もくじ
第1回表現を仕事にするってなんだろう 2019-03-19-Tue
第2回自分で選び、続ける才能 2019-03-19-Tue
第3回目に映る世界すべてがデザイン 2019-03-19-Tue
第4回私のこたえ 2019-03-19-Tue

ちゃんとした広報になりたくてじたばたしている広報担当者です。食べて、寝て、エンタメ見たら大体元気になります。最近「幸せのへハードルが低い」と友達に言われたことが自慢です。

表現を仕事にするって?

表現を仕事にするって?

担当・あおね

第2回 自分で選び、続ける才能

まき
いやぁー緊張するー!
いつも通りでお願いします。(笑)
まきちゃんはさ、ピアノをいつから始めたの?
まき
最初は4歳くらいかな。
友達に誘われたのがきっかけで
音楽教室の体験コースに行ってみたら楽しかったの。
体操とか色々な習い事の体験に行ってたんだけど
あまり楽しくなくて、子供ながらに
毎週行くのはめんどくさいって思ってたの。
だけど、ピアノは最初から楽しかったんだよね。
へぇー!
じゃあやっぱり、その時から
ピアノに対して、ちょっと違ったんだ。
まき
その時は「他とは違う」みたいのはなくて、
グループレッスンだったから友達に会うのも楽しかった!
練習は嫌いだったけど。(笑)
行って、友達に会って
弾いたりするのが楽しかったんだよね。
始めて、ピアノ人生で一番忙しかったのはいつ?
まき
小学生が1番忙しくて。
放課後に遊んだ記憶って全然ない。
学校終わると親が車で迎えにきて、
その中で、なにか食べながらレッスンに向かって、
夜帰ってきてみたいな生活が多くて。
運動場にある大きな滑り台で遊べるのって、
授業参観後に、親が保護者会にでているから
それを待っているときだけって感じだったね。
そうか。
でも、まわりの友達は遊んでるわけじゃん?
よく嫌にならなかったよね?
まき
嫌になったことは沢山あるんだけど、
辞めようとは思わなかったんだよね!
なんでだろ(笑)
今までで「もう無理だ!辞めよう!」って
瞬間はなかったの?
まき
練習が嫌で裏山に逃げたとかは、
何回もあるんだけどね。
あったね、そんなこと(笑)
まきちゃんのお母さんから
「うちの子行ってませんか?」って連絡があって。
まき
その時私は、裏山に逃走していた(笑)
でも、なぜか辞めなかったね。
普通の子供の習い事よりも、
もう一歩深いところでやってたわけだよね。
まき
親にも続けることを強制されたことはないんだよ。
楽しかったんじゃないかな?
その頃は、人前で弾く怖さとかもなかったし。
今は怖さとか色々あるけど。
ただ楽しいって思えてた。
それだけかな。
もちろん、コンクール落ちて悔しいとか、
先生が怖いとか、上手く弾けないとかあったけど…
やっぱり楽しかった尽きるのかもね。
「楽しい」で続けてこれるのって結構すごいよね?
まき
「ここで絶対成功しないと」みたいのがないからこそ、
なんとなく続けてこれたんじゃん?
ピアノをやったことがない私が
すごく基本的なことを聞くんだけど、
ピアノは何が楽しいの?
まき
練習は嫌だけど、本番で弾くのは楽しかった。
なんかこんなこと言うの恥ずかしいけど…
部屋とかじゃなくてホールで弾くのがすきで。
舞台袖からピアノの所まで出る瞬間がすき。
弾いてるとき、自分が何か別のものに
変身している気分になれるのが楽しい。
自信ない時とか、弾けてないときも、
もちろんあるんだけど。
ふっとまわりを見渡した時に、
お客さんの姿はこちらから見えなくて、
蓋があいたピアノの中にスポットライトの光が
キラキラ反射しているのを見るのは今でもすき。
まあ、余裕があるときにしか見れないけど(笑)
そこに立つ人しか見えない景色だ。
じゃあ、「この演奏を誰かに届けたい」とか
思ってたりしないの?
まき
うん。そういうんじゃないかも。
自分のため。
「ピアノが人生の一部です」とか
「ピアノがなきゃ生きていけません」とかも
全然思わないんだよね。
こんなに、ピアノ中心でやってきてもそうなんだ。
まき
だって私がピアノやってもやらなくても、
人に影響ある訳じゃないし。
誰かに頼まれた訳じゃないし(笑)
でも、スポーツとかの競技生活と違って
年齢で限界が見えるわけじゃないから、
長い目で見れば続けていきたいよね。
まだやりたい曲もあるし…
やりたい曲がある!?どういうこと??
音楽をやったことない私には知らない感覚だ。
まき
そう、弾ける弾けないじゃなくて、
死ぬまでに弾いてみたいなって曲もある。
聴いてて大好きな曲だから「自分もやりたい!」って
すごく単純な感じ。
仕事じゃないから「いつまでに」とかがないし、
いつかやれたらいいなっていうのは色々あるよね。

