もくじ
第1回「ノルウェーで深呼吸」 2019-02-26-Tue
第2回「寡黙なイタリア人の背中」 2019-02-26-Tue
第3回「僕が空港を好きな理由」 2019-02-26-Tue
第4回「人生の転機と羽田空港」 2019-02-26-Tue

1991年生まれの関西人。今は島根県の離島で暮らしています。得意料理はだし巻き卵で、好きな場所は空港のターミナル。

僕の好きなもの</br>空港

僕の好きなもの
空港

担当・山野靖暁

第3回 「僕が空港を好きな理由」

ローマでの本場のサッカー観戦、
ギリギリまで追い込まれた大学の試験など、
たくさんの思い出とともに、僕はノルウェーでの
約1年間の留学生活を終えて、日本に帰ることになった。

不思議と、名残り惜しいという感じはあまりなくて、
むしろ1年ぶりに日本に帰ることが楽しみで仕方なく、
早く納豆と、熱々のごはんを食べたいとさえ思っていた。

Facebookなど、SNSでノルウェーの友人とも
すぐに連絡が取れるという感覚があったし、
実際日本に遊びにきてくれて再会した友人も多い。

SNSなどで手軽に連絡を取ることが難しかった時代だと
帰国の感覚も随分違ったりしたのかなあと
ぼんやり思いながら、僕は1年前と同じルートで、
アムステルダムを経由し、関西空港に帰ってきた。

たしか帰国は梅雨のど真ん中、6月の下旬くらいで、
空港の玄関口は、1年ぶりに感じるジメジメとした
蒸し暑さがただよっていた。

この蒸し暑さを好きだと思ったことなんて、
たぶん一度もなかったけど、このときばかりは
「ああ、日本に帰ってきたんだなあ」という
安堵感と、嬉しさを噛み締めるような気持ちだった。

1年間、長い旅をするような挑戦ができたのも、
きっと帰る場所があるからなんだろうなあと
空港の玄関口で、大量の荷物とともに感傷に浸った。

そして不安と焦りに、少しのワクワク感が混じった
1年前の気持ちを、僕は思い出していた。

旅に出る前のワクワクする気持ち、
無事に帰ってきてホッと安心する気持ち、
新しい挑戦への不安や焦り、
大切な人との再会を喜ぶ気持ち、
逆に、別れを惜しむ気持ち、

空港という場所は、そんなたくさんの感情が
ときには大きく溢れ、ときには小さく静かに
生まれている場所なのかもしれないなあと、
僕はふと感じた。

そして僕が空港を好きになった原点は、
この瞬間にあったような気がしている。

そのときどきに生まれたり、溢れたりした
感情や気持ちが、今の自分や、未来の自分を
いつかどこかで、勇気づけてくれることが
きっとあると思う。

なんてことまで、当時の自分は思っていなかった
かもしれないけれど、僕の空港という場所に対する
気持ちは、次第に変わっていった。

第4回 「人生の転機と羽田空港」