- 糸井
- 原稿を直されたりとかっていうのを新人のときにはするけど、そういうやりとりはあったんですか。
- 燃え殻
- ああ、ありました。
- 糸井
- それはどうでした?
- 燃え殻
- 女性の編集の方だったんで、男としてはアリっていう表現を、「女性は嫌悪感があります」と。
- 糸井
- ああ。
- 燃え殻
- そういうものに関しては、バッサリ捨てました。そこに関してはその方の感覚を信じたいというか。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
- 主人公が唯一自分のことよりも好きな彼女がいると言ってるのに、途中でスーという別の女の子が出てくるんです。で、その子といい感じになる。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
- 「女子は引きます」と。「女子引くっつっても、男としてそういうすごい好きな人がいても、まあ、あるっちゃあるんだよねえ、ハハ」、「ハハじゃねえよ」みたいな(笑)。で、スーっていう子との直接的なセックスシーンみたいなところは・・・
- 糸井
- ないない。
- 燃え殻
- 全部切ったんです。
- 糸井
- だから寂しかったのか。

- 燃え殻
- 切っちゃったんですよねえ。
- 糸井
- うん、たぶん今、本を作るっていうのは、作品を出すっていうことと商品を出すということの二重の意味があって。女子が引くなら引くで、引けよってのが作品じゃないですか。
- 燃え殻
- ああ。
- 糸井
- でも、「女子が引くんです。」「あ、そうですよね、汚れに見えますもんね」と言って、「きれいにしましょう」って拭くのが商品じゃないですか。
- 燃え殻
- ああ、これ言っちゃったの、すごい怒られるかもしれない。新潮社の人来たらどうしよう(笑)。
- 糸井
- でも、その商品性みたいなのを丸々否定するわけにはいかないし、女性が引いちゃうのを、それはやめてでも伝わるものを出したいんだったら、それはバランスの問題だから。
- 燃え殻
- そう、だから、書いていて気持ちいい部分をいろんな人と共有したいってのが一番だったんで。他の部分というのはこう、それを補強するものなんですよね。
- 糸井
- うんうん。
- 燃え殻
- だとしたら、「多くの人に読まれる道ってのはこっちじゃないですか?」と指摘されたものに関しては、「じゃ、そっちの道で考えます」っていう形で商品としてのバランス取りをしたという感じなのかな。
- 糸井
- やっぱり世の中の物事は、作品と商品の間を揺れ動くハムレットなんじゃないの?結婚は愛じゃないとか言う人っているじゃないですか。
- 燃え殻
- いますね。
- 糸井
- 事業だとかさ。で、「そういう人とは一緒になんないほうがいいわよ」って忠告するのは、商品として完成しなさいって話じゃない。
- 燃え殻
- うん。
- 糸井
- 恋愛のまま突き進んでいって失敗する人というのは、作品が売れなくなって大変な思いをするって人。両方ありますよね。
- 燃え殻
- ありますよねえ。
- 糸井
- だから、作品と商品の、自分が気持ちいいかと、みんなに伝わるかと、のバランスみたいなのはあるんじゃないでしょうかね。
- 燃え殻
- ああ、ありますね、絶対。難しいですけど、バランスがいいとうれしいなって思う。
- 糸井
- そうですね。
- 燃え殻
- うれしい、ですね。

- 糸井
- うん。でも、バランスをよくする方法というコツを探そうとすると、実はバランスを壊すんだと思うんだよね。
- 燃え殻
- うんうん。
- 糸井
- バランスをちゃんととるためには、バランスのことを一生懸命考えるんじゃなくて、入れ物の大きさを変えちゃうとか。何でも放り込めば、自然にバランスを取らざるを得ないんで、安定するとか。みたいなことを考えるようになった。
- 燃え殻
- へえ。
- 糸井
- 何でもありって本当にみんな受け入れちゃえばOKみたいな。あ、なんか、年上の人からのお話みたいになっちゃった(笑)。
(つづきます)