着るものをつくるイトコ
担当・山下雄登
第3回 着物とはなんだろう
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-
着物ってそもそも
どうつくっているんだっけ。
- キサブロー
-
反物という約12メートルの生地を
一人用の服に仕立てていくんだけど、
すべて直線だけで切ってるのね。
洋服は、体の形に合わせて
生地を立体的に丸く切っていくんだけど。
着物は直線にしか切らなくて。
だから着物をほどいて、つなぎあわせると
また反物にきちんと戻る。
- ——
-
ああ。
- キサブロー
-
戻すことによって、
別の人のサイズに合わせて
つくり変えることができるという服で。
洋服はそれが難しい。
曲線で切ると、どうしても小さな残布が出て、
もう一度生地に戻すことがとても難しいのね。
一方、着物は再利用前提にしてつくられている服で。
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昔は、反物も
大量生産できるものじゃ
なかっただろうしね。
- キサブロー
-
そういう秘めたおもしろさが着物にある。
でも今の日本人はほとんど知らない話で。
- ——
-
知らない知らない。

- キサブロー
-
そういうことを知ると、
着物の見方も変わってくると思うのね。
おじいさんが着てた着物も
自分用につくり直せるんだとか。
派手な柄や豪華な刺繍に
目が行きがちなんだけど、
もともとそういう衣服だったんだ
っていうおもしろさも
表現して伝えていけたらなあと。
- ——
-
実際に古い着物を再利用して
つくったことはある?
- キサブロー
-
おばあちゃんが着てた着物に
結構かっこいいのがあって。
おばあちゃんは150cmぐらいの身長なんだけど、
おはしょりをして着てたから、
生地の余りが結構あったの。
- ——
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おはしょり?
- キサブロー
-
女性は着物をつくるときに、
身長150cmだとしたら、
150cmの長さの着物をつくるのね。
でも、そのままじゃ大きいでしょ。
それを帯の下で
折り返して段差をつくる。
それが、おはしょり。
- ——
-
へえ。
- キサブロー
-
男性はおはしょりをしないで着る。
対丈(ついたけ)っていって。
わたしのほうがおばあちゃんより
身長高いからおはしょりぶんを
対丈に仕立て直して
わたしが着てる。
- ——
-
へえ。
ほかのところも直したり?
- キサブロー
-
ほかのところも直すんだけど、
内側のいろんなところに
余分な生地をしまいこんでるのね。
それを出して使うことができるの。
- ——
-
つくり直すことを想定しているんだ。
- キサブロー
-
裾が汚れたときも
“あげ”という場所から生地を出して、
汚れた裾を切って、きれいに直せる。

- ——
-
着物ってすごいんだね。
- キサブロー
-
すごい。でも、わたしはそもそも
着物が嫌いで否定する気持ちで
キサブローを始めたのね。
着物って古いし、現代の生活に合ってないし。
家が着物をつくる仕事で
どうしてこんなことをやっているんだろう
っていう疑問があって。
着物、着ないでしょ?
- ——
-
着ないね。
成人式でもスーツだった。
- キサブロー
-
人生の中で数回着るかどうかのものを
毎日つくるわけじゃん。
- ——
-
そうだね。
- キサブロー
-
たとえば江戸時代の人たちが
着物を着てるときって、
洋服と対峙するようなものじゃなくて。
古いものという意識で
着てなかったわけじゃない。
- ——
-
そうだね。
ぼくらは着物をひとつの
ジャンルとして捉えているけど、
昔の人にとってはただの服だもんね。
- キサブロー
-
そう、服だったの。
- ——
-
どこからどこまでが着物なんだろう?
- キサブロー
-
その話になってくるよね。
何をもって着物とするかみたいな。
- ——
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なんか、温泉の浴衣みたいに
右と左を合わせたら‥‥
- キサブロー
-
それもあるね。
左右を合わせて帯を締めて着る。
- ——
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穴に体を通すというよりは、
羽織るみたいな。
- キサブロー
-
巻きつけて着る。
それも着物のアイデンティティのひとつ。
だとすると別に洋服の生地を
使ってもいいじゃない。
着物に使う生地も自由な選択肢があっていい。

- ——
-
着物業界の人たちからすると
生地といえばこういうものだってのはあるの?
- キサブロー
-
代表的なのは絹や綿、麻。
それぞれ日本で織られて染めている反物を
着物と呼ぶことが多い。
でも今はデニムの着物や
ポリエステルの着物もある。
- ——
-
それらを着物といわせるためには、
着るときのフォーマットが着物風?
- キサブロー
-
そうだね。
着る様式が、着物。
じゃあ逆に生地は着物だけど、
形がいわゆる着物じゃなかったら、
それはなんなのだ
みたいなこともあるじゃない。
なにをもって着物とするかは、
人それぞれの解釈があっていい。
- ——
-
なるほど。
- キサブロー
-
とにかくルールはない。
着物とはなんだろうって考え、
着物の可能性を探るために
キサブローでは既成の着物像を
崩していきたいんだよね。