糸井

燃え殻さんが書いてることは、絵っぽいですよね。
パノラマみたいな、スケッチみたいな。

燃え殻

ああ、そうですね。
その景色さえ決まったら、あとはクサくても大丈夫だし、
何も起きなくても大丈夫じゃないかなと思います。

糸井

絵だね、やっぱり。
絵やってた？

燃え殻

昔は、やってました。
小学校ぐらいのときから。
でも、なんでですか？

糸井

いや、とてもビジュアルっぽいから。

燃え殻

ぼく、「週刊朝日」の「山藤章二の似顔絵塾」って
いうのに、ずっと出してたんです、似顔絵を。

糸井

それで入選したの？

燃え殻

20回以上載ってます、「週刊朝日」の裏側に。
ぼく、今でも持ってますよ、掲載された本、全部。

糸井

‥‥知らなかった！

燃え殻

頁の右側に載ると、山藤さんがコメントくれるんです。
本名で出してたんですけど、
「燃え殻君、今回もまた竹中直人だね」。
ぼく、１年間、竹中直人さんだけの似顔絵を
いろんなバリエーションで出してたんですよね。

糸井

（笑）

燃え殻

学ランでエプロン着てる竹中直人さんとか、
毎週竹中直人さんをずっと山藤章二さんに送ってたんです。

糸井

はぁー。

燃え殻

その送った竹中さんが１年間に４、５回ぐらい掲載された。

糸井

山藤さんも選び続けた。

燃え殻

そう。
だから、「また竹中直人だね」って書いてくれて。

一同

（笑）

燃え殻

そこでぼくは、そこに自分がいる！って、
存在確認してました。
で、火曜なんですよね、「週刊朝日」が出るのって。
みんなが「ジャンプ」を発売日前日に買いに行くみたいに、
月曜の夜にコンビニ行って…

糸井

（笑）

燃え殻

早くほどけ！ほどけ！と。
ほどいたら、「すみません」って見せてもらって。
で、載ってたら買って。
一時期はすごくよく載ったんです。
最後、１年間でよかったやつを、選ぶんですよね。
それにこう選んでいる、なんか‥‥

糸井

審査風景？

燃え殻

そう、審査風景の写真にぼくの作品があって、
最終選出はされなかったんですけど、
そのときの審査員は、山藤章二さんやナンシー関さん、
松本人志さんと確かそんな面々だったんです。
そういう人たちが選んでくれているとこに
自分のものがあるっていうのが‥‥

糸井

ああ、それはすごい。

燃え殻

それこそ、エクレア工場でバイトしてたりという頃で、
ああ、「生きてる」というか、
そこで、山藤さんが選んでくれているということで、
自分は価値がある人間なんじゃないかって‥‥

糸井

ただ落ちてる石ころじゃないぞと。

燃え殻

そう（笑）。

糸井

ちょっと面白い形をしてるぞと。

燃え殻

俺は面白い、どこか面白いんだ、どこか面白いんだって。
そう思わないと、多分やってられなかったんですけど、
どこか自分は面白いんだと思って出してました。

糸井

エクレア工場で働いていた頃にそれやった？

燃え殻

やってましたね。
高校３年生から、専門学校を出て、
エクレア工場で働いているときもずっとやってました。

糸井

それは大事な何かだね。
でもって、やり続けられたんだね。

燃え殻

ほかにも、ラジオに出したこともありますけど、
そこでディスクジョッキーの方が
自分のつけたペンネームを読んでくれる。
そうすると、なんか認められた気がするんですよね。
そこに「燃え殻、いて良し」と言われたような。

糸井

それは、みんなそういう気持ちでやってるんだね、きっとね。

燃え殻

そうなのかなあ。

糸井

いや、自分も、今思い出したんだけど‥‥
あなたの語りはいつも人に何か思い出を掘り起こすね。

燃え殻

いやあ。

糸井

とある雑誌の話なんだけれど。
でも、ぼくが原稿書いたとかの話じゃないんですよ。
当時、コピーライターの養成講座の先生だった方が
書いている原稿に、
「若手コピーライターのＩ君がなんとかって言った」
って載っていた。
その「Ｉ君が」っていうだけで、これ俺なんだって、
跳び上がるほどうれしかった。
その時の雑誌、買ったもの。

燃え殻

わかる！
うん、わかる。

糸井

だから、そんな感じだよね。その「いてもいいんだ」感。

燃え殻

それこそ今ので思い出しました。
ぼくの小説にも出てくる、前に付き合っていた彼女と
昔、『エイリアン２』を観に行ったんですよね。
そしたら、全然エイリアンが出てこないところで
「ギャー！」って言ったんです、彼女が。
そしたら、その劇場中が「ビャーッ！」とビックリして。

