もくじ
第1回私と映画 2017-11-07-Tue
第2回「初めて」は、いつも恥ずかしい 2017-11-07-Tue
第3回「決断する仕事」の怖さと魅力 2017-11-07-Tue
第4回過去に戻るより、今を噛みしめる 2017-11-07-Tue

編集者。普段は紙の雑誌をつくっていますがWebコンテンツ勉強中です!

私の好きなもの</br>元気の出る映画

私の好きなもの
元気の出る映画

担当・上條

第3回 「決断する仕事」の怖さと魅力

二作目は、『キツツキと雨』(2012年、日本)。

沖田修一監督の作品は、
『南極料理人』や『横道世之介』『滝を見に行く』なども大好きです。

『キツツキと雨 通常版』
価格 ¥4,700+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

山間の小さな村で林業をしている、岸克彦(役所広司)と、
その村で、ゾンビ映画を撮影している、
新人映画監督の田辺幸一(小栗旬)が出会い、
映画の撮影を通して心を通わせていく物語です。

私がこの映画に感情移入したのは、
何をやらせてもダメな映画監督の幸一が、
右も左もわからない新米編集者だった自分と
似ていると思ったからです。

映画監督と、編集者の似ているところは、
「決める」仕事である、ということ。

この仕事についてみて、
編集者って無力だな、とつくづく感じました。
自分一人では何もつくれない。
デザインもできないし、絵も描けないし、上手に写真も撮れないから、
それぞれプロの人たちにお願いをして、初めて、本ができる。
(もちろん写真を撮れたり、デザインができる編集者もたくさんいますが)
「人にお願いする」ことこそが、編集の仕事なんだと思います。

でも、その無力な私に、「決定権」がある。
特に新人の頃は、
カメラマンさんも、ライターさんも、
自分よりずっと現場を知っている人たちなのに、
最終的にどの写真を使うか、
どういう形でまとめるかは、
編集者である私が決めなければいけない、
そのことがとても苦しかった。
何もわかってないのに、私が決めていいのか。
本当にこれでいいのか。
誰かが私の代わりに決めてくれたらいいのに。
いつもそのプレッシャーに押しつぶされそうでした。

『キツツキと雨』の中でも、監督である幸一は、
周りのスタッフに
「今のOK?」「撮り直すの?」
「次のシーンどうするの?」
と常にいろいろな決断を迫られて、板挟みになり、
一度は村から逃げ出そうとします。

でも、幸一が少しずつ成長し、
自分で決められるようになっていくと、
周りのスタッフからも
「こうしたらもっとおもしろいんじゃない?」
「こういう風にやらせてほしい」と
ポジティブな提案、新しいアイデアが出てくる。
現場の雰囲気が良くなることで、
幸一もより自信をつけ、
ベテランの俳優に対しても、臆せず
「もう一回撮りましょう」
と要求できるようになる。

決断することは、今でも怖い。
でも、私なんかが決めた拙いプランでも、
すばらしいプロの方たちの力がのっかることで、
びっくりするほど、素敵なもの、かっこいいものができる。
今まで、仕事の中で、そういう場面に何度も立ち会ってきました。
「編集者は一人では何もできない」というのは、
ネガティブな言い方ですが、
逆に考えれば、編集者は、
一人では、とてもつくれないような素敵なものを、
大勢の人の力を借りることで実現させることができる、
とても贅沢な仕事だな、と思えるようになりました。

決めるのは怖いけど、
決めなければ何も始まらないし、
一度決めてしまえば、きっと周りの人がそれを支えてくれる。
そう信じて、勇気と覚悟を持って決断していくことの大切さを
教えてくれた作品です。

(つづきます)

第4回 過去に戻るより、今を噛みしめる