- 糸井
-
燃え殻さんが書いていることは絵っぽいですね。
絵はやってた?
- 燃え殻
-
小学生の頃やっていて。
『週刊朝日』で連載していた『山藤章二の似顔絵塾』に、
ずっと似顔絵を出していたんです。
- 糸井
- 入選したの?
- 燃え殻
-
20回以上、載ってます。
今でも全部、掲載誌を持ってますよ。
本名で応募していたんですけど、
1年間、俳優の竹中直人さんだけで
いろんなバリエーションを描いたりして。
載ると山藤さんがコメントをくれるんです。
「○○君、今回もまた竹中直人だね」って。
1年で4、5回、竹中さんで載りました。
- 一同
- (笑)

- 燃え殻
-
そこでぼくは、生存確認をしていたんです。
クラスメイトが漫画雑誌を買いに行くみたいに、
『週刊朝日』が火曜に出るので
月曜の夜にコンビニへ行って。
- 糸井
- 載っていない場合もある?
- 燃え殻
-
もちろん、載っていない場合のほうが多いんで
載ってたら買う。
高校3年生から応募し始めて、
専門学校を出て、エクレア工場でバイトしてた頃も
ずっと応募していたので。
山藤さんが選んでくれることで「生きている」というか、
価値がある人間なんじゃないかと・・・・。
- 糸井
-
ただ落ちてる石ころじゃないぞと。
ちょっと面白い形をしてるぞと。
- 燃え殻
-
そう。
ぼくは、どこか面白いんだ。
そう思わないとやっていられなかった。
ラジオにもハガキを出したことがあるんですけど、
自分のペンネームが読まれると、
「いてよし」って認められた気がしたんですよね。

- 糸井
-
みんなそういう気持ちでやってるんだね、きっと。
燃え殻さんの語りは
人に何か思い出を掘り起こさせるね。
/
ぼくがコピーライター養成講座に通っていたとき、
『ブレーン』という雑誌に学校の先生が原稿を書かれて。
文章のなかに
「若手コピーライターのI君が」ってあったんですよ。
その「I君が」っていうだけで、
これぼくなんだって、飛びあがるほどうれしかった。
それで、買った、その『ブレーン』。
- 燃え殻
- わかる、わかる。
- 糸井
-
そんななんだよね、「いてもいいんだ」感。
/
あの、通り一辺倒なことだけど
会社は辞めないですか。
- 燃え殻
- 絶対、辞めないです。
- 糸井
- 絶対、辞めないですか。
- 燃え殻
-
絶対、辞めないです。
/
ぼくは自分が社会の数に入っていないみたいな感覚が
猛烈にあって。
それをどうにかしなきゃいけないって、
似顔絵を描いたり
ラジオにハガキを出していたんですけど。
そこから今の会社に入ったら
今度は「お前の会社は数に入っていない」と、
社会から、いろんな言葉で説明されて。
この会社を世の中で認めてもらうにはって
社長と一緒にいろいろ考えながらやってきて、
やっと似顔絵を選ばれたようなことが起きて。
その喜びの延長線上に小説もあるんですよね。
/
小説を書いて、取材を受けたり
人前でお話をするようになったときに、
親より喜んでくれたのが社長だったんです。
それがいちばんうれしかったから、辞めない。

- 糸井
-
その答えは耳にいいですね。
聞いていてうれしい。
/
何か書くっていうことはやめないんですか。
- 燃え殻
-
やめないつもりではいるんですけど・・・・。
小説だろうが企画だろうが美術制作のフリップだろうが、
受注があったことに対して
全力で取り組むっていうことをずっとやってきて、
できれば喜んでもらいたいって思っているので。
- 糸井
-
誰かが喜んで聞いているなら、その人に向かって
このあとどうしようかなって思いながら、
一緒に手をつないでいたい。
そういうこと、あるよね。

- 燃え殻
-
ぼくはもう、それだけですね。
/
小説の場合は仕事ではないところから始めていたので、
純度を増したいと思ったんです。
せっかく流通するのなら、
関わった人を含めてみんなが喜ぶには
どうしたらいいだろうって考えましたし、
多くの人に喜んでほしいなって。
/
人を驚かせるとか悲しませるって案外簡単。
でも、面白がらせるってけっこう大変だぞって。
- 糸井
-
そうだよね。
人って案外、普段は浮かない気持ちでいるもんね。
それをウキウキさせるって、実は力仕事ですよね。
- 燃え殻
-
はい。
その人が今どんな状況か、わからないじゃないですか。
自分自身がそんな明るい人間じゃないので、
ぼくがこれぐらいに思えば、
ほとんどの人だったら、調子が出るかなって・・・・。

- 糸井
- 調子が出る(笑)。
- 燃え殻
- つまり、喜んでくれるんじゃないかなって。
- 糸井
-
それを壁新聞から始まって、
ずっとやってきたんだよね。
- 燃え殻
- そうですね。
- 糸井
- 酒場で古賀さんを喜ばしたりもして。
- 燃え殻
- この間の、一緒にごはんを食べたときの話ですよね?
- 糸井
-
そう。谷中生姜を食べながら。
ぼくは呑まないから
酒呑むやつらっていいなって思うのは、
ああいうことです。

- 燃え殻
-
あのとき、お互い意地みたいになっちゃって。
古賀さんとぼくが代わりばんこにトイレ行くんですけど、
古賀さん、谷中生姜を1個頼んでから
トイレに行くんです。
「帰らないでくださいよ」(笑)。
- 糸井
- 証拠物件みたいな。
- 燃え殻
- またきちゃうから、生姜が。
- 糸井
- 生姜デー。
- 燃え殻
-
生姜デー。
全然帰らない。
- 糸井
- あれは羨ましかった。

- 燃え殻
-
古賀さんとぼく、同い年っていうのもあるんですけど、
まったくタイプが違うのに・・・・。
- 糸井
-
共通するものがあるよね、なんか。
喜ばれたいって感じがあるね、古賀さんもね。
- 燃え殻
-
なんか気が合うんですよ。
ふとメールをくれたり。
この間は昼から喫茶店でお茶しました。
- 糸井
-
ああ、いいなあ。
大人になると
仕事にかこつけて会うことばっかりになるんですよ。
「暇?」っていうのは、
ぼくの中からほぼ消えたね。すごく残念。
- 燃え殻
- ぼくも久しく消えてたんですけど。
- 糸井
- 女子会はあっても「男子会」はあまりないもんね。
- 燃え殻
- ああ、ないですね。
- 糸井
-
だから「燃え殻さんたちお食事しませんか」は、
あれは今思えば男子会だったね。
- 燃え殻
- 男子会ですね。
- 糸井
- 立川(たちかわ)でやったら立川(たてかわ)ダンシだね。

- 燃え殻
- 今の聞かなかったことにしていいですか。
- 糸井
- うん、していい。
(終わります)