- 燃え殻
-
ぼく、人前で話すということ自体が苦手なんです。
苦手だったんです。
プレゼン機会があるサラリーマンもいるじゃないですか。
ぼくは、それもなく、こもって作業するというサラリーマン。
それで、友達とかに聞くと、プレゼンもしていると聞く。
どうにもこうにも自分は話すことが足りていないと思って。
- 糸井
- 対談じゃなくてしゃべるのはOKですか。
- 燃え殻
-
社内ミーティングみたいなものがあるんですが、
ぼく、それで話をするのも苦手でした。
- 糸井
- 苦手かどうかで言えば、それはぼくも同じですよ。
- 燃え殻
- え、そうですか?
- 糸井
-
うん、本当に同じだと思うな。
普段、ものすごく社内ミーティングをしていて、
1人で話しまくってますけど、
得意かっていったら、得意じゃなくて、苦手だね。
- 燃え殻
- 今でも苦手だなと思います?
- 糸井
-
思います、思います。
だから、燃え殻さん風に言うと、俺は、
線を引いて、どちらかに行かない!としないように、
得意・苦手の行き来を少しずつ意識してきたんだと思う。
それは、主に社長になってから。
社長という名前は、まあ、ものすごく大きいと思う。
部長というのがあったとしたらどうかわかんないけど、
フリーじゃないですか、ぼくも。
だから、あんまり人にこうあってほしいという
筋合いはないぐらいに思ってたから。
だから、そこのところはね。弱いです。
- 燃え殻
- その毎週のミーティング、その日の朝は緊張するんですか。
- 糸井
-
緊張はしないけど、その時、永ちゃんが出てくるんですよ。
永ちゃんが出てきて、「矢沢、楽しめ」って。
俺に声かけるんですよ。
- 燃え殻
- 糸井さん、心の中に永ちゃんを飼っている…?
- 糸井
-
俺は、明らかに心の中に永ちゃんがいる。
もうレストランの社長みたいなもんよ。
「矢沢さんのおかげでここまで来たんです」って(笑)。
- 燃え殻
-
ピンチのときや、自分がウッてなったときに、
心の永ちゃんが語りかけてくる?
それとも、何か曲が流れるんですか。
- 糸井
-
そんなふうにはなんない。
それは、また別のシチュエーションで、今の話で言うと、
永ちゃんが、「俺もステージの前はドキドキする」って話を
真面目にしてるわけよ(笑)、俺と話してて。
- 燃え殻
-
へぇー。
- 糸井
-
さらに永ちゃんは続けるわけだよ、
「ドキドキするのは当たり前なんだよ」みたいな感じで。
若いときだったら、もっと気が小さいから、殊更にって。
洗面所とか前の日のお風呂とか、鏡に向かって、
「できる。おまえならできる」って言い聞かせてたって。
- 燃え殻
-
えぇー。
(感嘆の声)
- 糸井
-
永ちゃんね、ウソはつかないのよ。
で、さあ始まるときっていうのはまた別で、
やっぱりえらいことだと思ってて(笑)、
負けねえぞと思わなきゃいけないんだよ。
鏡に向かって、「おまえならやれる」ていう。
「頑張れ、矢沢。おまえ、よくやってるなあ」とか、
終わってから、「よくやったよ、永ちゃん」みたいな。
- 燃え殻
- また、語りかけて。
- 糸井
-
うん。
それで、ある段階まで行ったら、今度は
「矢沢、楽しめ、OK」。
永ちゃん、多いステージだと8万人とかいるわけじゃない。
「楽しめ」って言葉、俺は何度も原稿にも書いたけど、
その言葉の持つ意味って、多分ものすごくてさ。
楽しみにしている人と、俺とが楽しめばいいと思えば、
勝ちも負けも失敗も成功もなくて、
「楽しめ」、「おお、そうかい」って出てくるんだって。
- 燃え殻
- ああ、でも、そうかもしれない。
- 糸井
-
ものすごいそれはうれしくなっちゃうわけで、
苦手だったことは、嫌に決まっていることだらけだよ。
でも、その「楽しめ」を俺が覚えていたおかげで、
どれだけ、辛い場をしのいだか。
