糸井

このあいだのロフト、ありがとうございました。

燃え殻

こちらこそありがとうございました。大丈夫でしたか、あれで。

糸井

ものすごく大丈夫だったんじゃないですか？

燃え殻

大丈夫かどうかってことだけ気にしながら生きてるんです。

糸井

大丈夫かどうか俺が決めるって人がそこに・・・

燃え殻

あ、恐ろしい。

ーー

本当に大丈夫です（笑）。

糸井

よく頑張ってるよね。

燃え殻

（笑）。あ、久しぶりに褒められた。

糸井

よく頑張ってるよ。いろんな、いいこともストレスだし、悪いこともストレスなんだから。新婚はストレスらしいからね。

燃え殻

あ、そうですか。あ、いいことでも？

糸井

あと、豪華マンションに引っ越したとしても、それはストレスだからね。環境が変わるのは人体が変わったのと同じだから、いわば。だから、変化はストレスなんですよね。

燃え殻

そうか。それでいえば、ここ２か月ぐらい、今までの人生にない変化しかしてなくて、それに少しだけ慣れましたね。
少しだけ慣れてきて、それこそフェイスブックの１年前はこれしてますよって機能あるじゃないですか。それで糸井さんと一緒に写ってる写真が出てきたんですよ。

糸井

１年前ですか。

燃え殻

ぼく、あのとき、人生初の「人前で話す」だったんです。

（あのとき・・・2016年9月に、渋谷ロフトで開催された、燃え殻さん、コピーライター田中泰延さん、『嫌われる勇気』の古賀史健さん、ほぼ日の糸井重里、永田泰大によるトークイベント。
その時の模様はこちら→https://www.1101.com/koneta_talk/index.html　）

糸井

・・・ちょっといいなあ。

燃え殻

それが初で、さらに糸井さんがいて。あのとき、またそうそうたる変わった方々がいらっしゃって。

糸井

（笑）

燃え殻

緊張したー。その１年前のやつを見たときに、あ、少し慣れたかもしれないと思ったんですよ。

糸井

いっくらでもやってるじゃない、もう人前で。

燃え殻

ここ２か月ぐらいです。

糸井

あ、それは変化かもしれない。
人前っていう意味はつまり、知らない人が自分の話を聞いてるってことか。

燃え殻

そうですね。

糸井

なかなかないよね、そういえば。

燃え殻

ないですよ。でも糸井さん、気軽に誘いましたけどね、ロフトへ（笑）。

糸井

（笑）

燃え殻

人はすごく気軽に誘うんだなと思いました。

糸井

ああ、そうですか。
でも、断る権利を与えてたはずですよ、たぶん。「よろしかったら、こういうのに出ていただけませんか」って。

燃え殻

ありました、ありました。

糸井

絶対断られるんじゃないかって今でも思ってるんですよ。

燃え殻

あ、そうですか？

糸井

思ってるんです。そこをけっこう本気で思ってるんです。

燃え殻

それは自分がガッカリしたくないからってことですか。

糸井

じゃなくて、自分もそうだから。
誰が何と言おうがそれは行きたくないとか、ちょっと今は勘弁してくださいとか、いろんな理由があるから、断れるように誘ってほしいなって思ってるので。

燃え殻

あ、断られる、ああ、それはいいですねえ。

糸井

だから、「すぐ来いよ」みたいなことを言うまでの関係って、やっぱり、いや、まだないかもな、俺、それ。

燃え殻

ちゃんと選択肢を。

糸井

うんうん。ノーと言える空き地を作って、「もし空いてたら」とか。

燃え殻

ああ、ぼくも絶対そうするんですよね。

糸井

気が弱いせいもある。

燃え殻

気が弱いんです。ぼくはですよ。

糸井

だから、「おお、ちょっと来いよ」とかっていうのは・・・ないよね。まずは「メシ食った？」って聞いて。

燃え殻

へぇー。

糸井

それのおかげで、でも、俺はだいぶ長生きできると思うよ。
損得にする必要はないんだけど、たぶんトータルにものすごく健康でいられる気がする。

燃え殻

ああ・・・。

糸井

人を自由にできないっていう、こう、テーゼが（笑）。残酷ななんとかのテーゼが。

燃え殻

残酷じゃないテーゼがある（笑）。

糸井

そうそうそう（笑）。「♪テ～ゼのような」。

燃え殻

歌わないでください（笑）。

糸井

え、燃え殻さんも、人に「もうこいつは来るに決まってるな」とかって言ったことはないんですか。

燃え殻

もう、これは本当にそれはない。だって、ぼく、直前で嫌になっちゃうってクセがあるんです。
例えば、小学生の時からの友達と焼肉食いに行くことになって、でも急に行きたくなくなって、「ごめん、俺、今日行きたくない」って言ったりとか。友達だから「まあそんなこともあるわな」って言ってくれたんですけど。

