- 糸井
-
新人のときは編集者の人から直されたりするけど、
今回、そういうやりとりはあったんですか。
- 燃え殻
-
ありました。
女性の編集者だったんで、
男のぼくとしてはありっていう表現が
女性目線ではなしっていう指摘もあって。
『cakes』には載せた表現も
指摘があった部分に関してはバッサリ捨てました。
- 糸井
-
ああ、そうか。
だから寂しかったのか。
- 燃え殻
- (笑)

- 糸井
-
連載を読んでるときのほうが、脈絡がなかったから。
「あぁ、こういう愛はあるよな」とか
「それ名前つかないんだよな」とか言いながら、
校庭で遊ぶ子どもたちのようにページをめくれた。
だから、正直言って、
そんなに人が群がるとは思わなくて。
- 燃え殻
- 糸井さん、言ってましたよね。

- 糸井
-
「思ったより売れないと思うんだよね」って。
/
でも、宝くじを買うときに
「絶対に1等が当たらない」と思って買う人、
あんまりいないんです。
1等の可能性もあると思って、一生懸命買う。
だから「2万円当たりました」ってなっても、
「1等はダメでしたか」って一回ちょっと落ち込むの。
- 燃え殻
- ああ・・・・。
- 糸井
-
処女作は10万部売れると、
どこかで燃え殻さんも思っていたと思うんです。
だから発売するときに会いましょうって約束しました。
- 燃え殻
- そう。糸井さんが残念会を開いてくれて(笑)。
- 糸井
-
約束より日程がずれて
半月かひと月ぐらい後だったから、
残念会になっちゃったね。
そしたら・・・・売れてたの。

- 燃え殻
-
ありがたい。
なんで売れたんですかね。
- 糸井
-
たぶん今、本をつくるっていうのは
作品を出すということと商品を出すということ、
二重の意味があって。
女子が引くなら引くでいいっていうのが
作品じゃないですか。
でも、「女子が引くんです」。
「あ、そうですね。それ汚れに見えますもんね」と言って、
きれいに拭くのが商品じゃないですか。
- 燃え殻
-
ああ・・・・さっきのバッサリ捨てた話、
言わなきゃよかった(笑)。
新潮社の人が来たらどうしよう(笑)。
/
あの、そもそもぼくが小説を書くってなったときに、
今の世の中は小説を読まないという前提があって、
さらにぼくが無名だっていう二重苦だったんです。
インターネットやYouTubeやまとめサイトっていう
スマホの皆さんが使っている時間を、
どうにか小説に引きずり込みたい。
それにはできる限り栞を使わないでサッと読める言葉と、
読者にサービスしたいという気持ちがありました。
- 糸井
- サービスしたい。うん。

- 燃え殻
-
じゃないと、のってくれないだろうなって。
プロからしたら
「何言ってんの?」って話になっちゃうかもしれないけど、
読んでいるときのリズム感やスッと読めるもののためには
書いてあることを変えてもいいと、
ぼくは思ったんです。
- 糸井
-
でも、当たり前なんじゃない?
それがまた楽しかったわけでしょ?
- 燃え殻
- 楽しかったですね。
- 糸井
-
壁新聞や資料集めをしていた時代と分けたのは、
そこなんじゃないでしょうかね。
みんなに伝わるか、自分が気持ちいいか。
伝わるものが出したいんだったら
バランスの問題だから。
- 燃え殻
-
ありますね、バランス。
難しいですけど、
バランスがいいとうれしいな、ぐらいな感じです。
うれしいな、ぐらい、
バランスをとる方法がわからなくなるんですよね。

- 糸井
-
バランスをよくする方法を
一生懸命、コツがあるかと思って探すと、
実はバランスを崩すんだと思う。
/
オートバイ乗ります?
- 燃え殻
- 乗らないです。
- 糸井
-
オートバイの練習で一本道というのがあるんです。
一本道をずーっと行って
トンと普通に降りればいいだけなんだけど、
脱輪するんですよ。
脱輪しないように車輪の先を見ていると、必ず。
車輪なんか見ずに、まっすぐ前を見れば
自然にまっすぐ行くの。
つまり、とにかく近くでいっぱい一生懸命考えれば
脱輪しないってことは絶対ないんで、
前を見るんですよね。
あとは、バランスをとるためには
バランスそのものを考えるんじゃなくて、
入れ物の大きさを変えちゃうとか。
一個の玉だとバランス取れないけど、
大きな器に100個の玉が入ると安定するじゃないですか。
なんでもありって受け入れちゃえば
自然にバランスを取らざるを得ないんで。
・・・・なんか年上の人からのお話みたいになってる。
- 燃え殻
-
年上じゃないですか(笑)。
すごいためになる。
- 糸井
-
いやこれはね、コツを教えてるんじゃなくて。
今、燃え殻さんがいっぱい取材受けてるのも
ウソついてるのも、
トータルにしたら一個ずつの重みなんで。
取材でああいうことを言えたからいいかとか、
あの人と会って、また違う話ができたとか、
小説を読んだ人が
もうちょっといいことを感じてくれるとか。
- 燃え殻
-
それで言えば
『ほぼ日』さんで感想を送ってもらうコンテンツ。
- 糸井
- あれ面白いねえ。
- 燃え殻
- ぼく自身も面白くて。
- 糸井
- ちゃんと向き合っていて偉い。

- 燃え殻
-
ああいう場所が発動できたことは、
とてもよかったと思って。
- 糸井
-
ぼくがいちばん好きなのは場をつくること。
いろんな人がそこに来ると自分らしくなれる。
あるいは、人の話がどんどん聞けるようになるとか、
そういう場ができるのがいちばんの喜び。
ぼく自身がつくったものが褒められるのは
瞬間的にはうれしいんだけど、
つくった場から出てきた人が褒められるほうが
うれしいんですよね。
- 燃え殻
-
あ、それはすごいわかります。
大槻ケンヂさんに会ったときに
「大槻さんが小説を書いたあと、ぼくは小説を書きました」って
「面倒くさいファンだ」みたいなことを言ったんです。
そうしたら大槻さんが
「それはうれしいよ。面倒くさいけどうれしい」
と言ってくれて。
ぼくの書いた小説や『ほぼ日』のコンテンツも、
そういうものであれって念じてます。
- 糸井
-
うんうん。
/
さて、そろそろ。
今日はいっぱい喋って、
無口じゃない燃え殻さんが味わえたと思います。
ありがとうございました。
- 燃え殻
- ありがとうございました。

(つづきます)