もくじ
第1回わたしが羽生さんくらいの気持ちで 2019-03-19-Tue
第2回着るもので変わる 2019-03-19-Tue
第3回着物とはなんだろう 2019-03-19-Tue
第4回喜三郎とキサブロー 2019-03-19-Tue
第5回まず着れないものをつくる 2019-03-19-Tue

アボカドの木と暮らす日を夢見るカメラマン。食うためのしごとは、執筆と編集。手づくりのウマいハンバーグを食べると、よく涙がこぼれます。

着るものをつくるイトコ

着るものをつくるイトコ

担当・山下雄登

第3回 着物とはなんだろう

——
着物ってそもそも
どうつくっているんだっけ。
キサブロー
反物という約12メートルの生地を
一人用の服に仕立てていくんだけど、
すべて直線だけで切ってるのね。
洋服は、体の形に合わせて
生地を立体的に丸く切っていくんだけど。
着物は直線にしか切らなくて。
だから着物をほどいて、つなぎあわせると
また反物にきちんと戻る。
——
ああ。
キサブロー
戻すことによって、
別の人のサイズに合わせて
つくり変えることができるという服で。
洋服はそれが難しい。
曲線で切ると、どうしても小さな残布が出て、
もう一度生地に戻すことがとても難しいのね。
一方、着物は再利用前提にしてつくられている服で。
——
昔は、反物も
大量生産できるものじゃ
なかっただろうしね。
キサブロー
そういう秘めたおもしろさが着物にある。
でも今の日本人はほとんど知らない話で。
——
知らない知らない。

キサブロー
そういうことを知ると、
着物の見方も変わってくると思うのね。
おじいさんが着てた着物も
自分用につくり直せるんだとか。
派手な柄や豪華な刺繍に
目が行きがちなんだけど、
もともとそういう衣服だったんだ
っていうおもしろさも
表現して伝えていけたらなあと。
——
実際に古い着物を再利用して
つくったことはある?
キサブロー
おばあちゃんが着てた着物に
結構かっこいいのがあって。
おばあちゃんは150cmぐらいの身長なんだけど、
おはしょりをして着てたから、
生地の余りが結構あったの。
——
おはしょり?
キサブロー
女性は着物をつくるときに、
身長150cmだとしたら、
150cmの長さの着物をつくるのね。
でも、そのままじゃ大きいでしょ。
それを帯の下で
折り返して段差をつくる。
それが、おはしょり。
——
へえ。
キサブロー
男性はおはしょりをしないで着る。
対丈(ついたけ)っていって。
わたしのほうがおばあちゃんより
身長高いからおはしょりぶんを
対丈に仕立て直して
わたしが着てる。
——
へえ。
ほかのところも直したり?
キサブロー
ほかのところも直すんだけど、
内側のいろんなところに
余分な生地をしまいこんでるのね。
それを出して使うことができるの。
——
つくり直すことを想定しているんだ。
キサブロー
裾が汚れたときも
“あげ”という場所から生地を出して、
汚れた裾を切って、きれいに直せる。

——
着物ってすごいんだね。
キサブロー
すごい。でも、わたしはそもそも
着物が嫌いで否定する気持ちで
キサブローを始めたのね。
着物って古いし、現代の生活に合ってないし。
家が着物をつくる仕事で
どうしてこんなことをやっているんだろう
っていう疑問があって。
着物、着ないでしょ?
——
着ないね。
成人式でもスーツだった。
キサブロー
人生の中で数回着るかどうかのものを
毎日つくるわけじゃん。
——
そうだね。
キサブロー
たとえば江戸時代の人たちが
着物を着てるときって、
洋服と対峙するようなものじゃなくて。
古いものという意識で
着てなかったわけじゃない。
——
そうだね。
ぼくらは着物をひとつの
ジャンルとして捉えているけど、
昔の人にとってはただの服だもんね。
キサブロー
そう、服だったの。
——
どこからどこまでが着物なんだろう?
キサブロー
その話になってくるよね。
何をもって着物とするかみたいな。
——
なんか、温泉の浴衣みたいに
右と左を合わせたら‥‥
キサブロー
それもあるね。
左右を合わせて帯を締めて着る。
——
穴に体を通すというよりは、
羽織るみたいな。
キサブロー
巻きつけて着る。
それも着物のアイデンティティのひとつ。
だとすると別に洋服の生地を
使ってもいいじゃない。
着物に使う生地も自由な選択肢があっていい。

——
着物業界の人たちからすると
生地といえばこういうものだってのはあるの?
キサブロー
代表的なのは絹や綿、麻。
それぞれ日本で織られて染めている反物を
着物と呼ぶことが多い。
でも今はデニムの着物や
ポリエステルの着物もある。
——
それらを着物といわせるためには、
着るときのフォーマットが着物風?
キサブロー
そうだね。
着る様式が、着物。
じゃあ逆に生地は着物だけど、
形がいわゆる着物じゃなかったら、
それはなんなのだ
みたいなこともあるじゃない。
なにをもって着物とするかは、
人それぞれの解釈があっていい。
——
なるほど。
キサブロー
とにかくルールはない。
着物とはなんだろうって考え、
着物の可能性を探るために
キサブローでは既成の着物像を
崩していきたいんだよね。
第4回 喜三郎とキサブロー