- 糸井
-
最後にこの話をして終わろうと思うんです。
はっきり、燃え殻さんはすごいですよって
いうものがあって。
- 燃え殻
- はいはい。
- 糸井
-
それは、とんでもない角度から
いろいろな質問を受けている人生相談。
あの質問に答えてる燃え殻さんは、
すっごく同じ場所に立ってる。一生懸命に考えてて。
エッセイでも何でもないんだけど。
ものすごい発見があって、ぜんぶ面白い。
- 燃え殻
- えー、ありがたい。
- 糸井
-
あれは、もし職業名であるならば
人生相談士っていうのに‥‥(笑)
- 燃え殻
- 怪しい(笑)。
- 観客
- (笑)。
- 糸井
-
そう名乗ってもいいくらい、あれはいい。
うちで谷川俊太郎さんの人生相談の本を
出してるんだけど、
『谷川俊太郎質問箱』っていう‥‥
- 燃え殻
- ぼく、持ってます。
- 糸井
-
あれ、いいでしょう?
あれぐらい面白い。
- 燃え殻
- ええ!!
- 糸井
- 本当にそう思う。
- 燃え殻
- ああ、ありがとうございます。
- 糸井
- 本当にあれ一生懸命やってますよね。

- 燃え殻
- もう一生懸命やるしかないし‥‥
- 糸井
- そうですよね。
- 燃え殻
-
あ、その話でいうと色々な著名人に会って、発見があって。
ずっと前から雑誌やテレビで見ていた
糸井さん、堀江(貴文)さんや会田(誠)さんたちは
「わっ、すごいな、全然かなわねえ」って思ってたんです。
当たり前じゃないですか?でも、いざ会ったら
「あ、人間じゃん」って思ったんですよ。
すごい失礼なんですけど‥‥。
- 糸井
- うんうん。
- 燃え殻
-
何十パーセントかは、みんな一緒なんだなと。
文春オンラインでやっている人生相談に
送られてくる相談も、
まったく同じことはないけど、
「俺もそういう気持ちになったことあるよ!」
っていうことばかりなんですよ。
性別や年代が違ったとしても、
生きてる場所や職業が違ったとしても。
だから、まず、その話をしようって。
それで、その人と握手したいというか。
- 糸井
- ああ‥‥。
- 燃え殻
-
まったく同じではないかもしれないけど、
ぼくはこういうことで、
あなたと同じような気持ちになった。
それで、あなたの話なんだけど、
もしかして、こうなんじゃないかな。
もし、ぼくがあなたの立場だったらこう思う。
違っていたら、ごめんなさい。
ぐらいまで答えるっていう感じですよね。

- 糸井
-
そうそう。何よりもぼくがいいと思ったのは
その燃え殻さんのいい意味での
気の弱さがあるおかげで
その相談してきた人に
嫌な思いしてほしくないっていうことなんですよ。
- 燃え殻
- ああ、それ思います。
- 糸井
-
一番効率的だったり、一番真実に近いところで
回答するんだったら、その人を1回傷つけてでも、
これは教えたほうがいいってことはあるじゃないですか。
いい答えはいっぱいあるんですよ。
今までの人生相談なんかでも。
ぼくもそれはよくやるんです。
今は悲しいかもしれないけど
絶対このほうがいいからっていうのを言うときが。
- 燃え殻
- うんうん。
- 糸井
-
だけど、燃え殻さんは、
その人が嫌な思いをしませんようにって
いうのを前提にしながら答えている。
- 燃え殻
-
ほんとに、その通りです。
あの悩み相談って、ガチでやってるから
拙くても、そのまま載せて貰ってるんです。
- 糸井
- ほうほう。
- 燃え殻
-
そうじゃないとつまらないんで。
ぼくもやる気が起きないし。
相談者は自分が悩みがあって、
さらに、それをネットにメールする。
それって、レスキューじゃないですか。
- 糸井
- うんうん。
- 燃え殻
-
その人は相当悩んでる。
もしくは自分としても答えが欲しいみたいな。
それぐらい真剣だったら、
それぐらい傷ついてるだろうし、
それぐらい悩んだなら、
もういいじゃないかってぼくは半分ぐらい思っていて。
それを投げ出さなかったという時点ですごいなって。
- 糸井
-
うんうん。
だから、あれは人生相談に答えてるというよりは
その人と隣り合わせで慰めてるんですよね。
- 燃え殻
- ああ、そうです。そう思ってました。