一同

（爆笑）

燃え殻

ただ普通の宇宙船の中で、
エイリアンが出てきたら嫌ですよーってときに、
彼女が「ギャー！」って言ったんです。
そしたらもう、周り中、ぼくの周りで見てる人が
「ワー！」って。
本当にって言ったんですよ（笑）

糸井

そうだろう（笑）。

燃え殻

そんなリアルサウンドないじゃないですか。

糸井

うん、うん（笑）。

燃え殻

絶叫、絶叫ですよ、映画館がもうそのときに。

糸井

うん。誘い水（笑）。

燃え殻

「なによ？！」って聞いたら、
「いや、もう出てきたかと思って」って彼女が言って（笑）
もう周りの人たちが「えー！」みたいな。
映画間で真っ暗な中で、
みんな「えー！」って本当に言いましたからね（笑）
で、雑誌の「宝島」に、これを書いて送ったんですよ。
そしたら、このエイリアン２の話、採用されたんです。

糸井

それ、だって面白いもの、やっぱり。
その面白いものに出会ってること自体が面白いんですけどね。
出会わないらしいですよ、なかなか人は。

燃え殻

そうなんですか？

糸井

燃え殻さんは、彼女が思わず、
「ギャー」って言っちゃったのにも出会ったわけだし、
それを投稿するってところまで、もう１回絵を描き直した。

燃え殻

ああ～、まあそうですね。

糸井

それ、つまんなく言うこともできるからね。
「友達がギャーと言いました」って。

燃え殻

なるほど（笑）。

糸井

で、「宝島」に選ばれたのも…何と言ったらいいかな。
日本一のコンテストをやったときに、出場していいよって
いう感じがあるんじゃないですか？

燃え殻

うーん。

糸井

ぼく、昔、書いたことがあるんだけど、
すごく小さなときから、クラスで１番っていうので
威張っているというのはどうかと思っていて。
だってクラスって何クラスもあるのだから。

燃え殻

（笑）。
いや、それわかる。

糸井

学校で１番も、学校だって山ほどあるし、
市があって県があって…となると、
結局、日本一のコンテストをやるよーってなったら
全部パーだよと思ってたの。
自分のこともそう思ってたし、ちょっと冷めてたというかね。

燃え殻

はい、わかります。

糸井

だから、それがもしかしたら、今の「ギャー」の話は、
日本一決定戦出場かもしれないじゃないですか。

燃え殻

ああ（笑）。
でも、そうかもしれない。
山藤さんに選ばれて、自分の存在確認するのもそうなのかな。

糸井

うん、そうそうそう。

燃え殻

ラジオ投稿もだけど、自分にとって有利でない場所で
スポットライトを浴びて、
「あ、俺はいてもいいのか」と、そう感じたのかもしれない。
だから、うれしくて。

糸井

うれしいと思う。
例えば、受験なんかに一生懸命な子は、
全国で１番２番をいつも争ってる子が友達にいたりすると。
その友達の向こうは全国じゃないですか。
さっきの「クラスで１番なんか大したことないよ」
とは全然違って、「実は通用する」という可能性もある。
そこに少しでも引っかかっていたら、
それはうれしいんじゃないですかね。
　
でも、下手をすると、ただの有名になりたい病に
なる可能性もある
そうやってダメになっちゃうやつも山ほどいて。
俺はそのダメになっちゃうみっともなさに対して、
ものすごく慎重だった気がするんですよね。
でも、やっぱりいい気になって踊っちゃうのもあるし‥‥

燃え殻

両方ですよね。

糸井

両方。
それで、だんだんとこれは１番だろうみたいなものに
出会うようになると、また、普通に戻るみたいな。
普通にすごいはすごいっていうふうに（笑）。
だから、そのままでもよかったんだなって
考えになるかもしれないよね。
誰にも知られない人のままでも本当はよかったかもね、と。

燃え殻

本当にそうかもしれない。
特別な話や、そこでしか聞けない何かというのも
もちろん面白いんですけど。
自分が会いたかった人が、普通の話をしてくれたことに
感動できたりするんですよね。
その人が、実はぼくと繋がっていたというか。

糸井

そうですね。同じ人間だというか。

燃え殻

同じ人間だったって確認をしたかったんですよね。
それは作品だったりとか、そういうものが素晴らしいから。

糸井

うん、そういうことなんですね。

（第５回につづきます）