もくじ
第1回服屋は服馬鹿じゃないと 2017-12-05-Tue
第2回毎月ひと型のオリジナル 2017-12-05-Tue
第3回言葉の裏にあるものは 2017-12-05-Tue
第4回服馬鹿は世界を広げる 2017-12-05-Tue

兵庫県の北で育ち、浅草生活10年目。書くお仕事を経て、メーカーの販促をやっています。和菓子に目がありません。

服馬鹿が教えてくれること。</br>-The Three Robbers つかもとたかしさん-

服馬鹿が教えてくれること。
-The Three Robbers つかもとたかしさん-

担当・ニイミユカ

服は、生活をするうえで
欠かせないもののひとつです。

寒さを防ぐため、
おしゃれをたのしみたいから、
そして身だしなみとして。
さまざまな理由で私たちは身につけます。

そんな服を、自分で「服馬鹿」と言うぐらい
愛する服屋の店主がいます。
東京・浅草にある
The Three Robbers(ザ・スリー・ラバーズ)、
通称「スリラバ」のつかもとたかしさんです。

つかもとさんは
服を売るとき、とにかく喋ります。
生地や縫製のこと、歴史的背景、
基本の着方、たのしみ方など。
さらに私たちお客さんの近況も、
ジュース片手に、たっぷりじっくり。
だからスリラバでは、1着を買うために
30分、1時間経っていることが当たり前なんです。

よどみのない小気味よい口調で、
ときに豪快な笑いを交えながら
服を売り続けるつかもとさん。
その言葉は良い服との出会いを生むだけでなく、
毎回ハッとさせられて・・・・。

今回は、つかもとさんが
普段から私たちお客さんに喋っていることを、
あらためて伺ってみることに。
そこには服のたのしみ方はもちろん、
生活のなかで大切にしていきたい物事がありました。

プロフィール
つかもとたかしさんさんのプロフィール

第1回 服屋は服馬鹿じゃないと

——
こんにちは。
つかもと
おう、来たね。
まあ座りなよ。
(丸椅子をすすめてくれる)
なに飲む? お茶?
——
ありがとうございます。
お茶、うれしいです。
今日は服を買いに来たんじゃなくて、
この間お願いした、
つかもとさんの話を聞きにきました。
つかもと
なんでも聞いてよ。

——
じゃあ、そもそものことから・・・・。
どうして「服馬鹿」って自分で言うぐらい
服のことを好きになったんですか?
つかもと
俺、初めて服屋で買ったのが
小学校3年生のとき、Pコートなんだよ。
——
えー! ませてますねぇ。
つかもと
別にPコートがほしかったわけじゃないんだけど、
「たかし、これ着とけ」って
Pコートを出されて、
30分くらい語られちゃったわけ、店員さんに。
わっ、すげえ奥深いって興味をもったのが
服馬鹿の始まりだね。

——
自分がほしいじゃなくて、
「これ着とけ」だったんですね(笑)。
つかもと
今、俺がお客さんにやってるようなことだよ。
お客さんの年齢から仕事から家族のことから、
いろいろ喋って、引き出して、
すすめるものが
なんで良いのか、
なんであなたにすすめるのかってことを、
ちゃんと伝えて売る。
——
しかし小学校3年生を相手に、
30分喋る店員さんもすごいですよね。
つかもと
すごい。
おじさんだったんだけどさ、
昔の服屋はみんなそうだったよ。

——
ちなみに、どこの服屋に行ったんですか?
つかもと
上野あたりにあったの、良い店が。
やっと貯まった3万円持ってさ、
ドキドキしながら買いに行ったわけ。
良いもの置いてあるって知ってるから入りたいけど、
薄暗っ! 入りづらっ! みたいな(笑)。
ハイブランドの店で感じるのとは違う
敷居の高さがあったね。
しかも思い切って入ったら、
1着に対して15分、30分喋られる。
——
なんかその感じ、
今のスリラバにもあるような・・・・。
つかもと
そうそう。
だからさっきも言ったけど、
俺は昔の人たちがやってたことを
今もやってるだけなの。
最近の服屋じゃやらなくなったから珍しがられるけど、
1着に対して15分、30分は喋れるのが
服屋って思ってるから。

——
なんで喋るんでしょうね。
つかもと
服に興味をもってほしいからだよ。
なんでもそうだけど、
興味をもたないと愛着って湧かないと思うんだよね。
なんでPコートは右重ねも左重ねもできるんだろう。
なんでPコートのボタンって
8個のものと10個のものがあるんだろう。
意味を知って着るのと知らないで着るのとじゃ、
ぜんっぜん愛着度が違う。
——
たとえ同じPコートを着ていても。
つかもと
うん。
最近の服屋はあんまり語らなくなっちゃったから、
お客さんも愛着が湧きづらいし、
なんでもよくなっちゃった。
なんでもいいじゃ困るんだよ、こっちは。
——
ほんとうに服をたのしむには、
買うときから愛着が沸くことが必要ですか?
つかもと
愛着って後からじわじわ湧くもんだと思うんだけどさ、
俺たち服屋は
場合によっちゃ10万円のコートを買ってもらうんだよ。
かたちやブランド名だけで「どうぞ」とは、
俺、恥ずかしくて言えないよ。
お金もらうんだから喋ってあげたいじゃん。
それで納得して買ってもらいたいじゃん。
——
まずは、納得してもらう。
つかもと
そう。
納得してもらうために、
とにかく喋る。
喋って納得してもらってからでないと、
お客さんからお金はもらえないでしょ。
——
はい。
つかもと
となると、やっぱり服馬鹿じゃないと。
 
納得して買ったものは愛着が湧くし、
愛着が湧いたものは、きっとクローゼットに残るよ。
俺、お客さんが年を重ねたときに、
お客さんのクローゼットに
売ったものが残ってる自信あるもん(笑)。
——
確かに、わが家もしっかり残ってます。
じっくり説明してもらって買ったからか、
たとえばほつれても簡単にさよならできないんですよ。
どうにか直して着るかーって思いますね。
つかもと
それが愛着だよ。
——
つかもとさんの言う「服馬鹿」って、
ただ好きなだけじゃないんだなと感じました。
つかもと
服馬鹿はブランド名じゃなくて服の中身を知ってる人。
なんでこの人、こんなに服のことを知ってんの? 
っていう奴だよ。

(つづきます)

第2回 毎月ひと型のオリジナル