糸井

ドタキャンってやつですよね、いわゆる。

燃え殻

そう、ドタキャン。社会でしちゃいけないってよく言われるやつです。ほとんどの場合はドタキャンしないようにしてるんです。だから、常にストレスが溜まってくるんです。

糸井

ぼく、自分のことで考えたら‥‥ドタキャンをしないために最初から断るっていうのが、どんどんできるようになった。
それはさっきの健康でいられるシリーズ。

燃え殻

ぼくは、「ああ、いいねえ」って言っちゃうんですよ。絶対。
会社で若手の食事会みたいのがあって、誘ってくれるんですけど、たぶん若手も本当は来てほしくないんですよ。

糸井

（笑）

燃え殻

ただ、誘ってなかったってこともまずいじゃないですか。だから、たぶんお知らせのつもりで言うんですけど、ぼく「いいね」しか無いんで、「ああ、いいね」。

糸井

ああ・・・

燃え殻

・・・「あいつ、行くらしいぜ」みたいな話になってると思うんです（笑）。

糸井

面白い（笑）。面白いですね、その加減。

燃え殻

だから、最終的にドタキャンになるんですよ。毎回そう。
今話してて思ったんですけど、毎回ぼく、最初の入口は「うん」って言っちゃうんです。

糸井

仕事もそうやって引き受けちゃうんだ。

燃え殻

はい。

糸井

今日もそれで来たんだ。

燃え殻

違います（笑）。

糸井

（笑）。「違います」の早さ、すごく好感が持てた（笑）。

燃え殻

はい、そうです（笑）。

糸井

ああ、そういう人がこの２か月を過ごしてたっていうのは、ちょっと、すごいね。

燃え殻

うーん、でも、多分そういうことをやってこなかったから、自分の中でどこかが欠損してると思ってたんですよ。

糸井

我慢して人前に出るとかってこと？

燃え殻

そうです、そうです。で、憧れてたというか、そういうことが普通じゃなきゃいけないなって思ったんです。これは慣れないといけないと思った。
新人レスラーの、８試合連続で先輩に当たるみたいなやつをやってるつもりなんです。

糸井

ああ、そうね。自分の練習としてはあるのかもしれないね。

燃え殻

映画監督の大根仁さんとのトークイベントがあったんですけど、始まる前に、「嫌だ嫌だ嫌だ」って本の編集の人に言ってたんです。
そしたらその人が、「いいんですよ。動いてるの見たいだけなんですから」って。

糸井

ああ。なるほど。

燃え殻

そしたら今後は大根さんが、「いいこと言わなくていいよ」って言ってくれたんです。
裏で「それでさ」って感じで話ながら、ステージに登ってったんですよね。そのままでいいじゃないかっていう感じで。

糸井

ああ・・・

燃え殻

それまでって、マイクがあって一段上がったところで話すなんて時は、名言じゃないですけど、何か１ついいことを言わないといけないんじゃないかって思ってて。それが嫌だったんです。思いつかないから。

糸井

うん、よくわかります。

燃え殻

でも、「そんなことは誰も期待していない。いいのよ。上がりなさい」って言われて上がって、で、大根さんも「それでさ」ぐらいの話で。そうしたらできたんですよね。

糸井

とくに対談は、相手がなんとかしてくれるってことは大いにあるから。１人で講演をしろって話じゃないから。

燃え殻

ああ、そうですねえ。

糸井

だから、何でもいいのよ。
相手が「いいこと言わなきゃタイプ」の人だったりすると面倒くさいから断ればいい。「お互いにいいこと言いましょう」的な人もいるから、世の中には。

燃え殻

ああ、なるほど。

糸井

「この人たちが喋ってるの、ずっと聞いていたいなぁ」ってお客さんに思ってもらいたいんだったら、本当にお互いを出し合えるようにならないと、つまんないですよね。

燃え殻

そうですね。そういうほうが面白いっていうふうに糸井さん思ってるんですよね。
だって、このあいだの銀座ロフトも「10分前に来てくれ」だったじゃないですか。

糸井

うんうん。

燃え殻

それでもう何もなく、ドーン、行こうじゃないですか。そのほうが、まあ、いいじゃないかって。

糸井

このことだけは伝えなきゃみたいなことは１つもないから。

燃え殻

ああ（笑）、そうか。

糸井

あるとぼくはできなくなっちゃうんですよ。

燃え殻

ああ。

糸井

このことを伝えなきゃって仕事になっちゃうから。

燃え殻

「これだけは言ってくださいね」みたいな。

糸井

もしそういうことがあるんだったら、もう時間区切って、急に言ってくださいみたいにしたほうが。
で、そこのギクシャクした言い方にもしなったら、「ギクシャクしてますね」って言って（笑）、また違う話をしたいんですよね。

燃え殻

ああ、そっちのほうがいい。

（つづきます）