- 糸井
-
このところ、ぼくがものすごく考えてる
「慰め」っていうことの大事さだと思うんです。
燃え殻さんの人生相談の中には「慰め」があるんですよね。
演歌を歌って、この境遇を慰めてることで
もしかしたら明日は笑って過ごせるかもしれないと
思うことは、それこそ「ブルースだ」とも言えるし。
- 燃え殻
- うんうんうん。
- 糸井
-
それを取っちゃって、
ほかにどんな道があるの?って。
責任持ってくれるのかよという。
- 燃え殻
- そうなんですよ!
- 糸井
-
だから弱いところにいる自分を抱きしめたい、撫でたい。
それがもっと大事になると思うんですよね。
これ、ぼくに案外なかったことなんで。
- 燃え殻
- あ、そうなんですか。
- 糸井
-
そのくせ、自分が慰められたいから、
ぼくは夜中にいろいろな音楽を聞いてるけど、
本当にハマるのは中島みゆきや演歌だったりするからね。
それは、音楽を語る系譜の中で
変な道に入ったかのように見えるんだけど、
「慰め道」からしたら、
当たり前のところに来てるんだなって。
- 燃え殻
- ああ、そうだと思う。
- 糸井
- 慰めの重要さをわかってもらう時代が来るような気がする。
- 燃え殻
-
うん。傷がかさぶたになって、
それが取れて、きれいになりました、
というのはすごく素晴らしい。
けれど、そんなことばっかりじゃないから。
- 糸井
- そうそうそう。
- 燃え殻
-
そのかさぶたのままだったり、
止血をしながら生きていかなきゃいけない時も
たくさんありますよね。
- 糸井
- そうそうそう。

- 燃え殻
-
そういうことですよね。
まあ、悩みで言えば、
「一旦保留にしようぜ」っていう人生相談が
なんでなかったんだろうって。
- 糸井
- まさに燃え殻さんの人生相談がやってますよね。
- 燃え殻
-
ぼく自身も一旦保留にすることで
生きてこられたことがたくさんあった。
それこそ昔の手帳を見返すと、
解決してないことばっかりなんですよ。
それが解決して、上から斜線で消してあると
「はい、これだけ成長した」ってわかる。
でも、過去の自分よりも今の自分が成長してるっていう
優越感に浸りたくて手帳を見てるわけじゃないんです。
「うわー、俺、昔のほうがちゃんと考えてる!」とか。
- 糸井
- あるあるある。
- 燃え殻
-
それを見られるのもすごくよくて。
保留にしたことによって、自分でも忘れられる。
それで、いったん置いておいて、
将来の自分が解決してくれたり、
将来の自分がもう一回置いとこうかって思ったりしながら
生きていくとぼくは思うんですよね。
- 糸井
- うんうんうん。
- 燃え殻
-
そういうほうが、何ていうんだろう。
リアルな気がして。
全部がきれいに片付いてるほうがいいけど。
- 糸井
- うん。
- 燃え殻
- 答えがいらないときって多いと思うんですよ。
- 糸井
- そうそう。ご飯食べるとかさ。
- 燃え殻
- そう。お腹いっぱいになると、けっこう解決したりしません?
- 糸井
- あと、歩く。
- 燃え殻
- ああ、歩くもあるかもしれない。
- 糸井
- 歩くは強い。ぼくは大体、歩くでごまかしてるね。
- 燃え殻
- 歩くとアイデア出ますしね。
- 糸井
-
アイデアも出るし、
あと、これじゃないなっていうところに
行きそうになってる問題が忘れられますね。
歩くは本当にいい。
- 燃え殻
-
歩くもいいし、やっぱり書くのもいいんですよ。
いいことも悪いこと、自分が思ったことを書く。
それが何かの役に立つかなんて、考えないで書く。
あとで見ると、「おまえ、何書いてるんだ」って
思うんですけど。
- 糸井
- はいはいはい。
- 燃え殻
-
思うけど、そのときはそれがいいと思ったんだろうなと。
書いてるときはそれに直接的なことしか考えてないけど、
第三者としての自分でそれを見返したときに
「あ、この言葉はうちのアシスタントに言えるな」
と思って、その言葉を使ったり。
そういう意味でも、
今、自分が必要だからする努力じゃないもの、
わからないけどって言って書いたものがあるから、
人と対したときに何か言葉が
出てきたりすると思うんですね。
- 糸井
-
うん。それで思い出したんだけど
今、ぼくらが読者会やってる
『うらおもて人生緑』という色川武大さんの本の中に
「言い訳に使えるなと思った種は
どんどん仕込んでいきなさい」というのがあって。
さすがにいい博打打ちでしょう?
- 燃え殻
- はいはいはい。
- 糸井
-
だから、それでしのげるだけで
一番大事なヒヨヒヨとした
粘膜の中側のところに傷が行かないんだよ。
そういうのは技術なんだけど、
子どもに教えてあげたい感じはします。
- 燃え殻
- わかりますね。
- 糸井
-
いくら続けてもいいんですけど、そろそろ終わりにしようかなと。
いっぱいしゃべってる無口じゃない燃え殻さんが味わえたと思います。
どうもありがとうございました。
- 燃え殻
- ありがとうございました。

(お読みいただき、ありがとうございました。)