もくじ
第1回「ノルウェーで深呼吸」 2019-02-26-Tue
第2回「寡黙なイタリア人の背中」 2019-02-26-Tue
第3回「僕が空港を好きな理由」 2019-02-26-Tue
第4回「人生の転機と羽田空港」 2019-02-26-Tue

1991年生まれの関西人。今は島根県の離島で暮らしています。得意料理はだし巻き卵で、好きな場所は空港のターミナル。

僕の好きなもの</br>空港

僕の好きなもの
空港

担当・山野靖暁

第2回 「寡黙なイタリア人の背中」

19歳の僕の北欧での留学生活は、
けっして順風満帆というわけではなかったが、
半年くらい経つころには、語学力も上達し、
少しずつ手応えを感じるようになっていた。

北欧でハタチを迎え、地元の成人式に行けなかったのが
心残りだったけれど、大学の休みを見つけては
ヨーロッパ各国を飛行機で飛び回っていた。

お金の余裕はなかったが、ノルウェーからロンドンまで、
5000円弱で行けるほど、ヨーロッパは飛行機が格安で、
当時の僕は大学の勉強もほどほどに、貧乏旅行を続けた。

そして、たくさんの国を飛び回るうちに、
僕にとって、空港のターミナルにいる時間は、
電車のホームにいる時間と、さほど変わらないような、
そんな感覚に変わっていた気がする。

ただ、そんな風に気持ちだけは大きくなるけれど、
学生の貧乏旅行であることに変わりはなく、
いつも旅先の宿をどうするか、というのが、
空港で飛行機を待つときの悩みの種であった。

これには色んな作戦を立てたが、その一つがヨーロッパの
他の国からノルウェーに留学に来ている友人の帰省に合わせて、
その国に出かけ、実家に泊めてもらうというものだった。

その作戦が功を奏して?訪れたのがローマで、
「モウリツィオ」というイタリア人の友人がお伴してくれた。

このモウリツィオは、たしか僕より5つほど年齢が上、
陽気なイタリア人のイメージを大きく覆す寡黙な人で、
ときどき、僕に赤いマルボロの煙草をくれた。

そしてこれまた余談になるけれど、
彼のつくるジェノベーゼ(バジルの効いたパスタ)は、
本当に絶品で、今でもイタリアンのお店に行くと、
ついジェノベーゼを頼んでしまう。

そんなモウリツィオとともに、
ローマのフィウミチーノ空港に到着すると、
彼の弟が車で空港まで迎えにきてくれていた。

そしてモウリツィオは、空港の駐車場で

「チャオ!」

というイタリア語の軽快な挨拶とともに
久しぶりに会った弟と、僕が想像していた以上の
熱いハグを交わして、再会をとても喜んでいた。

普段寡黙な彼とのギャップに、少し驚きを感じながら、
僕はなんだか、隣でとても嬉しいような
あったかいような気持ちになった。

何でもない風景なのかもしれないけれど、
あのとき、空港で見たモウリツィオの背中を、
僕はなぜかよく覚えている。

そして空港を後にした車は、ローマ市内に向かう
高速道路に入り、僕は日本にいる友人や、
家族の顔をぼんやりと思い浮かべていた気がする。

第3回 「僕が空港を好きな理由」