- 糸井
-
この間、イケちゃんという、普段はすごく軽薄そうに生きてるカメラマンの写真展があって、急に対談することになって喋ったら、ポロッポロッと、いい話がいっぱい出てくるんだよ。普段そんな話しないからさ、「ちゃんと考えてたんだね」って言ったら、素直に「ええ」って言うんだよね。当たり前に考えてたことだから、なるほどって答えがあったりするの。
燃え殻さんにも、やっぱりそう言うのあるよ。
- 燃え殻
- あ、そうですか。
- 糸井
- 「そりゃだって考えざるを得ないじゃないですか」みたいな。
- 燃え殻
- ああ、うん、あります。
- 糸井
- それは絶対面白いんですよ。
- 燃え殻
- そうか・・・。
- 糸井
- 燃え殻さんは、その考えた節があるっていうのがもう小説になったりエッセイになったりしてるわけだから。それについちゃあね、答えはないんだけど書いたんだよみたいな(笑)。
- 燃え殻
- そうなんですよ。考えてるっていうことを出してるというか。
- 糸井
- そうだよね(笑)。
- 燃え殻
- はい。悩みとかも常にそうですよね。
- 糸井
- (笑)
- 燃え殻
- 悩みが解消しないんです。今悩んでることはまず置いておく、そして悩んでることが変わる・・・とか、そういうことだらけで。そうすると、また今後新しく枝葉が分かれて、悩みが2個に増えたり・・・。
- 糸井
- 知り合いでね、五十肩の痛みが痛風で意識されなくなった人がいて。
- 燃え殻
- (笑)
- 糸井
- ねえ。「五十肩どうしたの?」って(笑)。
- 燃え殻
- 痛風だと、今は。
- 糸井
- 悩みもちょっとそういうとこあるよね。
- 燃え殻
- あるあるある。本当にあります(笑)。悩みは悩みで消す、みたいのありますよ、本当に。やっぱりずーっと悩んでると病みますからね。ずっと同じことを考えてるっていうよりは、精神衛生上いいのかなあって。
- 糸井
- そんなに悩むんだ。
- 燃え殻
-
うん・・・。でも、そこでダメになるわけにはいかないというふうに思って、解消法としては、ほかのことを悩むという。
「おまえ、同じことばっかり悩んでて、つまんねえよ」って自分で言うんですよ。
「もっと何か面白いことないの?」って。
- 糸井
- ああ、面白い悩み。
- 燃え殻
-
「新しい悩みが欲しいなあ」みたいな。
- 糸井
- あ、そう言われると、自分にもそういうとこあるかもしれない。それちょっと難しいんだけど、そっち行っちゃったほうがややこしくなっちゃうんだけど・・・っていう感じ。
- 燃え殻
- それ本当にわかる。それ本当にわかる。
- 糸井
- そう?(笑)
- 燃え殻
- うん。あのね、面倒くさくしちゃったほうがいいってときあるんです。
- 糸井
- 面倒くさくないと、することが見つからないのかね。
- 燃え殻
- 悩んで解決しない人ってね、「人生が」とかすぐ言うんですよ。ぼくはお酒飲むんで、お酒とか飲むと、とくに言いがちなんです。「やっぱり人生ってさ」(笑)。
- 糸井
- ああ、ああ。
- 燃え殻
- でかいんですよ、悩みが。
- 糸井
- うんうん。
- 燃え殻
- そういう人にはやっぱりね、手元にね、悩みを置くことをおすすめしますね。そうするとそれに集中しなきゃいけないんで。それはお薦めですね。ぼく、そうしてます。「来週の納期ってさ」とか(笑)。
- 糸井
- うんうん。
- 燃え殻
- やっぱり来週の納期とかの話をしてると、いいですよね。いろいろ本当の意味で解決しますね。本当に前に進みます。
- 糸井
- その「来週の納期」の積み重ねが、「人生ってさ」の裾野だもんね。
- 燃え殻
- そうです。
- 糸井
-
燃え殻さんが書いてることは、絵っぽいですよね。パノラマみたいな、スケッチみたいな。
- 燃え殻
-
ああ、そうですね。
その景色さえ決まってしまったら、あとはクサくても大丈夫だし、何も起きなくても大丈夫なんじゃないのかなっていうふうに思う。
- 糸井
- 絵だね、やっぱり。絵やってた?
- 燃え殻
- 昔はやってました。ぼく、「山藤章二の似顔絵塾」っていうのにずっと出してたんです、似顔絵を。
- 糸井
- それで入選したの?
