- 糸井
- 燃え殻さん中学生のとき、学級新聞みたいな壁新聞を毎日書いてたと聞いたけれど。
- 燃え殻
- はい。
- 糸井
- 「思うだけじゃなくてなんで書きたいんだろう」っていう話を、もうしてみましょうか。
- 燃え殻
- しましょうか。
- 糸井
- 見たものに自分で名前をつけて、それを形にしたらうれしくなるみたいなことってありますよね。
- 燃え殻
- うん。
- 糸井
- 何かを書いてみるっていううれしさと、それってのは同じようなことなんじゃないかと思っているんですよね。

- 燃え殻
- うん、そうですね。ぼくだけが見てる景色・・・
- 糸井
- そうそうそう。
- 燃え殻
- それを切り取れる喜びだったりとか。
- 糸井
- で、燃え殻さんのさっきの飲んで寝ちゃって、起きたときの天気なんてのは、同じことは経験してないけど、多分、頷ける人は、結構いると思うんです。
- 燃え殻
- うん。
- 糸井
- でも、発見したのは「俺」なんです、明らかに。だけど、それが通じるっていう。
- 燃え殻
- そうですね。「経験してないけど、わかるよ」ってのがうれしいというか。
- 糸井
- うんうん。あとは書いてないけど、自然に乗っかっちゃうのが、音楽。
- 燃え殻
- はいはい。
- 糸井
- それは書いていなくても流れていますよね。
- 燃え殻
- そうですね。音楽って、みんなで感覚を共有できることじゃないですか。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
- だから、小説を書いたときも、ところどころに音楽を挟んでいったんです。
- 糸井
- 入ってますよね。
- 燃え殻
- この音楽がかかってたらうれしいなってのと、マヌケだなっていう、その両方で音楽は必要だったんです。

- 糸井
- ああ、音楽って、聞きたくなくても流れてくる。
- 燃え殻
- そう。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
- 小説では、悲しい音楽が流れてほしい場所でAKBの新曲が流れるってのをぼくは入れたかったんですよね。
- 糸井
- 「自分が主役じゃないのが世の中だ」ってのを表すのに、外れた音楽を流すというのはすごく、すごくいいですね。自分のための世の中じゃないとこにいさせてもらってる感じ。
- 燃え殻
- うん。ああ、それを聞いていて今思いました。自分の居場所でない感じを入れたくてAKBになったんだって。
- 糸井
- 燃え殻さんの小説には、自分の居場所でない感じってのがいっぱい出てきますよね。俺のためにあるんじゃない町に紛れこんでみたり。
- 燃え殻
- はいはい。なんかこうずっと、そこに所在無しみたいなとこにぼくは生きているような気がしていて。
- 糸井
- いる場所がない。
- 燃え殻
- うん。中華街で手相を見てもらったら、将来が、未来がないって言われたんです。ひどくないですか、お金払ってるのに(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 燃え殻
- でも、だったらまあ自由だなって思ったんですけど。なんか所在がない感は、ずっと生きててすごいあって。
- 糸井
- でも、それは、みんなあるんじゃないですか。
- 燃え殻
- それみんな感じてるんですかね、でも・・・そういうのってあまり聞かない。
- 糸井
- とりあえずこの言葉で納得しとこうというとこに自分を置いて。燃え殻さんが本を書いた理由みたいに、どこかで決めて。

- 燃え殻
- うん。
- 糸井
- 居場所がない、なんてことはとりあえず考えないことにしようと思って。それよりは商品を明日どう売るかとか仕事のことを考えたりして。
- 燃え殻
- ああ、そっちのほうを。
- 糸井
- 人間、これやんないと怒られるよ、ってなことを先にしちゃうからね。
(つづきます)