“大人になりきれていない”オトナの話
担当・戸川光里
第4回 「いてもいいんだ」感を確認する
- 糸井
-
燃え殻さんが書いてることは、絵っぽいですよね。
パノラマみたいな、スケッチみたいな。
- 燃え殻
-
ああ、そうですね。
その景色さえ決まってしまったら、
あとはクサくても大丈夫だし、何も起きなくても
大丈夫なんじゃないのかなっていうふうに思う。
- 糸井
-
絵だね、やっぱり。絵やってた?
- 燃え殻
-
昔はやってました。小学校のころ。
- 糸井
-
やっぱり。
- 燃え殻
-
なんで?
- 糸井
-
いや、とてもビジュアルっぽいから。
- 燃え殻
-
ぼく、「山藤章二の似顔絵塾」っていうのに
ずっと出してたんです、似顔絵を。
- 糸井
-
それで入選したの?
- 燃え殻
-
20回以上載ってます、「週刊朝日」の裏側に。
ぼく、今でも持ってますよ、全部。
- 糸井
-
‥‥知らなかった。
- 燃え殻
-
ぼく、1年間、いろんなバリエーションで
竹中直人だけの似顔絵を出してたんですけど、
出ると、山藤さんがコメントくれるんです。
「○○(本名)君、今回もまた竹中直人だね」って。
- 糸井
-
(笑)
- 燃え殻
-
でも、1年間それで4、5回ぐらい出た。
- 糸井
-
山藤さんも選び続けた。
- 燃え殻
-
そう。
だから、「また竹中直人だね」って書いてくれて。
- 一同
-
(笑)
- 燃え殻
-
そこでぼくは、生存確認してました。
みんなが「ジャンプ」を前の日に
コンビニへ買いに行くみたいに、
火曜に出る「週刊朝日」を、
もう月曜の夜にコンビニ行って。
誰もいないんですよ、「週刊朝日」を
そんな待ってる人は(笑)。
- 糸井
-
そうだろうねえ(笑)。
- 燃え殻
-
早くほどけ! ほどけ! ほどいたら、
「すみません」つって。
で、載ってたら買って。
- 糸井
-
それは素晴らしいんじゃない?
何か勲位をもらったんじゃない?
- 燃え殻
-
一時期はすごく載って。
1年間でよかったやつを最後、選ぶんですよね。
それを選んでいる、審査風景みたいのに
ぼくのがあって。
結果はダメだったんですけど、そのとき、
審査員が山藤章二さんとナンシー関さんとか
松本人志さんとかその辺りだったんです。
そういう人たちが選んでくれているとこに
自分のものがあるっていうのが‥‥。
- 糸井
-
ああ、それはすごい。
- 燃え殻
-
「生きてる」っていうか、
山藤さんが選んでくれてるということで、
価値がある人間なんじゃないかって‥‥。
- 糸井
-
ただ落ちてる石ころじゃないぞと。
- 燃え殻
-
そう(笑)。
「俺は面白い、どこか面白いんだ」そう思わないと、
多分やってられなかったんですけど、
「どこかで面白いんだ」と思って出してました。

- 糸井
-
エクレア工場で働いていた頃にそれやった?
- 燃え殻
-
高校3年生から、専門学校出て、
エクレア工場のときもずっとやってました。
- 糸井
-
それは大事な何かだね。やり続けられたんだね。
- 燃え殻
-
ほかに、ラジオとかにも出したこともあって。
そこでディスクジョッキーの人が、
自分のつけたペンネームを読んでくれる。
そうすると、なんか認められた気がするんですよね。
「いて良し」って言われたような気がしたんです。
- 糸井
-
それは、みんなそういう気持ちでやってるんだね。
その「いてもいいんだ」感。
- 燃え殻
-
本当です。今ので思い出しましたけど、
ぼくは小説の中に出てくる彼女に自慢して、
普段ほとんどほめない彼女が
「宝島」にネタが掲載されたとき
「すごいじゃん」と言ってくれて。
『エイリアン2』を観に行ったんですよね、
その彼女と。
そしたら、全然エイリアンが出てこないところで
「ギャー!」つったんです、彼女が。
そしたら、その劇場中がみんなビックリして
「ギャー!」って。
ただ宇宙船の中のシーンでエイリアンが出てきたら
嫌ですよーってみんなが思ってる場面なだけですよ。
なのにそこで「ギャー!」って言ったんです。
そしたらもう、ぼくのまわりで見てる人が
「ワー!」って言ったんです、本当に。

