もくじ
第1回こう見えてますよ、がおもしろい。 2019-02-05-Tue
第2回なれなかった「誰か」のかわりに。 2019-02-05-Tue
第3回不幸になるような気がしない。 2019-02-05-Tue

駆け出しフリーライター。最近は、たくさん考えたいし書きたいと思うまいにちを過ごしています。

清水ミチコさんのおもしろさ、</br>どこから来るんでしょうか?

清水ミチコさんのおもしろさ、
どこから来るんでしょうか?

担当・いちかわあかね

第2回 なれなかった「誰か」のかわりに。

糸井
清水さんは、文章も面白いんですよ。
「このくらい書けるようになりなさい」って、
社内で言ったことありますよ。
清水
本当?
糸井
うん。前にほぼ日で文章を書いてくれたとき、
いつもいいなあ、と思ってた。
清水
わあ、うれしい。
糸井
清水さんにとって、文章はどんなものなの?
清水
ブログは、寝る前に書くとスッキリした気持ちで
一日を終われるので、
トイレみたいな感じですかね(笑)。
糸井
でも、何も思わないで生きてたら、
文章は書けないじゃないですか。
だから、きっと思ってることの分量は多いよね。
清水
うん。多いと思う。
 
高校のときには、
もう自分の「面白ノート」っていうのがあって。
糸井
へぇー。
清水
そこにエッセイとかを書いて「今回も書いたけど、読む?」って
人に見せてた。
それで友達が笑ってくれたら、もうすごい幸せ、みたいな。
糸井
ああ。話を聞いてると、似てるんですよね。
生い立ちというか成り立ちが、さくらももこさんに。

清水
ああ。ちょっとそうかな。
糸井
「あいつがこうしたな」とか、「あ、おかしいことしてるなあ」
とか見て思ったことを、おもしろおかしく描くの。
清水
それで、本人も幸せっていうね。
糸井
そうやって、周りの人がおもしろがったのが原点?
清水
そうですね、うん。
糸井
俺は、それはなかったなあ。
清水
あ、ないの?
糸井
漫画とかを描いて回すみたいなこと、少しはしてるんですよ。
してるんだけど‥‥。
お客さんがつかめなかった(笑)。

清水
ははははは(笑)。
芸人だったらダメな言葉だね(笑)。
糸井
小学校のときは、自分より面白いやつに憧れてた。
 
中学とか高校で、エレキを買って練習してたときには、
勉強も音楽もまったくできない同級生が
いきなり上手く弾き始めて。
それを見て「俺の努力は何だったんだ」って思った(笑)。
清水
俺、あいつに負けてんだっていう(笑)。
糸井
中学デビューとか、高校デビューだったんだよね。
 
負けてるどころじゃなくて、
あいつは俺が登れない山の上で逆立ちしてるよ、と思った。
清水
価値観がひっくり返ったんだね。
糸井
そう。
大人が言う「なんでも基礎をしっかりすればどうにかなる」
っていうので、俺、ピアノ教室も行ってたんだよ。
嫌でやめたけど。
清水
ふふふふふ(笑)。
糸井
でも、基礎をしっかりやることの延長で、
ビートルズとか弾ける自分になれるかというと、
それは大間違いで。
清水
うんうん。
糸井
それは、今の自分に影響を与えてますね。
 
自分が守ってた価値観の遠く先にあった夢を、
今日の明日で叶えてしまう人を見たっていうのは。
清水
それでいうと、私は10代の頃に
矢野さんたちにすごい感銘を受けたから、
どこか悔しかったんですよね。
「私が矢野顕子になるはずだったのに」みたいな。
 
……何という自信なんですかね(笑)。

糸井
でも、その不遜な心って大事かもね(笑)。
清水
今でも、
「もうちょっと頑張ったらなれるんじゃないか」って
思ってる自分がいるの。
 
「基本ができてないだけで、もう少しやれば……」
とか、変な希望みたいなのがあるんですよね。
糸井
じゃあ同じ道で、矢野さんが振り向いたら後ろに清水がいた、
ぐらいの場所にいるわけだ。
清水
いや、それはいない。全然。
糸井
でも、遠くに見えるっていうぐらいにはいるんじゃない?
清水
全然。もうレベルが違います。
音感とか指の動きとか、何から何まで。
糸井
アッコちゃんと普通にしゃべることは
できるんじゃないですか? 
清水
いや、そうでもないです。
嫌われたくないっていうのが強過ぎて、
よく噛む(笑)。
糸井
本当?
清水
「普段もっと面白いんですけどねえ」って
心のなかで思いながら、自分を叩くんだけど、
何も出てこない(笑)。

清水
でも私、「自分の歌を聞いて」って全然ならないの。
ただ、「私が演じる誰かを聞いて」っていう気持ちには
すごいなる。
 
モノマネは、自分がこれを表現したいってものがない人の方が
得意かもね。
糸井
その人の代わりに歌ってる。
清水
そう。
「その人の代わりをやるから、面白がって」
っていう気持ちが強いと思う。
糸井
そうだ、前に井上陽水さんもやってたよね。
清水
うんうん。
糸井
無理だろ、普通に考えたら(笑)。
清水
今考えたらそうだね(笑)
糸井
今と昔で、真似する人は変わってる?
清水
30代を超えてから増えたのは、瀬戸内寂聴さんぐらいで、
あんまり増えてないなぁ。
私は10代のときに影響された人のモノマネをしてるから、
そこ止まりで。
糸井
10代のときに夢中になった人の真似ができるってことは、
それを受け止める当時の感受性が……。
清水
そうそうそう。
歌で泣いたり、一緒に喜んだりしてた。
糸井
ということは、最近流行ってる歌手のモノマネしてくださいって
言われたら、そんなに上手くできないのかな。
清水
そうですね。よくわかりますね。
 
安室奈美恵さんがやめるってなったときも、
ファンの気持ちになって号泣しようとしたんだけど、
できなかった(笑)。
糸井
今の世代に清水ミチコがいたら、
安室奈美恵さんのモノマネができてるだろうね、きっと。
清水
うん、そうだと思いますね。
糸井
見えたり聞こえないと、できないんだよね。
 
絵描きさんが、水に浮かぶ氷のスケッチを
描くとするじゃないですか。
それは、その人に見えてるから描けるわけで。
清水
うん。
糸井
でも、ぼくらには水に浮かんでいる氷が見えてないんですよ。
解像度が低い。だから、描きようがない。
清水
本当、確かにそう。
糸井
普通の人が意に介してないものを、
ちょっとピントを合わせて見てるんだよね。
清水
うん、そうね。

(つづきます)

第3回 不幸になるような気がしない。