糸井

書きたい欲がそんなにたまっていたのに、書き出したのがつい最近。不思議ですよね。自分が文字を書く人だとか、考えたことを文字に直す人だっていう認識そのものがなかった時代が20年以上あるという。
　
書くこと自体が、「嫌いだ」とか「好きだ」とかは思ってなかったんですか？

田中

もともと、書くことよりも読むことが好きで。

糸井

読むことが。

田中

読むのはずっと好きだったんですけど、自分がまさか何かを書くようになるなんて、夢にも思わず。

糸井

あぁ‥‥。僕にもちょっとそういうところがある気がする‥‥。
コピーライターって、「書いている人」として書いてるというより、「読んでいる人」として書いてる気がするんですよ。

田中

はい、すごくわかります。

糸井

読み手として書いてるっていうタイプ。そういう表現をいま初めてしたからわからないけど‥‥。
　
だから、うーん‥‥実は自分が読者で、読者としての自分が読みたいものを、書いてくれるのを待っているみたいな。

田中

おっしゃるとおり。いや、それすごく、すっごくわかります。

糸井

「受け手であるということを、思い切り伸び伸びと自由に味わいたい！」と思っていますよね。
　
じゃあ「受け手の俺がおもしろがれるものを誰が書いてくれるの？俺だよ！」っていう。

田中

そうですね。それ、すごくその通り。
　
映画ひとつとっても、ネットや雑誌でたくさんの人が評論をするじゃないですか。それを見ていると、「何でこのなかに、この見方はないのか？」と思えてくる。
　
誰か他の人がそれを書いてくれていたら本当はもう自分が書かなくてもいいんですけど、「この見方、なんでないの？じゃあ、俺書くよ」っていうことになるんですよね。

糸井

あぁ‥‥。初めて今、それに気が付きました。ありがとうございます（笑）。
　
これ、お互い初めて言い合った話だね。

田中

そうですね。

糸井

田中さんが書かないで済んでいた時代のことが今やっと、わかりました。広告業界にいたからですね。

田中

そうですね。広告の仕事は、発信しないですもんね。

糸井

しない。でも、受け手としての感性が絶対にある。
　
受け取り方っていうのは、発信しなくても個性なんですよね。で、そこでピタッと来るものが受け取れないかなって探していたんだけど、それを人がなかなか書いてくれない。だから、「え、俺がやるの？」っていう。それが仕事になってたんですよね。

田中

はい。

糸井

あぁ‥‥。
自分がやってることも、今やっとわかったわ。

（つづきます）