりとか。
- 清水
- うん、そうですね。
- 糸井
- その場所に立つのって、なかなか大変なことでさ。
- 清水
-
それを目指したら、きっと大変だと思う。
私は運がよかったから。
- 糸井
-
それでいて、周りの世話をしてきた覚えも
ないわけじゃないですか。
- 清水
-
うん。
若い頃は、お世話になった永六輔さんみたいになりたい
と思ってたの。
新人に「こうしたほうがいいよ」って
背中を押してあげるおばさんになれたらいいなって。
でも、今日の自分でいっぱいいっぱいなのよね。
- 糸井
- うんうん。
- 清水
-
だから、人に教えてあげるっていうのは
大したことなんだって、この歳になって思った。
- 糸井
- つまり、世話はしてないと。
- 清水
- して、なーい。これからもしなーい(笑)。
- 糸井
-
(笑)。
でも、「こんなんでもいいんだよね」は見せてるよね。
- 清水
-
うん、そうだね。
こんなんでも大丈夫ですよって。
- 糸井
-
あんまりツッパってないよね。
例えばゲストに呼ばれて、二言ぐらいしかしゃべれないと、
みんな気にしそうだけど、清水さんは全然‥‥(笑)。
- 清水
- しょうがないじゃんつって(笑)。
- 糸井
- 番が来なかった(笑)。
- 清水
- もう終わった(笑)。
- 糸井
-
清水さんが、「いい気にならないモード」を保っていられるのは、
いい気になっちゃいけないと思ってるからですか?
- 清水
- いや、そんな立場にないからだよ(笑)。
- 糸井
-
でも役割としてさ、多少偉ぶってくれないと、
みたいな場面に呼ばれることはないですか。
- 清水
- あ、審査員とかね? うんうん。
- 糸井
- そのときは、役目として何かこう……しますよね。
- 清水
-
ちょっと偉そうなほうが、その場のおさまりがいい、
みたいなことはありますよね。
- 糸井
-
清水さんがいい気にならないのは、
自分でそうならないようにしてるからだと思ったんですよ。
その理由の一つは、きっと失われるものが大きすぎるからだよね。
- 清水
-
そうね。
いい気になってしまったら、これはできない
ってことがあるかもしれない。
あとやっぱりほら、私たちは自分を客観的に見てナンボの商売だから。
- 糸井
-
ああ、そうか!
「こう見えてるよ」が仕事だから。
- 清水
- そうそう。それもあると思う。
- 糸井
-
なるほどね。
ずっと前に、ぼくが筋トレをしていたとき、それを話したら、
「誰もあんたにそんなこと望んでない」
って言ったじゃない(笑)。
- 清水
- ひどいねえ、言いそう(笑)。
- 糸井
- それも、「こう見えてるよ」っていう仕事ゆえかもしれない。
- 清水
- 糸井さんはどうしてジムやめちゃったの?
- 糸井
- 社長業になったからだよ。
- 清水
- ずっと忙しいってこと?
- 糸井
- ずっと気は休まらないよね。
- 清水
-
えぇー。
私ね、今日聞きたいと思ったのは、
糸井さんは、死にたくない?
ってことなの。
- 糸井
- ん? 死にたくない?
- 清水
- 死にたくない。
- 糸井
- ああ、死にたくないよ、そりゃ。
- 清水
- 当たり前か(笑)。
- 糸井
- 死んだらしょうがないとも思うし。
- 清水
-
うんうん。
私のイメージでは、貧乏生活もしてきた少年が、
孤独とか知りながら、いつの間にか
70人を超える大会社の社長になってたっていう。
- 糸井
- 大会社じゃない(笑)。
- 清水
-
でも、サクセスストーリーでもあるじゃん?
そういう人が一番怖いのって、
やっぱり健康じゃなくなることとか、
死ぬことかなって思ったの。
- 糸井
-
いや、それは別に怖いとかじゃなくて、
責任があるんだよ。
それだけのことだよ。
- 清水
- 「もうやめたい!」ってならない?
- 糸井
- やめたいって言っちゃいけないじゃん。
- 清水
-
ああ、そうね(笑)。
私も本番で倒れちゃいけないとは思うけど、
糸井さんとはスタンスが全然違います。
- 糸井
-
でも、あなたのおかげで、清水ミチコ事業という体系があるよ。
色や形、大きさは違うけども、大人にはみんなあるわけで。
- 清水
- そうだね。
- 糸井
-
大人になったら、まんざらでもないみたいなとこあるじゃないですか。
「皆さん、お元気ですか」って言われたら、
「元気でーす!」って返す、みたいな。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
-
その「元気でーす!」って声も含めて
俺たちじゃないですか、もう。
- 清水
- そうか、うん。
- 糸井
-
だから、もうやれるうちはやろうと。
ただ、もう引退の準備をしながら
一生懸命やってるっていう状況ですよ。
- 清水
- あ、本当?
- 糸井
-
うん。得意で社長やってるわけじゃないから、俺。
もっと社長得意な人が
やったほうがいいのかもしれないし。
- 清水
- なるほど。
- 糸井
-
ただ、こういう変な社長だからできてることもあるから、
なんとも言えないんだけど。
まあ、年取ったらよしたほうがいいなと思って。
- 清水
- そっか。
- 糸井
-
ずっとしゃがんでたあとで立ち上がったら、ひざが痛いもん。
そういう人がさ、ずっとやってちゃダメだと思うんだよね。
- 清水
- なるほどね(笑)。
- 糸井
- 清水さんは、この先どうするみたいなこと考えるの?
- 清水
-
どうするは考えないけど、
でも私、不幸になるような気がしない。
- 糸井
-
ああ。それがすべてだと思うね。
その「運悪くないし」みたいなね。
- 清水
- うん、そうね。
- 糸井
-
俺、孫ができたじゃん。
見てるともうね、うらやましいの。
- 清水
- あ、楽観性?
- 糸井
-
そう。
ひとりでは生きていけないのに、一切心配しないで、
フャーッとか言ってるっていう(笑)。
- 清水
- そうね。
- 糸井
-
子どもが将来、「今のところ勤めたいのは」とか言ったら、
不幸になるぞって思わない?
- 清水
-
うん。
今どきの子、えらい頭いいからね、
ちょっと心配なとこあるよね。
- 糸井
-
それよりは、なんとかなるよって
ニコニコしてるくらいがいいよね。
「おまえ、結局、俺の話聞いてないだろ」つったら、
「ごめん」みたいな。
- 清水
- 南伸坊さんみたいなね(笑)。
- 糸井
- そう。そのほうが生きるよね。
- 清水
-
うん。
うまくいくのは、大体そういう人が多いからね。
- 糸井
-
それにしてはぼくなんか、考え過ぎるほうでさ。
「ものすごく考える私」と、「何も考えない私」、
2人がリレーをやってるんですよ。
それでいて、さあ本番だってときに、「考える私」から
「考えない私」のとこにバトンが行くんです。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
-
いや、俺、ずいぶんちゃんとしゃべって。
逆にインタビューされて……?
- 清水
- そんなことないよ。
- 糸井
-
というわけで、清水さんのサクセスストーリーを
順番に語っていく企画にもならなかったけれども。
- 清水
- これ、やり直して(笑)。
(対談はこれでおわりです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!)