偉くないけど、奥ぶかい二人の書く理由
第4回 ブルーハーツと釣り
- 田中
-
この間みんなで、
燃え殻さんとか永田さんとか古賀さんと、
雑談したじゃないですか。9月。
あの時点でまったく辞めると思ってなかったです。
辞めようと思ったのが、11月の末です。
で、辞めたのが12月31なんで、
1ヶ月しかなかったです。
辞めた理由は、
理由になってないような理由なんですけど、やっぱり、

- 糸井
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ブルーハーツ?
- 田中
-
ブルーハーツですよ。
まだこんなね、50手前にオッサンになっても、
中身は20うん歳のつもりだから、
あ、これは、このように生きなくちゃいけないなって。
かと言って、何か伝えたいこととか、
「熱い俺のメッセージを聞け」とかないんですよ。
相変わらず、なんか見て聞いて、
「これはね」ってしゃべるだけの人なんですけど。
でも、ここは出なくちゃいけないなってなったんです。
- 糸井
-
僕にとっては、ブルーハーツに当たるのが
釣りだったんですよね。
誰もが平等に争いごとをするわけです、コンペティション。
その中で勝ったり負けたりっていうところで
血が沸くんですよ、やっぱりね。
- 田中
-
この間おもしろかった(笑)、
「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても、
魚がいるんじゃないか」って。

- 糸井
-
そう。
いるんだっていうのと、
それから、普段見えていない生き物が僕の、
その竿の向こうでひったくりやがるわけです。
ものすごい荒々しさで。
その実感がもうワイルドにしちゃったんですよ、僕を。
なんておもしろいんだろうって。
その後、プロ野球のキャンプに行く、
青島グランドホテルに向かうまでの道のりに
何回も水が見えて、
野球を観に行くはずなのに、水を見てるんです。
- 田中
-
水を見てる(笑)。
- 糸井
-
折りたたみにできる竿とかを、
野球のキャンプの見物に行くのに、持っているんです。
で、家族旅行で正月、温泉旅行に行った時も、
まったく根拠なく、真冬の砂浜で一生懸命投げてる。
海水浴やるようなビーチで。
- 田中
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(笑)なんか釣れましたか、その時は?
- 糸井
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まったく釣れません。
根拠のない釣りですから。
- 田中
-
(笑)

- 糸井
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でも、根拠がなくても水があるんですよ。
- 一同
-
(笑)
- 糸井
-
これ、僕にとってのインターネットって、水なんですよ。
- 田中
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なるほど。

- 糸井
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今、初めて説明できた。
根拠はなくても水があるんです。
- 田中
-
根拠はなくても水がある。
- 糸井
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水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
それが自分に火を点けた。
だから、僕の「リンダリンダ」は、水と魚です(笑)。
おもしろいんですよ。
朝1人で誰もいない所で釣りをしてると、
何も気配がなかった、静けさの田んぼの間の水路みたいな川で、
泥棒に遭ったかのようにひったくられるんですよ。
「俺の大事な荷物が今盗まれた!」っていう瞬間みたいに、
パーッと引かれるんですよ。
その喜び。
これがね、俺を変えたんじゃないですかね。
- 田中
-
なるほど。その話が、まさかインターネットにつながるとは。
- 糸井
-
思いついてなかったですね。
- 田中
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でも、言われてみたら、きっとそういうことですよね。
- 糸井
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広告を辞める、ここから逃げ出したいな
っていう気持ちと同時に、
「水さえあれば、魚がいる」っていう、その期待する気持ちに、
肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
- 田中
-
なるほど。
- 糸井
-
うわぁ、素敵なお話ですね。
- 田中
-
いや、本当に(笑)。