- 燃え殻
-
いまの糸井さんの話で、思い出したことがあって。
「宝島」っていう雑誌に、
ハガキを投稿したことがあるんですよ。
『エイリアン2』を彼女と観に行ったネタを書いて。
どんな話かっていうと。
まだ全然エイリアンが出てこない、
宇宙船の中で普通に人間が会話しているシーンで、
急に彼女が「ギャー!」って叫んだんです。
- 糸井
- ええ(笑)。
- 燃え殻
-
そうしたら、
ぼくの周りの人たちがビックリして、
みんなが「ワー!」って叫びだして。
- 糸井
- それは叫ぶかもしれないね(笑)。
- 燃え殻
-
映画館中が、絶叫、絶叫ですよ。
ぼくも「ワー!」って叫んで(笑)。

- 糸井
- 彼女は、なんでそこで叫んだの?
- 燃え殻
-
あとで聞いてみたら、べつに何もなくて、
ハラハラし過ぎて思わず出ちゃったらしいんですよ。
「エイリアンが出てきたのかと思った」って。
そのことを書いて「宝島」に送ったら、採用されたんです。
- 糸井
- 何のコーナーに送ったか覚えてる?
- 燃え殻
-
えーと、松沢呉一さんだったかなあ。
それが載ったとき、
周りがめちゃくちゃ褒めてくれたんですよ。
- 糸井
-
だって、それ面白いもの。
でも、燃え殻さんがすごいのは、
面白いことに出会って、それを「宝島」に投稿するために
絵を面白くリサイズしたことだと思うんだよね。
- 燃え殻
- リサイズしました、たしかに。
- 糸井
-
つまらなく書くこともできるからね。
「友達が映画館でギャーと言いました」とだけ書くとか。
- 燃え殻
- ああ、それはそうですね。

- 糸井
-
「宝島」には、きっと
日本中から面白いことが送られてくるじゃないですか。
その中で選ばれたっていうのは、
日本一を決めるコンテストに出れたみたいな、
そんなうれしさがあったんじゃないかな。
- 燃え殻
- 日本一ですか。
- 糸井
-
ぼく、子どもの頃から、
クラスで1番になって威張ってるっていうのは
どうなんだろうと思っていて。
学校の中でも何クラスもあるのに、
クラス内でふんぞり返ってるのは違うじゃないですか。
- 燃え殻
- それはわかります!(笑)。
- 糸井
-
学校で1番になっても、学校は山ほどあるし。
市で1番でも、県で1番でも、
全国では通用しないこと、たくさんあるから。
ぼくは自分のことも
全国というか、世の中では全然通用しないと思ってた。
- 燃え殻
- はい、すごくわかります。
- 糸井
-
『エイリアン2』の話は、
クラスで友達にウケたのも嬉しいけど、
その友達にウケた話は、世の中でも通用する!
って手応えがあったことがうれしかったんじゃないかな。
- 燃え殻
-
ああ、そうかもしれないですね。
きっと、山藤さんに似顔絵が選ばれたのもそうだし。
ラジオ投稿が読まれたのも、
そういう、うれしさだったかもしれない。
- 糸井
- うん、そうそう。
- 燃え殻
-
自分にとって有利でない場所で、
まったく血縁関係もない誰かに
突然、引っ張り上げられるみたいな、
そういう感じが、なんだかすごくうれしくて。
「あ、俺はいてもいいのか」って思えたんですよ。

- 糸井
-
それは本当にうれしいと思う。
だけど、下手すると、
ただの「有名になりたい病」になったりする可能性もあって。
そうやってダメになった人も山ほど知ってるんだよね。
だから、ぼくはそのダメになっちゃうみっともなさに対して
ものすごく慎重になってる気がするんです。
でも、やっぱりいい気になって舞い上がることもあるし。
- 燃え殻
- 舞い上がること、ありますよね。
- 糸井
-
慎重になったり舞い上がったり、を繰り返していると、
自意識がどんどん強くなっちゃって
今度は「普通でいられるってすごい」って思うんですよね。
- 燃え殻
-
ああ、それは本当にそうかもしれない。
対談とかで、憧れていた人に会える機会が増えたんですけど、
ずっと会いたかった憧れの人が
普通の人だったっていうことに感動しちゃうんですよね。
- 糸井
- うん、すごい人って普通なんですよね。
- 燃え殻
-
憧れの人がしてくれる「普通だな」って思える話を通して、
ぼくがその人と、つながっていたことを知れるのが
なんかもう、うれしいんです。
- 糸井
-
うんうん。
同じことを感じられる、似たような人間だぞって。
- 燃え殻
-
その人が書いた素晴らしい作品があって、
ぼくもその作品と無関係じゃないんだな、
つながってるんだなって思えるんですよね。
今日も、糸井さんの話に「そうそう!俺もだよ!」
って、何度も思いましたけど、
そういうのが1番うれしい。
糸井さんがぼくの話に「俺も同じだよ」って
頷いてくれるのも、やっぱりすごくうれしいですね。
(つづきます。)