別に永ちゃんの言葉が聞こえてくるわけじゃないよ(笑)。
「そうだ、楽しむんだ」。
- 燃え殻
-
「楽しむんだ」っていう。
ぼく、新潮社の編集の人に、「嫌だ嫌だ」って言ったんです。
またトークショーみたいなのがあって(笑)。
始まる前にも、「ああ、嫌だ」みたいなことを言っていて、
そしたら、その方に、
「いいんですよ。動いてるの見たいだけなんですから」
と言われたんですよね。
- 糸井
- ああ。なるほど。
- 燃え殻
-
「行ってください」って言われて、ああ、そうかと。
また別のときは映画監督の大根さんが対談相手で、
「いいこと言わなくていいよ」って言ってくれたんです。
それこそ話していて、そのまま、「それでさ」って感じで
登っていったんですよね。
何ていうんだろう、そのままでいいじゃないかという感じで。
その前は何か1ついいことを言わなければって思ってて、
名言が思いつかないから、それで嫌だったんです。
- 糸井
- うん、よくわかります。
- 燃え殻
-
でも、
「そんなこと誰も期待していない。上がりなさい」って
言われて上がって、大根さんも「それでさ」ぐらいの話で。
そうしたらできたんですよね。
- 糸井
-
特に対談は、相手が何とかしてくれることは大いにあるから。
1人で講演をしろって話じゃないから。
- 燃え殻
- ああ、そうですねえ。
- 糸井
-
だから、例えばの話、ご飯粒がついてたら、
「ご飯粒」って言ってくれるじゃない。
- 燃え殻
- そうですね。
- 糸井
-
だから、何でもいいのよ。
とくに新人の立場で対談だったら、もうノー問題。
これからも、だから、100受けても大丈夫。
相手が「いいこと言わなきゃタイプ」の人だったりすると
面倒くさいから断ればいい。
「お互いにいいこと言いましょう」的な人もいるから、
世の中には。
- 燃え殻
- ああ、なるほど。
- 糸井
-
見分ける方法はあんまりないけど、勘でわかると思うよ。
例えば、宣伝が目的で出てくるような人とかね。
つまり、商業活動として対談しに来る人は、
自分が舞台でいいことを言って売り込むのが仕事だから。
だから、「20回フラれても19回モノになるナンパのし方」
みたいな本を出してる人がいたとするじゃない。
そしたら、そいつは、その宣伝に来てるわけで、
そのお客さんに自分のことをそう思ってほしいわけだから、
「燃え殻さん、今のはこうじゃないですか?」と、
本に書いているようなことを言うみたいなさ。
大根さんとかだったら、そんな心配はないよ、何も(笑)。
- 燃え殻
- 何もない。
- 糸井
- ただ、ただ「会って話そう」だよ(笑)。
- 燃え殻
-
そうですね。
糸井さんも、きっとその方が面白いって思っていますよね。
だって、前回も「10分前に来て」だったじゃないですか。
- 糸井
- 前回って、あの銀座?
- 燃え殻
-
銀座ロフト。
10分前に入ってくれればという話だったんですけど、
それでもう何もなく、ドーン、行こうじゃないですか。
- 糸井
- このことだけは伝えなきゃみたいなことは1つもないから。
- 燃え殻
- ああ(笑)、そうか。
- 糸井
-
あるとぼくはできなくなっちゃうんです。
このことを伝えなきゃって仕事になっちゃうから。
- 燃え殻
- 「これだけは言ってくださいね」みたいな。
- 糸井
-
もしそういうことがあるんだったら、
時間区切って、急に言ってくださいみたいにしたほうが。
もし、ギクシャクした言い方になったら、
「ギクシャクしてますね」って言って(笑)、
また違う話をしたいんですよね。
- 燃え殻
- ああ、そっちのほうがいい。
- 糸井
- ロフトの対談、楽だったでしょう?
- 燃え殻
-
楽でした。
あ、それだったらぼく、勉強してないのかな。
ぼくの対談、楽にさせてくれる方ばっかだ。
(第3回につづきます)