こんなにやってたら
「私にはピアノしかない」とか思うもの?
まき
ううん、全然ない。
「これしかない」ってほど、極めてるとは思ってない。
じゃあ続ける理由である「楽しい」が
なくなってしまった時とかってあるの?
まき
高校も音楽科に通うんだけど、
思春期なこともあって、
ちょっとノイローゼ気味になったりもした時かな。
入学して、エリートしかとらないっていう
先生の門下生になったんだけど、全然ついていけなくて。
高二の時に「定期演奏会」っていうのがあったんだ。
その先生の門下生は、
その代表に選ばれて当たり前って感じなんだけど、
私は落ちゃって。
親も先生も誰も責めなかったけど、
自分は落ち込んじゃって。
家に帰りたくなくて最寄り駅の階段で
2時間くらい座ってたの。
やめることが頭をよぎったりしたんだよね。
あの何もない駅で?ひとりで?
同じ駅なんだから言ってよ!
でも、それをどう抜け出せたの?
まき
その先生はもちろんだけど、
ほかに小学生の頃から教えて貰ってた先生とかも
すごい助けてくれたりしたの。
本当は、他の門下の生徒は見ちゃいけないんだけど、
こっそり見てくれたりして。
そのおかげで続けられたんじゃないかな。
その人たちがいなかったらダメだったかも。
ピアノはやってたかもしれないけど、
学校は辞めたりとかしたかもね。
それを越えて、進学先に音大を選ぶわけだよね?
まき
そうなんだよね。
音楽コースを卒業して、
普通の大学で音楽以外を勉強する人もいるのよ。
でも、私は音大に行きたかったんだよね。
音楽を学び続けたかったんだね?
まき
そんな大層なものじゃないかも。
なんとなくなんじゃないかな。
選ぶとかじゃなくて当たり前だったのかも。
他に選択肢があるとか思わなかった?
まき
あんまり思わなかったね。
第1志望には行けなかったけど、
進学先もやっぱり楽しくて。
友達も沢山出来て、演奏会にも出れて。
楽しい大学生活だ!
まき
そう。
でも、大学卒業したら海外に留学しようか、
大学院にいこうか迷ってて。
とりあえず、日本の大学院を出ようって思ったら、
その入試の前日に手を壊したんだよね。
それからがやっぱりキツかった。
折角、寮に入って2年間弾ける環境があるのに、
右手がほとんど使えなくなっちゃったから。
あれ、入試の前日だったんだ。
まき
そう。
なんかうまく動かないっていうのから始まった。
病名はジストニアだったよね?
(局所性ジストニア:脳の運動をつかさどる分野の障害で、
体の一部分だけが不自然な姿勢をとり、
思うように動かなくなる病気。)
まき
そう。痛みとかはなくて動かしにくいの。
ピアノ弾く時だけ指が1本まるまっちゃって、
細かい動きができない。
とはいえ、やるしかないから入試はなんとか弾いて、
でも、いざ春から学校生活はじまったら、
事情を知らない先生が見たときに
「ふざけてんのか」みたいになっちゃって。
つらいね。
思い通りにならないんだもんね。
まき
とにかく弾けないっていうのがしんどくて。
今まで、上手い下手とかじゃなくて
「弾けない」っていうのがなかったからね。
演奏会とかで無理矢理弾いても、
アンケートで知らない人に
「ピアノが下手くそだった」とか書かれて。
すごいしんどかったな。
今は良くなってるし支障はなくなったけど。
でも、しんどい思いもしながらも辞めなかったね。
まき
それはもう意地だった。
病気になったからって離脱したくなかった。
ここであきらめてたまるかって。
まわりには言ってたの?
まき
うん。隠すつもりは全然なかった。
そのことで、新聞取材を受けたこともあるんだけど、
表立って「私は病気だけど頑張って弾いてます」みたいのは
あんまり好きじゃなかったかな。
取材以降、Facebookとかに知らない人から、
メッセージがくるようになったけど。
「ごめんなさい」と思いながらそのままにしてたね。
それは同じように病気の人とか?
まき
そうそう。
もちろん、そうじゃない人もいたけど。
隠すつもりはないけど、
過剰にアピールするのは嫌いだったから。
私はそのままでいたかったんだよね。
周りが見捨てずに
「出来ることを一緒にやろう」って声掛けてくれたり。
それはありがたかった。