- 燃え殻
- 20回以上載ってます、「週刊朝日」の裏側に。ぼく、今でも持ってますよ、全部。
- 糸井
- ・・・知らなかった。
- 燃え殻
- 載ると、山藤さんがコメントくれるんです。「○○君、今回もまた竹中直人だね」。ぼく1年間、竹中直人さんの似顔絵だけでいろんなバリエーションで出してたんです。
- 糸井
- (笑)
- 燃え殻
- 学ランでエプロン着てる竹中直人とか、茶色い顔の竹中直人とか、バリエーションを変えて毎週送ってたんです。
- 糸井
- はぁー。
- 燃え殻
- 1年間で4、5回ぐらい、竹中直人さんで出ました。
- 糸井
- 山藤さんも選び続けた。
- 燃え殻
- そう。で、だから、「また竹中直人だね」って書いてくれて。
- 糸井
- (笑)
- 燃え殻
- そこでぼくは、生存確認してました。月曜の夜にコンビニ行って、火曜に出る「週刊朝日」を、早くほどけ!ほどけ!って。ほどいたら「すみません」って見て、載ってたら買って。
- 糸井
- それは素晴らしいんじゃない? 何か勲位をもらったんじゃない?
- 燃え殻
- 1年間で良かった作品を、最後に選ぶんですよね。その審査風景の写真に、ぼくの絵が写ってて「ある!」って。そのときの審査員が、山藤章二さんとかナンシー関さんとか松本人志さんとかだったんです。そういう人たちが選んでくれているところに自分のものがあるっていうのが・・・
- 糸井
-
ああ、それはすごい。
- 燃え殻
- それこそ、だから生きてる、っていうか、もうそこで山藤さんたちが選んでくれてるということで、価値がある人間なんじゃないかってこう・・・
- 糸井
- ただ落ちてる石ころじゃないぞと。
- 燃え殻
-
そう(笑)。
俺は面白い、どこか面白いんだって思わないと、多分やってられなかったんですけど、それを思って、高校3年から専門学校出て、働き出してからもずっと出してました。
- 糸井
- それは大事な何かだね。やり続けられたんだね。
- 燃え殻
- ほかにも、ラジオとかにも出したこともありますけど、そこでディスクジョッキーの人が自分のつけたペンネームを読んでくれる。そうすると、なんか認められた気がするんですよね。「いて良し」って言われたような気がしたんですよね。
- 糸井
- それは、みんなそういう気持ちでやってるんだね、きっとね。
- 燃え殻
- そうなのかなあ。
- 糸井
- 今思い出したんだけど・・・あなたの語りはいつも人に何か思い出を掘り起こすね。
- 燃え殻
- いやあ。
- 糸井
- 「ブレーン」という雑誌があって。
- 燃え殻
- ああ、はい、ありますね。
- 糸井
- 当時、コピーライター養成講座の先生が書いていた原稿の中に、「若手のコピーライターのI君が」って書いてあったんですよ。その「I君が」っていうだけで、これ俺なんだ!って、跳び上がるほどうれしかった。それで買った、それ。
- 燃え殻
- わかる。わかる。
- 糸井
- だから、そんなんだよね。その「いてもいいんだ」感。
- 燃え殻
-
本当です。それこそ今ので思い出しましたけど。
昔、雑誌『宝島』にも載ったことがあって。昔付き合っていた彼女に、「すごいじゃん」ってめちゃくちゃ褒められた話なんですけど。
彼女と一緒に、『エイリアン2』を観に行ったんですよね。そしたら彼女、エイリアンが出てこないところで突然、「ギャー!」って叫んだんです。ただ普通に、宇宙船の中で、エイリアンが出てきたら嫌だな・・・ってみんなが思ってる時に・・・「ギャー!」って。そうしたらもう、ぼくの周りで見てる人がびっくりして「ワー!」って言ったんです。本当に。
- 糸井
- そうだろう(笑)。
- 燃え殻
- そんなリアルサウンドないじゃないですか。
- 糸井
- うん、うん(笑)。誘い水(笑)。
- 燃え殻
-
そう(笑)。で、「ワー!」と言って、俺も「ワー!」と言ったんです(笑)。「いや、もう出てきたかと思って」って彼女が言って(笑)、周りの人たちが「えー!」ってまで言いましたからね。真っ暗な中で、「えー!」「まだ出てきてないし!」って。
- 糸井
- それ理由はあったの?
- 燃え殻
- 何も。もうハラハラし過ぎて言っちゃったっていうんですよ。で、それを書いて送ったんですよ、『宝島』に。そしたらそれが採用されたんです。
- 糸井
- それ、だって面白いもの、やっぱり。その面白いものに出会ってること自体が面白いんですけどね。出会わないらしいですよ、なかなか人は。
- 燃え殻
- そうなんですか?
- 糸井
- 燃え殻さんは、まず彼女が思わず「ギャー」って言っちゃったのにも出会ったわけだし、それを投稿するってとこまでもう1回リサイズして絵を描き直した。
- 燃え殻
- ああ、まあまあ、そう。
- 糸井
- それ、つまんなく言うこともできるからね。「友達がギャーと言いました」って。
- 燃え殻
-
ああ(笑)。
ラジオでもそうかもしれないけど、何かこう、まったく血縁関係のない、自分にとって有利でない場所で突然スポイルされるみたいな、「あ、俺はいてもいいのか」みたいな、そういう感じに思えたのかもな。
(つづきます)
