燃え殻さんと糸井さんの5つの「書く」話
担当・しろくま

第2回 本当に書きたかったことは、たわいない日常
- 燃え殻
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この小説で本当に書きたかったのは2か所ぐらいしかなくて。
- 糸井
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ほう。(しみじみ)
- 燃え殻
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それは書きたいことというか、訴えたいことじゃないんです。書いてて、自分がたのしいみたいな。
- 糸井
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自分がうれしいこと。うんうん。
- 燃え殻
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それが2か所ぐらい。読まれてない方、会場にいっぱいいると思うんですけど(笑)。
- 糸井
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読まれてる度をちょっとチェックしてみる?
- 燃え殻
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ああ、そうですね。
- 糸井
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えーと、この小説を買った人‥‥買った人率高いです。いいです、下ろしてください。読んだ人‥‥あ、減ります(笑)。下ろしてください。
- 燃え殻
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読んだ人って減るんですか。
- 糸井
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えーと、読んでも買ってもいない人・・・・あ、いいんですよ。
- 燃え殻
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あ、いいんです、いいんです。
- 糸井
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その人用にしゃべります。
- 燃え殻
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あ。え?(笑)
- 糸井
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つまり、90年代の空気を残したかったんです(笑)。

- 燃え殻
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あ、もう、なんか一番いやな感じに(笑)。で、これ本当にあったんですけど。ぼくは朝ゴールデン街で寝てたんですよ。
- 糸井
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ゴールデン街の外で寝てたわけじゃないでしょう?
- 燃え殻
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外で寝てたんじゃなくて、ゴールデン街の狭い居酒屋。まあ、居酒屋しかないんですけど、ゴールデン街。
- 糸井
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そうだね(笑)。
- 燃え殻
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ゴールデン街の半畳ぐらいの畳に寝てたんですよ。そしたら、ぼくの同僚が、えーと、ママ、パパ、ママみたいな人と‥‥。
- 糸井
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ママ的なパパ。
- 燃え殻
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そう。ママ的なパパとあさごはんを作ってるのを見てるんです。すごいほうじ茶を煮出してて、ご飯の匂いがする。外は雨が降りつけてるのに、網戸はパーッと開けっ放し。でも、お天気雨みたいな感じで、陽が差してるんです。
何時かちょっとよくわからないんだけど、多分、七時前ぐらい。今日も仕事に行かなきゃと思いながらも、頭がすごい痛い。で、同僚とママとのなんでもない会話を聞きながら、ボーッとしているうちに、もう一度二度寝しそうで・・・・でも、寝落ちはしない。
で、なんか今日嫌なスケジュールが入っていなくて、昨日嫌だったなあみたいなことはない。それに、ありがたいことに、内臓だったり痛いところがない。
他人から見たらなんてことのない1日なんですけど。この時間のことを書いてるときは、気持ちがよかった。
- 糸井
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あ、よいですね。

- 燃え殻
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で、もう一つはラブホテルの・・・・まあ、こんな公共の場で言うのも何ですけど(苦笑)。
目が覚めたらあたりは真っ暗で、これは朝なのか夜なのかわからない。で、なんかもう喉がカラカラ乾燥してるから、ポカリスエットなかったっけなって自分の下着と一緒に探す、と。
で、お風呂でも入れようと洗面所のほうに行ったら、下のタイルがすげえ冷たくて。それに、安いラブホテルなんで、お風呂のお湯の温度が定まらないんですよ。「アツ! さむ!」みたいな(笑)。
そのときに、ああ、でも今日、これからまた仕事なのかって思いながら、「地球とか滅亡すればいいのにねえ」みたいなことを、ああだこうだとそこにいた女の子と言ってるんですね。その女の子もまた適当な子で、なんかこう全然働く気がなくて・・・・っていうその場面を書いてるときは楽しかった(笑)。
ただ、そんなことを取材で言うと、「ふざけんな」って言われるじゃないですか。
- 糸井
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はあはあはあ。
- 燃え殻
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「知らねえよ」みたいな。
でも、それを書きたかったんですよねえ。