もくじ
第1回書きたい理由なんて、ほぼなかった。 2017-10-17-Tue
第2回ぼくだけが見た景色。 2017-10-17-Tue
第3回俺の話を聴け。 2017-10-17-Tue
第4回答えを出さないこと。慰めること。 2017-10-17-Tue

1994年生まれ。学生です。
水泳、空手、チェロ、生徒会活動、
シンガーソングライター、広告会社のインターン。
今日まで色々なことに挑戦してきました。
今度は「書くこと」に挑戦します。
よろしくお願いします。

なんでボクたちは書きたいのだろう?

なんでボクたちは書きたいのだろう?

担当・川西

第2回 ぼくだけが見た景色。

糸井
例えば、「やせ蛙まけるな一茶これにあり」。
これは俳句っていう短い形式だけど、
「やせ蛙」っていう見方をしたっていうのが
まずうれしいじゃないですか。
燃え殻
うん。
糸井
ただ蛙だったところに、「やせ蛙」って言っただけで
もう「あ、いいな」って。
ちょっとこう、「やせ蛙だな。」みたいな(笑)。
そこに、なぜだか知らないけれど、
「負けるな」って気持ちが乗っかる。
それを自分に言ってるんだか、
蛙に言ってるんだかもわからない。
燃え殻
はい。
糸井
やせた蛙を見たっていうのを形にできると
うれしくなるみたいな。
燃え殻
はいはいはい。
糸井
だから、何かを書いてみる嬉しさっていうのと、
今、燃え殻さんがゴールデン街の居酒屋で横になって、
やせ蛙を見つけたみたいな(笑)。
燃え殻
うん、そうですね。
ぼくだけが見てる景色を切り取れた喜びみたいな。
糸井
そうそうそう。

燃え殻
それでいうと、
僕は仕事で使う21冊の手帳を
全部取ってるんですよ。
糸井
そうらしいね。
燃え殻
はい。デスクに21冊全部置いとくのは邪魔なので
6冊、7冊ぐらいを
デスクの引き出しの中に入れてるんですよ。
終わっちゃった手帳なんで、
いつの手帳かっていうのはもうランダムで。
 
それを読み返すっていうのが仕事中とか
ちょっと時間ができたときに
自分の安定剤のように手帳を使っているんですね。
当たり前ですが、その手帳には予定が書いてあります。
糸井
書いてあるね、うんうん。
燃え殻
ぼくは今、テレビの裏方の仕事を主にやってるので
ここに納期があって、次の仕事の納期はこれだけあって、
この日は打ち合わせがあるっていうのが書いてあるんです。
その予定がどうなったかも、もちろん書いてある。
糸井
必要だからね、そこはね。
燃え殻
はい。そこに、もうひとつ書いてることがあって。
初めて会った人の特徴や
似顔絵が描いてあったりするんです。
次に会った時、困らないように。
あと名刺をそのまま貼って、似顔絵を描いていたり。
そういう人いると思うんですけど。
糸井
うん、そういう人いるよね。

燃え殻
あと、ある日はたまたま食った天丼がうまかった。
その店の名前を忘れるなって思って
その天丼屋の箸袋が貼ってあったりとか。
 
結局、十何年行ってないんですけど。
でも、天丼のシミとか付いてて。
糸井
行くかもしれないっていうのが、
自分が生きてきた人生に
ちょっとレリーフされるんだよね。
燃え殻
はいはいはい。
糸井
行かなくもレリーフとして、残ってんだよね。
燃え殻
そう、行かなくても残ってる。
糸井
その感じと燃え殻さんの文章を書くっていうことが
すごく密接で(笑)。
燃え殻
すごく近い気がする。
糸井
ねえ。
これは俺しか思わないかもしれないって思うことが
みんなに頷かれた時って、
「悔しい」じゃなくて「うれしい」ですよね。
燃え殻
すごくうれしい。
糸井
さっきのゴールデン街で酒飲んで、そのまま寝ちゃって
起きたときのお天気の話でも
同じことを経験してないけど、
頷ける人はけっこういると思うんです。
それを発見したのは「俺」なんです、明らかに。
だけど、それが同時に通じるっていう。
燃え殻
そうですね。「経験してないけど、わかるよ」
っていうところがうれしい。
糸井
うん、うれしい。
燃え殻
あと、手帳の話でいうと、そのときの自分の悩みや
嬉しかったことも書いてあったりとか。
糸井
ああ・・・、書いてある(笑)。
燃え殻
悩みだったり関係性がどんどん変わっていく様が
見えるから、手帳を読み返すんですよね。

