もくじ
第1回リズム&ブルースのような小説。 2017-10-17-Tue
第2回書き残すことで前に進めた。 2017-10-17-Tue
第3回誰かがのびのびできる場であれ。 2017-10-17-Tue
第4回小銭のやりとりぐらいがちょうどいい。 2017-10-17-Tue
第5回喜んでくれる人と手をつないでいたい。 2017-10-17-Tue

兵庫県の北で育ち、浅草生活10年目。書くお仕事を経て、メーカーの販促をやっています。和菓子に目がありません。

大人になりきれないふたり</br>燃え殻×糸井重里

大人になりきれないふたり
燃え殻×糸井重里

第3回 誰かがのびのびできる場であれ。

糸井
新人のときは編集者の人から直されたりするけど、
今回、そういうやりとりはあったんですか。
燃え殻
ありました。
女性の編集者だったんで、
男のぼくとしてはありっていう表現が
女性目線ではなしっていう指摘もあって。
cakes』には載せた表現も
指摘があった部分に関してはバッサリ捨てました。
糸井
ああ、そうか。
だから寂しかったのか。
燃え殻
(笑)

糸井
連載を読んでるときのほうが、脈絡がなかったから。
「あぁ、こういう愛はあるよな」とか
「それ名前つかないんだよな」とか言いながら、
校庭で遊ぶ子どもたちのようにページをめくれた。
だから、正直言って、
そんなに人が群がるとは思わなくて。
燃え殻
糸井さん、言ってましたよね。

糸井
「思ったより売れないと思うんだよね」って。
/
でも、宝くじを買うときに
「絶対に1等が当たらない」と思って買う人、
あんまりいないんです。
1等の可能性もあると思って、一生懸命買う。
だから「2万円当たりました」ってなっても、
「1等はダメでしたか」って一回ちょっと落ち込むの。
燃え殻
ああ・・・・。
糸井
処女作は10万部売れると、
どこかで燃え殻さんも思っていたと思うんです。
だから発売するときに会いましょうって約束しました。
燃え殻
そう。糸井さんが残念会を開いてくれて(笑)。
糸井
約束より日程がずれて
半月かひと月ぐらい後だったから、
残念会になっちゃったね。
そしたら・・・・売れてたの。

燃え殻
ありがたい。
なんで売れたんですかね。
糸井
たぶん今、本をつくるっていうのは
作品を出すということと商品を出すということ、
二重の意味があって。
女子が引くなら引くでいいっていうのが
作品じゃないですか。
でも、「女子が引くんです」。
「あ、そうですね。それ汚れに見えますもんね」と言って、
きれいに拭くのが商品じゃないですか。
燃え殻
ああ・・・・さっきのバッサリ捨てた話、
言わなきゃよかった(笑)。
新潮社の人が来たらどうしよう(笑)。
/
あの、そもそもぼくが小説を書くってなったときに、
今の世の中は小説を読まないという前提があって、
さらにぼくが無名だっていう二重苦だったんです。
インターネットやYouTubeやまとめサイトっていう
スマホの皆さんが使っている時間を、
どうにか小説に引きずり込みたい。
それにはできる限り栞を使わないでサッと読める言葉と、
読者にサービスしたいという気持ちがありました。
糸井
サービスしたい。うん。

燃え殻
じゃないと、のってくれないだろうなって。
プロからしたら
「何言ってんの?」って話になっちゃうかもしれないけど、
読んでいるときのリズム感やスッと読めるもののためには
書いてあることを変えてもいいと、
ぼくは思ったんです。
糸井
でも、当たり前なんじゃない?
それがまた楽しかったわけでしょ?
燃え殻
楽しかったですね。
糸井
壁新聞や資料集めをしていた時代と分けたのは、
そこなんじゃないでしょうかね。
みんなに伝わるか、自分が気持ちいいか。
伝わるものが出したいんだったら
バランスの問題だから。
燃え殻
ありますね、バランス。
難しいですけど、
バランスがいいとうれしいな、ぐらいな感じです。
うれしいな、ぐらい、
バランスをとる方法がわからなくなるんですよね。

糸井
バランスをよくする方法を
一生懸命、コツがあるかと思って探すと、
実はバランスを崩すんだと思う。
/
オートバイ乗ります?
燃え殻
乗らないです。
糸井
オートバイの練習で一本道というのがあるんです。
一本道をずーっと行って
トンと普通に降りればいいだけなんだけど、
脱輪するんですよ。
脱輪しないように車輪の先を見ていると、必ず。
車輪なんか見ずに、まっすぐ前を見れば
自然にまっすぐ行くの。
つまり、とにかく近くでいっぱい一生懸命考えれば
脱輪しないってことは絶対ないんで、
前を見るんですよね。
あとは、バランスをとるためには
バランスそのものを考えるんじゃなくて、
入れ物の大きさを変えちゃうとか。
一個の玉だとバランス取れないけど、
大きな器に100個の玉が入ると安定するじゃないですか。
なんでもありって受け入れちゃえば
自然にバランスを取らざるを得ないんで。
・・・・なんか年上の人からのお話みたいになってる。
燃え殻
年上じゃないですか(笑)。
すごいためになる。
糸井
いやこれはね、コツを教えてるんじゃなくて。
今、燃え殻さんがいっぱい取材受けてるのも
ウソついてるのも、
トータルにしたら一個ずつの重みなんで。
取材でああいうことを言えたからいいかとか、
あの人と会って、また違う話ができたとか、
小説を読んだ人が
もうちょっといいことを感じてくれるとか。
燃え殻
それで言えば
『ほぼ日』さんで感想を送ってもらうコンテンツ
糸井
あれ面白いねえ。
燃え殻
ぼく自身も面白くて。
糸井
ちゃんと向き合っていて偉い。

燃え殻
ああいう場所が発動できたことは、
とてもよかったと思って。
糸井
ぼくがいちばん好きなのは場をつくること。
いろんな人がそこに来ると自分らしくなれる。
あるいは、人の話がどんどん聞けるようになるとか、
そういう場ができるのがいちばんの喜び。
ぼく自身がつくったものが褒められるのは
瞬間的にはうれしいんだけど、
つくった場から出てきた人が褒められるほうが
うれしいんですよね。
燃え殻
あ、それはすごいわかります。
大槻ケンヂさんに会ったときに
「大槻さんが小説を書いたあと、ぼくは小説を書きました」って
「面倒くさいファンだ」みたいなことを言ったんです。
そうしたら大槻さんが
「それはうれしいよ。面倒くさいけどうれしい」
と言ってくれて。
ぼくの書いた小説や『ほぼ日』のコンテンツも、
そういうものであれって念じてます。
糸井
うんうん。
/
さて、そろそろ。
今日はいっぱい喋って、
無口じゃない燃え殻さんが味わえたと思います。
ありがとうございました。
燃え殻
ありがとうございました。

(つづきます)

第4回 小銭のやりとりぐらいがちょうどいい。