もくじ
第1回服屋は服馬鹿じゃないと 2017-12-05-Tue
第2回毎月ひと型のオリジナル 2017-12-05-Tue
第3回言葉の裏にあるものは 2017-12-05-Tue
第4回服馬鹿は世界を広げる 2017-12-05-Tue

兵庫県の北で育ち、浅草生活10年目。書くお仕事を経て、メーカーの販促をやっています。和菓子に目がありません。

服馬鹿が教えてくれること。</br>-The Three Robbers つかもとたかしさん-

服馬鹿が教えてくれること。
-The Three Robbers つかもとたかしさん-

担当・ニイミユカ

第3回 言葉の裏にあるものは

——
つかもとさんって、
「これ買っとけ」とか「それはあなたには売らない」とか
ストレートに言うけど、
そこには服とお客さんに対する愛があるような気がして。
だから嫌な気持ちにならないんです。
接客するときに意識することってあるんですか?
つかもと
服を売って終わりじゃなくて、
最近どう? とか、
いくらもらってんの? とか、
家族構成から財布事情、なんの仕事してるのか、
彼氏彼女はいるのか、結婚してるのか、
そこまで入っていけるのが個人商店の強みじゃん。
この人、買ってくれるかな? っていう顔色じゃなくて、
こいつ元気ねえなっていう顔色を見てるかな。
——
へえ! 顔色を見る。
つかもと
それって基本じゃん、人付き合いの。
家族だって友達だって、顔色見て付き合うじゃん。
——
基本をやってるだけ。
つかもと
そう。

——
なるほどなあ。
だからか、スリラバには服屋へ行くっていうより、
喋りに来てるだけっていうか。
つかもと
お客さんの駆け込み寺になるのが理想かな。
そこにいる俺が、たまたま服が得意なだけ。
——
服屋であって、服屋でない。

つかもと
だって服は日用品だよ。
家で洗えなきゃ意味ないし、
“衣装”になっちゃ困る。
俺たち別に、ステージに立つわけじゃないでしょ。
生活するんでしょ。
だったら使いやすいものを選べばいい。
服はタワシと一緒だよ。
——
タワシ!
じゃあ、大事なのは使い心地?
つかもと
そっちじゃない?
——
オリジナルのデザインがシンプルなのは、
日用品だからなんですね。
 
今シーズンのタートルニットには
タグさえもついてなかったですよね?
つかもと
タグつくって服の値段にのっけるなら、
そういう変な負担はなくす。
買い物袋もビニール袋でいい。
立派な袋に“The Three Robbers”って
ロゴ入れて外歩かれたら、恥ずかしいよ、俺(笑)。
——
(笑)
変な負担をなくすのは、
素材にこだわったうえで
職人さんにもしっかりとした対価を払いたいから?
つかもと
あとは、真っ当な値段で売りたい。
俺、女性ひとり食わせる給料が出れば、
それで十分だよ。
——
はあー。
つかもと
それだけでしょ。
男に生まれたからには。
——
つかもとさんがもう10才若くて未婚だったら
好きになってたかも。
ふたり
(笑)

——
もうひとつ、つかもとさんから前に言われた、
「化繊にバカみたいな値段払うな」っていう言葉も
印象に残ってます。
つかもと
化繊も良いとこあるけど、俺は好きじゃないね。
好き嫌いの問題で、正解はないのよ。
 
ウールのセーターだって、ポリエステル入れれば
毛玉は確かにできにくくなるの。
でも俺、セーターって
毛玉ができたら暇なときにハサミでぱちんぱちん、
切って落ち着くっていうのがあるのよ。
これはもう美意識だよね。
——
入れないものと入れたものでは、
たたずまいも違うんですか?
つかもと
入れると生地は強くなるけど、
俺の好きな雰囲気にはならないね。
——
だから基本的には使わない。
つかもと
ほとんど使わない。
生地として真っ当になる黄金比っていうのはあるけどね。
——
真っ当っていうのは強さですか?
つかもと
そう。
たとえばTシャツは
コットン88%、レーヨン12%が黄金比なの。
でもレーヨンが高いからっていう理由で、
代わりにポリエステルを使ってるものもあって。
じゃあそれを12%にするのかっていったら違う。
30%とか40%とかポリエステルを入れていて、
黄金比がどっかいっちゃってる。
——
コストや工程の手軽さを取ってしまったのかな?
つかもと
たぶんね。
それが好きじゃないんだよ。
今季つくったウールキャップの黄金比は
ウール90%、ナイロン10%だから、
生地が強くなるならって採用したんだけど。

——
なんでその黄金比を変えちゃう人がいるんでしょう?
つかもと
大量生産の影響が大きいと思うよ。
黄金比はわかっていても、
大抵はそこまでお金をかけてられない。
たくさん売って儲けることを優先しちゃってる。
それは“商品”だよね。
俺は“作品”をつくりたいから。
——
作品。
つかもと
そう。
昔のつくりを今の製法でパワーアップさせたり、
誰もやっていないものをつくる。
それって作品でしょ。
——
アーティストみたいですね。
作品だから、お客さんが着てる姿を見ると
うれしいんじゃないですか。
つかもと
もちろん。
それがいちばんうれしいに決まってるよ。

(つづきます)

第4回 服馬鹿は世界を広げる