糸井

通り一遍なことを聞くんだけど、会社は辞めないんですか？

燃え殻

えーと、絶対辞めないです。

糸井

絶対辞めないですか（笑）。

燃え殻

絶対に辞めないです。
いま、いろいろなメディアにぼくが出たりするのを、
うちの社員が見てくれているんです。
それが1番面白いというか、うれしいんですよね。

糸井

ああ‥‥。

燃え殻

会社に入ってからずっと、
テレビ局だったり業界の人たちから、
「おまえの会社は数に入っていない」って言われ続けて。
　
この会社を、世の中で認めてもらえるには
どうしたらいいだろうって、
社長も僕も、いろいろと考えながら一緒にやってきたんです。
そうして、やっと会社がうまく行きはじめたとき、
ぼく自身が「いて良し！」って言われたような
喜びがあったんですよね。
それこそ、竹中直人の似顔絵が選ばれたときと同じように。

糸井

うんうん。

燃え殻

そうやって一緒に頑張ってきた社長が
ぼくの小説を読んでくれて。
会社の利益につながるわけでもないのに、
血縁関係もない、アルバイトで入ったような人間が
勝手にやったことを、ただただ、喜んでくれたんです。

糸井

ずっと一緒にやってきた仲間がね。

燃え殻

もしかしたら親より喜んでくれて。
それが1番うれしかったなあ。

糸井

その答えは、なんかすごくいいですね。

燃え殻

だから、「会社は辞めないんですか」
って、よく聞かれるんですけど、
絶対辞めないですね。

糸井

いや、ほんとうに聞いててうれしいです、なんだか。
何でしょうね。

燃え殻

でも、本音ですね。

糸井

「喜んでもらいたい」っていうのは、
小説でも美術制作の仕事でも、
燃え殻さんの基本姿勢なんだよね。

燃え殻

小説だろうが、美術制作のフリップ１枚だろうが、
とにかく全力で取り組んで。
できれば喜んでもらいたいって思ってます。
　
だから、
「この作品で何を伝えたかったんですか？」って
記者の人がよく聞いてくるんですけど、
自分が訴えたいことなんて、正直なかったです。
どうやったら共感してくれるかな？とか、
こうやったら面白いって思うかな？とか。
そんなことばかり考えてました。

糸井

喜んで欲しい誰かがいて、
その人にどうやって喜んでもらおうかって試行錯誤してたら、
いつのまにか手をつないでいました。みたいな。
そういうことだよね。

燃え殻

ぼくはもう、それだけですね。
山藤さんに絵を選んで欲しいって思ったり
ラジオ投稿で読まれたいって気持ちに近いんですけど、
せっかく小説として流通するものを作れることになったから、
関わった人も含めて多くの人が喜んでくれることを
とにかく探してました。

糸井

うんうん。

燃え殻

人を驚かせたり、悲しませるのって
狂気的なことをすればいいから、ある意味簡単なんだけど、
喜ばせるって、すごく難しいぞって思っていて。

糸井

そうだよねえ。

燃え殻

あと、安心させるのも大変。

糸井

人って、普段は浮かない気持ちでいるからね。
そんな人たちを浮かせる、気持ちよくさせるっていうのは、
実は力仕事ですよね。

燃え殻

そうなんだと思います。
その人が、今どんな状態かってわからないじゃないですか。

糸井

そうだね、わからない。
「お前なんかが持ち上げようとするなよ、ほっといてくれよ。」
って、思ってるかもしれない。

燃え殻

そう思っている人がいるのはわかっているつもりだけど。
まあ、ぼく自身、明るい人間じゃないんで、
そんなぼくが喜んだり面白がったり出来るものが書ければ、
ほとんどの人だったらもうちょっと、
調子が出るだろうから。

糸井

調子が出る（笑）。
　
でも、燃え殻さんは、
その力仕事を、ずっと続けてきたことは確かだよね。

燃え殻

はい。そう出来てたらいいな、って思ってやってます。

糸井

少年時代の学級新聞から始まって。ラジオ投稿もそうだし。
小説も、もちろんそう。

燃え殻

そう、ですね。

糸井

みんなに喜んでもらうための力仕事をずっとやってきて。
ぼくは、燃え殻さんのそういうところに惹かれたんだなって、
今日お話を聞いて、あらためて思いました。

燃え殻

人がどう思っているか、ってことはいつも気になるし、
自分が喜んだり面白がったりするハードルがやたら高くて。
そのせいで生きづらかったりもするんだけど、
モノを作るのには向いてるんじゃないかなって
自分では思ってるんです。

(おわりです。最後まで読んで頂き、ありがとうございました！)