糸井
はぁー。その手帳に書いてあることの中に、
書いてないけど、自然に乗っかっちゃうのが音楽でしょう。
これとこれのときに、この音楽みたいな。
燃え殻
はいはい。
糸井
それは書いてないけど、実は流れてますよね。
燃え殻
うんうん、そうですね。流れてる。
糸井
どこかに流れてますよね。
人が「思ったんだ」ってことを刻んでおきたいって
とても貴重ですよね(笑)。
燃え殻
そうですね。
音楽もさらに共有できることじゃないですか。
だから、小説を書いたときに、
そのところどころに音楽を挟んでいったんですよ。
糸井
入れてますよね。
燃え殻
それは、自分自身がそこでこの音楽がかかってたら
うれしいなっていうのと、
ここでこの音楽がかかってたらマヌケだなっていう。
その両方で音楽は必要だった。
糸井
うんうん。
燃え殻
そうすると、読んでくれている人が
共鳴してくれたり、共有してくれたりとか、
共感してくれるんじゃないかなって思ったんですよね。
糸井
耳ってふさげないから、ある種、音楽って
暴力的に流れてくるじゃないですか。
燃え殻
はいはいはい。
糸井
聞きたくなくても。
燃え殻
そう。
糸井
でも、そこまで含めて思い出だ、みたいなことって
あとで考えると嬉しいですよね。
燃え殻
そうなんですよ。
糸井
なんだろうね。
燃え殻
なんだろう。
糸井
景色みたいなものだね。
燃え殻
そうですね。景色に一つ重ねていって
共感度とか深度が深まるような気がして。
この小説でいうと、同僚と最後に別れるっていう
シーンがあるんですけど、
映画や色々なドラマだったら、
やっぱり悲しい音楽が流れてほしいじゃないですか。
糸井
ああ。
燃え殻
そこでAKBの新曲が流れるっていうところを
ぼくは入れたかったんですよ。
糸井
いいミスマッチですよね。
燃え殻
そう。もう俺たち会わないなっていうのはわかる。
わかるけど、それは言わないで、
「おまえは生きてろ」みたいなことを言う。
それを言ってる時、AKBの新曲がのんきに流れてるという。
ある、あるよなって、なんかこう(笑)‥‥。
糸井
あるある。

燃え殻
そう思いますよね?
糸井
おおいにある。
だから、「自分が主役の舞台じゃないのが世の中だ。」
っていうのを表すのに外れた音楽を流すというのは
すごく、すごくいいですね。
 
ぼくはそれ、技術として書いたことが
はっきり覚えてることがある。
知らないと思うんだけど、
『ただいま』という矢野顕子のアルバムがあって、
「ただいま」って言うために階段を駆け上がってくるときに
「テレビの相撲の音とか聞きながらね」って、歌詞がある。
燃え殻
へぇー。
糸井
テレビの相撲の音って、
自分のためのものじゃないんですよね。
若い男女にとって。
男の子と別れた女の子が歌う歌の中に
昔だったら、テレビの相撲の音とかが
よそのアパートから流れてくるという。
燃え殻
あー。
糸井
それを聞きながら「ただいま」と言うシーンを書いたときに
なんで俺、相撲の音とかって書くんだろうって
書きながら思ったんですよ(笑)。
そのときに「ああ、自分のための世の中じゃないとこに
いさせてもらってる感じだな」って(笑)
燃え殻
ああ、今思いました。
糸井
ですよね(笑)。
燃え殻
はい。なんでAKB入れたんだろうって。
糸井
燃え殻さんの小説の中に
いっぱい出てくるのはそれですよね。
俺のためにあるんじゃない町に紛れ込んでみたり(笑)。
俺のためのパーティじゃないところにいたり(笑)。
燃え殻
そうですね。
所在無しみたいなところに
ずっと生きてるような気がして。
糸井
いる場所がない(笑)。
燃え殻
中華街で手相を見てもらった時、
「未来がない。」って言われたんです(笑)。
観客
(笑)。
燃え殻
ひどくないですか?(笑)。
お金払ってるのに(笑)。
でも、だったら自由だなと思って。
糸井
うんうん。
燃え殻
とはいえ、そこに所在がない感じのまま、
生きてる感じはずっとある。
 
だから、
どこにも居場所がないっていう感じで生きてて、
居場所がないっていう共通言語の人と‥‥。
糸井
会いたいよね(笑)。
燃え殻
そう、会いたい。
糸井
それは、みんな感じてるんじゃないですか?
さっきの「あの90年代の空気を書きたかった。」みたいな。
自分の中で、「とりあえずこの言葉で納得しておこう。」
というところに自分を置く。
燃え殻
うん。
糸井
そこは今日は考えないことにしようと思って、
考えないことが溜まってってるんじゃないですか? 
それよりは忙しいことが結構あるから。
燃え殻
ああ。
糸井
これをやらないと怒られるよってことを先にしますからね。

(つづきます。)

第3回 俺の話を聴け。