“大人になりきれていない”オトナの話
担当・戸川光里
第２回 永ちゃんを飼えばいい
- 糸井
-
そういう人がこの２か月を過ごしてたって
ちょっと、すごいね。
- 燃え殻
-
多分人前に出ることをやってこなくて、
どこかで自分の中で欠損してると
思ってたんですよ。
ようやく慣れてきて、
これは慣れないといけないと思った。
- 糸井
-
いや、いいよ、別に（笑）。
- 燃え殻
-
これはもう新人レスラーの
夏のカーニバルみたいな。
８試合連続で先輩に当たるみたいな。
それをやってるつもりなんです。
- 糸井
-
自分の練習としてはあるのかもしれないね。
- 燃え殻
-
人前で話すということ自体が苦手だったんです。
プレゼンがないサラリーマンだったんです、ぼく。
こもって作業するという。
それで、友達からプレゼンとかしてるって聞くと、
どうにもこうにも自分に足りてないと思って、
そういうことを少しやろうって。
- 糸井
-
対談じゃなくてしゃべるのはOKですか？
- 燃え殻
-
社内ミーティングみたいのがあるんです。
それでもぼく、話をするのが苦手でした。
- 糸井
-
苦手かどうかで言えば、
それはぼくも同じですよ。
ものすごく社内ミーティングしてて、
１人でしゃべりまくってますけど、苦手だね。
- 燃え殻
-
毎週やってて、その日の朝は緊張するんですか？
- 糸井
-
緊張はしないけど、
そのとき永ちゃんが出てくるわけですよ。
永ちゃんが出てきて、
「矢沢、楽しめ」って俺に声かけるんですよ。
- 燃え殻
-
糸井さん、心の中に永ちゃんを飼ってる？
- 糸井
-
飼ってる。
明らかに俺は心の中に永ちゃんがいる。
永ちゃんと話したとき、
「俺もステージの前はドキドキする」
って話を真面目にしてたわけよ（笑）。
で、洗面所とか前の日のお風呂とか、
鏡に向かって「できる。おまえならできる」って
言い聞かせるって。
- 燃え殻
-
語りかけて。
- 糸井
-
うん。それはわりとわかるじゃないですか。
で、ある段階まで行ったら今度は、
戦いじゃなくて、「楽しめ」って
言うようになったっていうわけだよ。
「矢沢、楽しめ、OK」。
楽しみにしてる人と俺とが楽しめばいいんだ
って思ったら、勝ちも負けも失敗も成功もなくさ、
「楽しめ」って出てくるんだって。
- 燃え殻
-
ああ、でも、そうかもしれない。
- 糸井
-
嫌に決まってるなんてことだらけだよ、
苦手だったことはね。
でも、その「楽しめ」を俺が覚えてたおかげで、
どれだけしのいできたか。
だから、対談って何でもいいのよ。
とくに新人の立場だったら、もうノー問題。
- 燃え殻
-
なるほど。そうですね。
そういうほうが面白いっていうふうに
糸井さん思ってるんですよね。
- 糸井
-
うん。このことだけは伝えなきゃみたいなことは
１つもないし、あるとぼく、
できなくなっちゃうんです。
このことを伝えなきゃって仕事になっちゃうから。
- 燃え殻
-
「これだけは言ってくださいね」みたいな。
そういえばこの間、テレビに出たんです。
そしたら、「途中でこれを言ってください」って
１個だけぼくがしなければいけない質問があって。
「これだけなんで。
あとはこっちで全部巻き取るんで」
って言われたんですけど、
それがすごい気になっちゃって。
ずーっとそれのこと考えてるんですよ。
- 糸井
-
俺もそうだよ。
- 燃え殻
-
それ１個が入っちゃうことによって、
全部ダメになっちゃうんですよ。
- 糸井
-
わかる。もうまったくそう。
- 燃え殻
-
ぼく、スマホで今回小説を書いたっていうことで、
それで何度か受けた取材で、
答えが決まってるのがあったんですよね。
シートが来たんです。
それにぼくの答えが書いてあったんです。
- 糸井
-
はいはいはい。
- 燃え殻
-
違うこと言ってもいいと。
ただ、答えは用意してきました
っていうのがあって、
「スマホで書いたことによって、
スマホ世代の人たちに
読まれる小説になりました」って
書いてあったんです。
ちょっとそれがやっぱり‥‥。
- 糸井
-
引っかかる（笑）。
- 燃え殻
-
ワードが使えなかったり、あと仕事してるので、
移動の時間とかに書くことが
一番効率がよかったんですよね。実は。
で、日比谷線が出てくる小説だったので、
電車の中で書いてると都合がいいんですよ。
でも、うっすらとその答えに沿わせたんです。
で、仕上がってくると、
そこが強調されて出てきたりとかする。
- 糸井
-
そうだね。他人が言ったら、
「えー？」って思うことを自分が
言わなきゃいけないんだよね。
- 燃え殻
-
そうなんです。
で、また、ぼくの肩書がまた難しいんですよ。
ネットで出すときの肩書、新聞で出すときの肩書、
その新聞の種類にもよる、で、雑誌のときに、
向こうから「この肩書どうですか」って、
またそれもスッと来るんです。
- 糸井
-
いくつもあるわけだ。
例えば何がある？ 「作家」はある？
- 燃え殻
-
「作家」もある。「会社員」もあった。
- 糸井
-
（笑）あとは何がある？
- 燃え殻
-
「コラムニスト」みたいな。
- 糸井
-
ああ、なるほど、なるほど。
- 燃え殻
-
コラムニストと言っていいの？ って（笑）。
あと、「ライター」と言われたこともある。
で、あと‥‥「テレビ美術制作」。
「ツイッタラー」。
- 一同
-
（笑）
- 燃え殻
-
これね、面白半分に言われたんですよ。
面白半分雑誌に。「それでいいです」って
ぼく言いましたけどね（笑）。
「ツイッタラー」だったら、
バカだって言って笑われて終わりじゃないですか。
「作家」だったら炎上するかもしれないですけど。
- 糸井
-
やりにくいんだね。
- 燃え殻
-
やりにくいんですよ。
- 糸井
-
もういいかって思ってるわけだね。
それね、ぼくももうずっと
「もういいか」ですよ。
- 燃え殻
-
糸井さんって肩書何なんですか。
- 糸井
-
今は多分、「ほぼ日刊イトイ新聞主宰」か、
「ほぼ日社長」が増えたな。
「コピーライター」も
まだまだいっぱいありますし、その３つかな。
俺、思うんだけど、
地方の新聞に出るときの肩書が
一番一般的に通用しやすいんじゃないかね。
- 燃え殻
-
本当にそう思う。
- 糸井
-
だから、地方の新聞に出てるときには、
「ほぼ日主宰」とか書いてあるよりは、
「コピーライター」って書いたほうが、
なんか落ち着きがいいと思うんですよね。
それだったらそれでいいやって。
もう最近ほら、
「樋口可南子の旦那です」っていうので‥‥。
- 燃え殻
-
（笑）
- 糸井
-
もうね、攻めてくの。さっきの「楽しめ」と同じ。
鶴瓶さんから学んだよ、それ。
鶴瓶さんも、声かけられそうだなと思ったら、
「鶴瓶でございます」って。
- 燃え殻
-
あ、もう先に攻めてく。
- 糸井
-
鶴瓶さんは攻めてく。
俺、一緒に歩いたことあるんだ、大阪を。
攻める攻める。攻める（笑）。歩いてく。質問もする。
あれはすごいわ（笑）。
