- お母さん
-
昔このゲームをやっていたときは、私たちもこういう…かたちのある家族だった。
でも今の私たちはかたちがあるようでないから…もちろんお父さん、お母さんの責任なんだけど、そんなことをした親がこのゲームを見て言っちゃダメだけど、うらやましいっていうか。寂しい。
ごめんね。私が泣いちゃって。
- ぼく
-
でも、離婚してからも、僕が高校を卒業するまでは、毎日ぼくがふたりに会えるようにしてくれたじゃない。
お父さんとぼくで暮らした時期、お母さんとぼくで暮らした時期、どっちの期間も、住んでないほうが絶対毎日家まで会いに来てくれた。
- お母さん
-
離婚しちゃってからも、「こどもたちの親でありつづけよう」とは、お父さんもお母さんもお互いに思ってたから。
ただでさえショックなんだから、少しでも変わらない生活をさせてあげたかった。
- ぼく
- そうしてくれたから、ぼくにとっては、『MOTHER2』のこの世界が保たれているように見えてたの。

- お母さん
- ともきは、やさしすぎるんだよ。いろんなシーンであったはずだよ。「両親が離婚してなかったら」と思ったことが。
- ぼく
-
うーん、お母さんを傷つけないために気を遣って言ってるとか、そういうことではほんとうにないんだけど…
でもまあ、一つだけ、ほんとうに一つだけあるかな。
なんというか…「帰る場所」がないってこと。
- お母さん
- そうだよね、そうだよね。両親が一緒に待ってる家がないんだもんね。
- ぼく
- そうねえ、「生まれ育ったあの家」とか、そういう物理的な意味じゃなくてね。今だってこうして帰省するたびにお父さんの家にもお母さんの家にも行ってるし、両親のもとへは帰れるんだけど…うーん、なんて言えばいいんだろう。
- お母さん
- 心でしょう? 「心が帰る場所」がないんでしょう?
- ぼく
-
ああ、うん。そうだな。
「心が帰る場所」は、少し見失ってるかもしれない。それだけは、ちょっと寂しいかな。

- お母さん
-
そうだよね。ごめんね。
でも、だから私、どうやったらそういう心の居場所を今から作ってあげられるかなと思うと、親としてできることは、やっぱり4人で集まることかなと思うんだよ。
- ぼく
- ぼくが成人したとき、一度提案してくれたよね。忙しかったりして、そのときは流れてしまったけど。
- お母さん
-
お父さんさえよければ、そういう機会が君たちのためにあったらいいんじゃないかと思う。君たちは、お父さんと私の子どもだから。
「大人になったよね、成長したよね」とか……そういう話をお父さんと、したい。
それで君たちの前で、お父さんとお母さんとふたりで、いっぱい褒めてあげたいし……ふたりの子どもの成長をふたりでよろこびあいたいし…っていうのは、今すごく…あるかなあ…

- お母さん
- 今日このゲームをやって改めて思ったけど、父と母と、子どもがいるあり方が、「一番充実した当たり前」だなって、最近ちょっと思ってたことでもあるんだよね。
- ぼく
- そっか。
- お母さん
- お父さんとあわなくて、喧嘩ばかりして、気持ちがダメになっちゃったっていう事実もあるんだけど、それでも、それでも今思えば、あの形でいることが一番幸せだったんじゃないかなって。
- ぼく
-
それは…すごくうれしいな。やっぱさ、子どもからしたらさ、幸せだったんだよ。あの4人の時間って。
なんというか…これ以上ない最強の4人だって、勝手に思ってた。
でもさ、あとからするといろいろ想像もできちゃうわけで。幸せに見えてたあの場所も、お父さんとお母さんにとってはしんどい場所だったのかなって。
- お母さん
-
もちろん、お父さんとお母さんのすれ違いはあったし、合うふたりではなかったんだと思うけど、やっぱり私のなかでは、あのときが一番幸せだったかなって、思う。
あのときがいちばん、よかった。あれを「しあわせ」と言うんだろうなって。
人は、ああいうふうにあるべきなんだろうなって。
それを私たちは崩してしまったんだけど。私なんかより君たちはもっとそれを思ってるだろうし、辛いだろうから…それが辛いかな。
- ぼく
-
でもやっぱりさ、ぼくも今年で26になるけど、いつまで経っても、どこまで行っても、結局あの4人が、ぼくの出発点なんだよね。
だからやっぱり、ぼくの人生にも、『MOTHER2』のこの家のような場所が、あるんだよ。「心の帰る場所」が。
もうかたちはないかもしれないけど、実際に帰ることはできないけど、胸のうちで、そのあたたかさを思い出せるんだから。

- お母さん
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胸のなかにしかないのが、かわいそう。
でも私にも、この4人になる前、生まれ育った家族がもちろんあったわけだけど、私も、「心が帰る場所」はこの4人かもしれないね。比べたりするものじゃないと思うけど。
- ぼく
- お母さんの「心が帰る場所」も、ぼくら4人なの?
- お母さん
- そうだよ。わかってなかった?
- ぼく
- だって、お母さんだって、母親である前に一人の女性、人間だったわけだし…。
- お母さん
-
たぶん、「母親である自分」がいちばん、楽しかったんだろうね。私自身。
やっぱりいちばんいい時期だったよ。私にとってね。
なんで今そう思うんだろうね、やんなっちゃうね、もう(笑)。
でも、親になったら、きっとわかるよ。

- お母さん
- いやあ、やっぱり『MOTHER2』をやるとこういう話になるんだね。
- ぼく
- そうだね。でも、この画面で止まっちゃうっていうのは、ぼくとお母さんが『MOTHER2』をやるうえでは、すごく自然なことだったんだなって、話てみて思ったよ。
- お母さん
-
この家族のあったかさを見たらね、昔4人でいたころを思い出してしまって。
ドンピシャだね。やーばっ!
でもまあ、好きに、正直に書いてください。がんばってね!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
(おわり)