小山内は、自分が思ったことをはっきり伝える。
わたしだったら、伝えた方がいいと思いながらも、
相手が傷つくことを恐れて曖昧にしてしまうようなことにも、
彼女は真摯に向き合い、多少厳しい言葉を使っても、
白黒をはっきりさせようとした。

わたしはそんな小山内のまっすぐな「やさしさ」を
目の当たりにして、自分にはできないことを
スルスルとやってのける彼女に憧れと尊敬の念を抱くとともに、
自分の「やさしさ」というものに対して、
すっかり自信をなくしてしまった。

本当は、あの「やさしい人」ランキングで1位に選ばれたときから、
薄々気付きながらも、考えないようにしていることがあった。
わたしの「やさしさ」はただの「八方美人」なのではないか。
わたしは自分の「誰かに必要とされたい」という
欲求を叶えるために、
誰かに「やさしく」しているつもりになっているんじゃないか。
これって、本当に相手のためになっているのだろうか。

そう考えれば考えるほど、わたしの考える「やさしさ」は、
その場その場を取り繕うような、短絡的なものに思えてくる。
例えば、わたしは、何かを相談されたときには、
きっとその子は悩んで落ち込んでいるのだから、
相手が欲しい言葉を先回りして考え、
それを渡してあげることが、
相手に寄り添える「やさしさ」なのだと思っていた。
けれど、それは本当の意味でその人のためにはならない。
何かを相談されたときに、本当に伝えるべき言葉も、
どこかではわかっていたと思う。
でも、それを伝えることによって変わってしまうかもしれない
その人の人生に責任を取るのがわたしは怖かった。
だから、当たり障りのない、誰に対しても害のない、
クッションのような言葉しか使えない。

一方で、小山内の言葉はある意味劇薬だ。
人を選ばず、合理的な意見をストレートに伝える彼女を
煙たく思っていそうな人がいなかった訳ではないけれど、
長い目で見て、わたしと彼女の言葉のどちらが
言われた本人のためになるのか、その答えは明らかだった。

そんなことばかりを考えていたとき、
わたしは一度、小山内のように
相手が欲しい言葉ではなく、
相手が向き合わなければならないことを
伝えるように意識して行動した時期があった。

結論から言えば、それは上手くいかなかった。
相手が求める言葉を探すことに慣れてしまったわたしは、
相手の抱える問題の本質を上手くつかむことができず、
つかめたとしても、それをはっきりと伝えることができなかった。
例えば、所属の決まった研究室を変えようか
悩んでいた友人に、話を聞くだけではなく、
決心するための背中を押すことが
本当の「やさしさ」だと思い込み、
その友人が所属していた研究室の批判をして、
無為に傷つけてしまった。

今までの「寄り添ってくれる人」としての役割を期待して
わたしに相談をしてきてくれた相手に
見当違いなアドバイスをしては、
変な雰囲気を作り出し、家に帰ってから
（あの時はこういうアドバイスをするべきだったのに‥‥）
と1人で反省会をしてはうじうじと悩んだ。

（つづきます。）