（対談から3日後、『ほぼ日』オフィス）

糸井

先日はありがとうございました。

燃え殻

こちらこそありがとうございました。
大丈夫でしたか、あれで。

糸井

ものすごく大丈夫だったんじゃないですか？

燃え殻

大丈夫かどうかだけを気にしながら生きてるんです。

糸井

よく頑張ってるよね。

燃え殻

あ、久しぶりに褒められた。

糸井

よく頑張ってるよ。
いいことも悪いことも変化はストレスなんだから。

燃え殻

それで言えば、本を出してから2ヶ月ぐらい、
今までの人生にない変化しかしていなくて。
それに少しだけ慣れましたね。

糸井

いや、大したものだ。

燃え殻

フェイスブックの“1年前はこれしてますよ”っていう
一番いらない機能、あるじゃないですか。

糸井

ああ（笑）。

燃え殻

そこに糸井さんと一緒に写ってる
渋谷ロフトでの写真が出てきたんです。
あのとき、人生で初めて人前で話したんです、ぼく。
その写真を見たときに、
あ、少し慣れたかもしれないと思ったんですよ。

糸井

つまり、知らない人が自分の話を聞いてる。
なかなかないよね、そういえば。

燃え殻

ないですよ。
糸井さんは気軽に渋谷ロフトへ誘いましたけど（笑）。

糸井

（笑）。
でも、ぼくは「よかったら来ていただけませんか」と、
燃え殻さんに断る権利を与えていたはずですよ。

燃え殻

ありました、ありました。

糸井

そこはぼくのしぶといところで、
今でもどこかで断られるんじゃないかと思ってるんです。
いろんな理由があるし、
ぼくも断れるように誘ってほしいので。

燃え殻

ぼく、直前で嫌になっちゃう癖があるんです。

糸井

ドタキャンってやつですよね、いわゆる。

燃え殻

はい。
小学校からの友達との確実においしい焼肉屋ですら
行きたくないってことがあって。
でも、ほとんどの場合、我慢するじゃないですか。
たぶん、それが少なければ少ないほど
長生きする可能性が高いのかもしれない。

糸井

ぼくはドタキャンしないために
最初から断ることが、どんどんできるようになった。

燃え殻

ああ、それはいいですねえ。
ぼくはつい「はい」って言っちゃう。
それで自分をどんどん追い込んじゃうんですよ。

糸井

仕事もそうやって引き受けちゃうんだ。

燃え殻

はい。

糸井

今日もそれで来たんだ。

燃え殻

違います（笑）。

糸井

「違います」の速さ、すごく好感がもてた。

一同

（笑）

糸井

そういう人がこの2ヶ月を過ごしていたのはすごいね。

燃え殻

ぼくとしては、新人レスラーが先輩と試合しまくる、
みたいなことをやっているつもりなんです。

糸井

自分の練習としてはあるのかもしれないね。

燃え殻

ぼく、人前で話すということ自体が苦手だったんです。
一般的なサラリーマンだとプレゼンとか、
人前で話す機会がある人も多いじゃないですか。
でもぼくの仕事柄、こもって作業をすることが多くて、
自分に足りていないものを感じていて。
これはいい機会だ。
何か見えるのかな、なんて思いながら、
ぼんやり、お話をしているんです。

糸井

苦手かどうかで言えば、ぼくも同じですよ。

燃え殻

糸井さんが、ですか？
社内ミーティングでみんなの前で話す前とか、
緊張するんですか、ちょっと。

糸井

緊張はしないけど、矢沢永吉さんが出てくる。
「楽しめ」って、ぼくに声かけるんです。
/
前、永ちゃんと話していたときに、
「俺もステージの前はドキドキする」って
真面目に言うんです。
でも、そこには勝ち負けも成功も失敗もなくて、
楽しみにしてる人と俺が楽しめばいいんだって。
だから鏡の前に立って
「矢沢、楽しめ」って自分に言うんだって。

燃え殻

ああ。

糸井

苦手なことは、誰だって嫌に決まってるよ。
でも、その「楽しめ」を覚えていたおかげで、
どれだけしのいだか。
/
あと、言葉の行き来は大事ですね。
「いいお天気ですね」もさ、
心の底から言ったら嫌でしょう？
「（ひっそりと）いいお天気ですねえ」。

燃え殻

情感たっぷりな「いいお天気ですねえ」って
面倒くさい（笑）。

糸井

ねえ。

燃え殻

心が通わないほうがいい場合もあるってことですよね。

糸井

ほとんどの時間、通わないほうがいいんじゃないの？
通うにしても、等価交換的なほうがいい。
10円渡して「10円分ね」みたいな、
小銭のやりとり。

燃え殻

小銭くらいがちょうどいいのかな。

糸井

たとえば燃え殻さんがツイッターで
小さいエッセイみたいなつぶやきをするのって、
10円とか100円の、小銭のようなものなんだけど、
偶然、その100円が鏡みたいに光っていたら
うれしいですよね。

燃え殻

うん。
ここで100円くれるのかっていうのもありますね。

糸井

ありますね（笑）。
「ああ、もらっちゃおう」。

燃え殻

「え、本当に？　ありがとう」。

糸井

そういうことが楽しいの。
それ以上は相手の心に立ち入っちゃうんだよ。

燃え殻

だからこそ、言葉は本当に難しい。

糸井

ご機嫌でいましょうね、というか。
/
ライターの古賀史健さんが
noteで犬のこと書いてるときってさ、
1円玉みたいでかわいいじゃない（笑）。

燃え殻

そういうことが間に入っていないと。

糸井

そうそう。

燃え殻

古賀さんはときどき110円のときもありますからね。
放っておいたら150円ぐらいになっちゃう。

糸井

本気出してやればね。

燃え殻

でも、1円があることで150円が効いてくる。

糸井

古賀さんは毎日書くことを自分に課しているでしょう。
たぶん書くことがない日も出てきて、
それでも書くって決めたから、
1円玉が上手に使えるようになったんじゃない？

（つづきます）