- ——
- こんにちは。
- つかもと
-
おう、来たね。
まあ座りなよ。
(丸椅子をすすめてくれる)
なに飲む? お茶?
- ——
-
ありがとうございます。
お茶、うれしいです。
今日は服を買いに来たんじゃなくて、
この間お願いした、
つかもとさんの話を聞きにきました。
- つかもと
- なんでも聞いてよ。
- ——
-
じゃあ、そもそものことから・・・・。
どうして「服馬鹿」って自分で言うぐらい
服のことを好きになったんですか?
- つかもと
-
俺、初めて服屋で買ったのが
小学校3年生のとき、Pコートなんだよ。
- ——
- えー! ませてますねぇ。
- つかもと
-
別にPコートがほしかったわけじゃないんだけど、
「たかし、これ着とけ」って
Pコートを出されて、
30分くらい語られちゃったわけ、店員さんに。
わっ、すげえ奥深いって興味をもったのが
服馬鹿の始まりだね。
- ——
-
自分がほしいじゃなくて、
「これ着とけ」だったんですね(笑)。
- つかもと
-
今、俺がお客さんにやってるようなことだよ。
お客さんの年齢から仕事から家族のことから、
いろいろ喋って、引き出して、
すすめるものが
なんで良いのか、
なんであなたにすすめるのかってことを、
ちゃんと伝えて売る。
- ——
-
しかし小学校3年生を相手に、
30分喋る店員さんもすごいですよね。
- つかもと
-
すごい。
おじさんだったんだけどさ、
昔の服屋はみんなそうだったよ。
- ——
- ちなみに、どこの服屋に行ったんですか?
- つかもと
-
上野あたりにあったの、良い店が。
やっと貯まった3万円持ってさ、
ドキドキしながら買いに行ったわけ。
良いもの置いてあるって知ってるから入りたいけど、
薄暗っ! 入りづらっ! みたいな(笑)。
ハイブランドの店で感じるのとは違う
敷居の高さがあったね。
しかも思い切って入ったら、
1着に対して15分、30分喋られる。
- ——
-
なんかその感じ、
今のスリラバにもあるような・・・・。
- つかもと
-
そうそう。
だからさっきも言ったけど、
俺は昔の人たちがやってたことを
今もやってるだけなの。
最近の服屋じゃやらなくなったから珍しがられるけど、
1着に対して15分、30分は喋れるのが
服屋って思ってるから。
- ——
- なんで喋るんでしょうね。
- つかもと
-
服に興味をもってほしいからだよ。
なんでもそうだけど、
興味をもたないと愛着って湧かないと思うんだよね。
なんでPコートは右重ねも左重ねもできるんだろう。
なんでPコートのボタンって
8個のものと10個のものがあるんだろう。
意味を知って着るのと知らないで着るのとじゃ、
ぜんっぜん愛着度が違う。
- ——
- たとえ同じPコートを着ていても。
- つかもと
-
うん。
最近の服屋はあんまり語らなくなっちゃったから、
お客さんも愛着が湧きづらいし、
なんでもよくなっちゃった。
なんでもいいじゃ困るんだよ、こっちは。
- ——
-
ほんとうに服をたのしむには、
買うときから愛着が沸くことが必要ですか?
- つかもと
-
愛着って後からじわじわ湧くもんだと思うんだけどさ、
俺たち服屋は
場合によっちゃ10万円のコートを買ってもらうんだよ。
かたちやブランド名だけで「どうぞ」とは、
俺、恥ずかしくて言えないよ。
お金もらうんだから喋ってあげたいじゃん。
それで納得して買ってもらいたいじゃん。
- ——
- まずは、納得してもらう。
- つかもと
-
そう。
納得してもらうために、
とにかく喋る。
喋って納得してもらってからでないと、
お客さんからお金はもらえないでしょ。
- ——
- はい。
- つかもと
-
となると、やっぱり服馬鹿じゃないと。
納得して買ったものは愛着が湧くし、
愛着が湧いたものは、きっとクローゼットに残るよ。
俺、お客さんが年を重ねたときに、
お客さんのクローゼットに
売ったものが残ってる自信あるもん(笑)。
- ——
-
確かに、わが家もしっかり残ってます。
じっくり説明してもらって買ったからか、
たとえばほつれても簡単にさよならできないんですよ。
どうにか直して着るかーって思いますね。
- つかもと
- それが愛着だよ。
- ——
-
つかもとさんの言う「服馬鹿」って、
ただ好きなだけじゃないんだなと感じました。
- つかもと
-
服馬鹿はブランド名じゃなくて服の中身を知ってる人。
なんでこの人、こんなに服のことを知ってんの?
っていう奴だよ。
(つづきます)