- 糸井
-
清水さんは、文章も面白いんですよ。
「このくらい書けるようになりなさい」って、
社内で言ったことありますよ。
- 清水
- 本当?
- 糸井
-
うん。前にほぼ日で文章を書いてくれたとき、
いつもいいなあ、と思ってた。
- 清水
- わあ、うれしい。
- 糸井
- 清水さんにとって、文章はどんなものなの?
- 清水
-
ブログは、寝る前に書くとスッキリした気持ちで
一日を終われるので、
トイレみたいな感じですかね(笑)。
- 糸井
-
でも、何も思わないで生きてたら、
文章は書けないじゃないですか。
だから、きっと思ってることの分量は多いよね。
- 清水
-
うん。多いと思う。
高校のときには、
もう自分の「面白ノート」っていうのがあって。
- 糸井
- へぇー。
- 清水
-
そこにエッセイとかを書いて「今回も書いたけど、読む?」って
人に見せてた。
それで友達が笑ってくれたら、もうすごい幸せ、みたいな。
- 糸井
-
ああ。話を聞いてると、似てるんですよね。
生い立ちというか成り立ちが、さくらももこさんに。
- 清水
- ああ。ちょっとそうかな。
- 糸井
-
「あいつがこうしたな」とか、「あ、おかしいことしてるなあ」
とか見て思ったことを、おもしろおかしく描くの。
- 清水
- それで、本人も幸せっていうね。
- 糸井
- そうやって、周りの人がおもしろがったのが原点?
- 清水
- そうですね、うん。
- 糸井
- 俺は、それはなかったなあ。
- 清水
- あ、ないの?
- 糸井
-
漫画とかを描いて回すみたいなこと、少しはしてるんですよ。
してるんだけど‥‥。
お客さんがつかめなかった(笑)。
- 清水
-
ははははは(笑)。
芸人だったらダメな言葉だね(笑)。
- 糸井
-
小学校のときは、自分より面白いやつに憧れてた。
中学とか高校で、エレキを買って練習してたときには、
勉強も音楽もまったくできない同級生が
いきなり上手く弾き始めて。
それを見て「俺の努力は何だったんだ」って思った(笑)。
- 清水
- 俺、あいつに負けてんだっていう(笑)。
- 糸井
-
中学デビューとか、高校デビューだったんだよね。
負けてるどころじゃなくて、
あいつは俺が登れない山の上で逆立ちしてるよ、と思った。
- 清水
- 価値観がひっくり返ったんだね。
- 糸井
-
そう。
大人が言う「なんでも基礎をしっかりすればどうにかなる」
っていうので、俺、ピアノ教室も行ってたんだよ。
嫌でやめたけど。
- 清水
- ふふふふふ(笑)。
- 糸井
-
でも、基礎をしっかりやることの延長で、
ビートルズとか弾ける自分になれるかというと、
それは大間違いで。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
-
それは、今の自分に影響を与えてますね。
自分が守ってた価値観の遠く先にあった夢を、
今日の明日で叶えてしまう人を見たっていうのは。
- 清水
-
それでいうと、私は10代の頃に
矢野さんたちにすごい感銘を受けたから、
どこか悔しかったんですよね。
「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな。
……何という自信なんですかね(笑)。
- 糸井
- でも、その不遜な心って大事かもね(笑)。
- 清水
-
今でも、
「もうちょっと頑張ったらなれるんじゃないか」って
思ってる自分がいるの。
「基本ができてないだけで、もう少しやれば……」
とか、変な希望みたいなのがあるんですよね。
- 糸井
-
じゃあ同じ道で、矢野さんが振り向いたら後ろに清水がいた、
ぐらいの場所にいるわけだ。
- 清水
- いや、それはいない。全然。
- 糸井
- でも、遠くに見えるっていうぐらいにはいるんじゃない?
- 清水
-
全然。もうレベルが違います。
音感とか指の動きとか、何から何まで。
- 糸井
-
アッコちゃんと普通にしゃべることは
できるんじゃないですか?
- 清水
-
いや、そうでもないです。
嫌われたくないっていうのが強過ぎて、
よく噛む(笑)。
- 糸井
- 本当?
- 清水
-
「普段もっと面白いんですけどねえ」って
心のなかで思いながら、自分を叩くんだけど、
何も出てこない(笑)。
- 清水
-
でも私、「自分の歌を聞いて」って全然ならないの。
ただ、「私が演じる誰かを聞いて」っていう気持ちには
すごいなる。
モノマネは、自分がこれを表現したいってものがない人の方が
得意かもね。
- 糸井
- その人の代わりに歌ってる。
- 清水
-
そう。
「その人の代わりをやるから、面白がって」
っていう気持ちが強いと思う。
- 糸井
- そうだ、前に井上陽水さんもやってたよね。
- 清水
- うんうん。
- 糸井
- 無理だろ、普通に考えたら(笑)。
- 清水
- 今考えたらそうだね(笑)
- 糸井
- 今と昔で、真似する人は変わってる?
- 清水
-
30代を超えてから増えたのは、瀬戸内寂聴さんぐらいで、
あんまり増えてないなぁ。
私は10代のときに影響された人のモノマネをしてるから、
そこ止まりで。
- 糸井
-
10代のときに夢中になった人の真似ができるってことは、
それを受け止める当時の感受性が……。
- 清水
-
そうそうそう。
歌で泣いたり、一緒に喜んだりしてた。
- 糸井
-
ということは、最近流行ってる歌手のモノマネしてくださいって
言われたら、そんなに上手くできないのかな。
- 清水
-
そうですね。よくわかりますね。
安室奈美恵さんがやめるってなったときも、
ファンの気持ちになって号泣しようとしたんだけど、
できなかった(笑)。
- 糸井
-
今の世代に清水ミチコがいたら、
安室奈美恵さんのモノマネができてるだろうね、きっと。
- 清水
- うん、そうだと思いますね。
- 糸井
-
見えたり聞こえないと、できないんだよね。
絵描きさんが、水に浮かぶ氷のスケッチを
描くとするじゃないですか。
それは、その人に見えてるから描けるわけで。
- 清水
- うん。
- 糸井
-
でも、ぼくらには水に浮かんでいる氷が見えてないんですよ。
解像度が低い。だから、描きようがない。
- 清水
- 本当、確かにそう。
- 糸井
-
普通の人が意に介してないものを、
ちょっとピントを合わせて見てるんだよね。
- 清水
- うん、そうね。
(つづきます)