- 糸井
-
(笑)
- 燃え殻
-
叫び声はリアルサウンドないじゃないですか。
だから絶叫、絶叫。
- 糸井
-
うん。誘い水(笑)。
- 燃え殻
-
そう。で「ワー!」と言ったあと、
「もう出てきたかと思って」って彼女が言って。
もうまわりの人たちが「えー!」みたいな(笑)。
で、それを書いたんですよ、「宝島」に。
そしたら、それが採用されたんです。
めっちゃくちゃほめてくれましたね。
- 糸井
-
それ、だって面白いもの、やっぱり。
その面白いものに出合ってること自体が
面白いんですけどね。
出合わないらしいですよ、なかなか人は。
- 燃え殻
-
そうなんですか?
- 糸井
-
燃え殻さんは、まず彼女が思わず「ギャー」って
言っちゃったのも出合ったわけだし、
それを投稿するってとこまで
もう1回リサイズして絵を描き直した。
- 燃え殻
-
ああ、まあまあ、そう。
- 糸井
-
それ、つまんなく言うこともできるからね。
「友達がギャーと言いました」って。
- 燃え殻
-
ああ(笑)。

- 糸井
-
だから、日本一のコンテストやったときに、
出場していいよっていう感じがありますよね。
ぼくが昔書いたんだけど、すごい小さいときから、
クラスで1番っていうので威張ってるっていうのは
どうかと思うって思ってて。
そんな、だって何クラスもあるんだから、すでに。
- 燃え殻
-
(笑)いや、それわかる。
- 糸井
-
で、それはダメだろう。
で、学校で1番も、学校山ほどあるし。
市があって県があって。
で、結局、その日本でってなったときには、
全部パーだよと思ってたの。
- 燃え殻
-
はい、わかります。
- 糸井
-
だから、それがもしかしたら、
今の「ギャー」の話は、
日本の遊びかもしれないじゃないですか。
- 燃え殻
-
ああ(笑)。
- 糸井
-
だから、クラスで友達に受けたっていうのは
ものすごいうれしいんだけど、
その友達にウケたのは日本でもウケるのかっていう。
- 燃え殻
-
ああ。でも、そうかもしれない。
山藤さんに選ばれたのもそうだし‥‥。
- 糸井
-
うん、そうそうそう。
- 燃え殻
-
ラジオでもそうかもしれないけど、
まったく血縁関係のない、
自分にとって有利でない場所で
突然スポイルされるって
「あ、俺はいてもいいのか」みたいな、
そういう感じに思えたのかもな。
だから、うれしくて。
- 糸井
-
うれしいと思う。でもそれは、下手をすると、
ただの有名になりたい病になったりする
可能性もあって、
そうやってダメになっちゃうやつも山ほどいて。
だから、俺はそのダメになっちゃうみっともなさ
みたいなものというのに対して
ものすごく慎重だった気がするんですよね。
でも、やっぱりいい気になって
踊っちゃうのもあるし‥‥。
- 燃え殻
-
両方ですよね。
- 糸井
-
それで、だんだんと
これは1番だろうみたいなものに
会うようになったりすると、
もう1回普通に戻るみたいな。
- 燃え殻
-
いや、本当にそうかもしれない。
ぼくが対談とかトークショーで話すとき、
自分が会いたかった人が普通の人だった
っていうことに感動するんです。
- 糸井
-
うん、普通なんですよね。
- 燃え殻
-
特別な話だったりとか、
そこでしか聞けなかった何かっていうのも
もちろん面白かったりもしてたんだけど、
最終的にはその人がぼくとつながってたっていうか。
- 糸井
-
そうですね。同じ人間だっていうか。
- 燃え殻
-
同じ人間だったって確認をしたかったんですよね。
- 糸井
-
うん、そうですね。だから、みんなが
何億円だって言ってるものの価値が、
ピカピカした100円玉の1つなんだっていうか。