そうだね。
振り返ってみても、私が知っている中で
あのときが一番が荒れてたって思う。
まき
ですよね(笑)
あんとき、本当にめんどくさかっただろうなって思う。
人生のほとんど一緒にいたらお互い、
めんどくさい時期もあるよね(笑)
だって、荒れて当たり前のことが
起こっていたんだもんね。
まき
でも、そこで初めて「辞めたら負けだ」って思ったのかも。
いままでは好きで続けてきたけど?
まき
それからは意地でやってきた気がする。
ずっとピアノを弾いてきて、
仕事にしていきたいって思ったのはいつ?
まき
それは割と前からかな。
昔は、あんまり子供が好きじゃなかったから
ピアノの先生になるのは向かないなって思ってたけど、
実際にやってみたらすごい楽しくて。
自分の生徒がすーっごく可愛くて!
印象的だったのは、
父親と小さな娘が一緒に習ってた人とかいて。
珍しい組み合わせだね。
まき
父親には、彼が好きな曲を何曲か教えてたんだけど。
私が辞める時に、最初の頃に教えた曲を
「最後にこの曲を聞いて欲しいので、
いままで楽譜見ながら弾いてたのを暗譜してきました!」
って言われて。
へぇー!
ちょっと私まで泣きそう。
まき
本当に今まで「暗譜なんて出来ません」って
タイプだったから、それを見て私はもう号泣して。
それは感動するわ。
まき
あとは高3の生徒で、
親はもう受験に専念して欲しいんだけど、
「先生とレッスンするのが楽しいから辞めたくない」
っていってくれてた子がいて。
その子も最後、親と一緒にきて
「私の得意な曲を聞いてください」って
泣きながら弾いてくたの。
それも感動した。
良い出会いだったね。
まき
なんか偉そうだけど、
生徒に影響というか、
何かひとつでもあげられてたのかなって思ったときに、
自分の中で考え方がちょっと変わったかも。
ちょうど、手を壊してた時期だったから、
自分がしてあげられることなんて、
何もないと思ってたんだよね。
でもその時に、誰かに期待されなくても、
またこういう経験出来るかもしれないし、
もう少しやってみようかと思った。
そういうことを繰り返しながら続けてきたんだねぇ。
改めて聞くと面白いね。
その、人に教える面白さと、人前で弾く楽しさは全然別?
まき
ぜーんぜん別物!
正直、人に教えるのって、
つまんないんだろうなって思ってたの。
でも、やらないとお金稼げないから
「やってみるか」って感じで始めたら、案外おもしろくて。
生徒はおじいちゃんから赤ちゃんまでいたけど、
みんなそれぞれ面白かったね。
すごいと思うのが会社とかに属さないし、
全部自分の力とかスキルでやっていくわけだよね?
会社員とはまたちょっと違うよね。
まき
まーねー。
お金欲しかったら続けていけないわよ。(笑)
じゃあ、それはやりたい気持ちが勝ったんだ?
まき
そうなのかもねぇ。
やっぱり好きが1番だったのかも。
インタビューだから、
「あなたにとってのピアノとは」とか
聞かれるかと思って考えたんだけど、
ほんっとうにわかんないね。
いつか分かるのかな?
まき
死ぬ時かな?
死ぬまでやってるかわからないけど(笑)
でも気持ち的には、
職業としてじゃないとしても死ぬまで…
まき
そう!
なんとなく、触っていきたいって思ってる。
私は子育てもしているから、
子供を優先したいし、
ピアノを弾く人として「こうであるべき」とかはないけど、
いままでやってきて無駄だったことは1個もない。
「こうじゃなければ」とか
「こうすれば良かった」ってことはないと思ってる。
大した人生なわけじゃないけど、
無駄なことは全然ないじゃん、
私の人生上々じゃんって思う。
良いことも、大変だったことも全部ひっくるめてね。
まき
そうそう。
何か起こっても、
受け入れていったらいいと思ってるから。
そういうすべて引き受けながら、
続けてこれるって才能だよね。
まき
本当、周りの人に恵まれてたんだと思うよ。
あとは、好きって気持ちがあるから、
辞める勇気もなかったんじゃないかな、結局。
でも、こうやってインタビューされると
自分がピアノに対して「こう思ってたんだ」っていうのを
初めて知った気がして面白いね。
第3回 目に映る世界すべてがデザイン