【近所の人気者でいたい】田中泰延と糸井重里
担当・友美

第5回 書き手ではなく、読み手として。
- 糸井
-
自分が、文字を書く人だとか、
考えたことを文字に直す人だ。
っていう認識そのものがなかった、
コピーライター時代が20年以上ある。
不思議ですよね。
「嫌いだ」とか「好きだ」とかはなかったんですか?
- 田中
-
読むのが好きで。
- 糸井
-
あぁ!
- 田中
-
「ひたすら読んでました」
っていうのはあったんですけど、
自分がまさか、ダラダラと何かを書くとは。
夢にも思わず。
- 糸井
-
頭の中でちょっと考えていたんですけど、
読み手として書いてるっていう、
自分にもちょっとそういうところがあって、
コピーライターって、
書いてる人っていうより、
読んでる人として書いてる気がするんですよ。
- 田中
-
はい、すごくわかります。
- 糸井
-
ねぇ。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
だから、
視線は読者に向いてるんじゃなくて、
自分が読者で、
自分が書いてくれるのを待ってるみたいな。
- 田中
-
おっしゃるとおり、
それすごく、すっごくわかります。
- 糸井
-
今それを、
あ、すいません、ありがとうございます(笑)
初めて言葉にできました。
- 田中
-
それ、すごい。
- 糸井
-
これ、お互い初めて言い合った話だね。
- 田中
-
いや、そんな、ねぇ、糸井重里さんですよ。
- 糸井
-
いやいや。
- 田中
-
でも、本当そうですね。
- 糸井
-
これ、説明するのむずかしいですねぇ。
- 田中
-
むずかしいですね。
発信してるんじゃないんですよね。
- 糸井
-
受信してるんです。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
そうなんです、そうなんです。
で、自分に言うことがない人間は書かない
って思ってたら大間違いで。
- 田中
-
そうなんです。
- 糸井
-
「受け手であるっていうことを、
思い切り伸び伸びと自由にこう、
味わいたい!」って思って、
「それを誰がやってくれるのかな」
「俺だよ」っていう。
- 田中
-
そうなんです。

- 糸井
-
うわあぁ、
なんて言っていいんだろう、これ。
この言い方しかできないなぁ。
- 田中
-
そうですね。
映画自体を観ますね。
次にいろんな人が、
今ネットでも雑誌でも、
いろんな人が評論をするじゃないですか。
そうしたら、
「何でこの中に、この見方はないのか?」って。
で、それがあれば、
もう自分が書く必要はないんですけど、
「この見方ないの?じゃあ、今夜俺が書くの?」
っていうことになるんですよね。
- 糸井
-
因果な商売だねぇ。
- 田中
-
そうなんです。
広告屋はね、発信しないですもんね。
- 糸井
-
しない。
でも、受け手としては
感性が絶対にあるわけで、
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
俺の受け取り方っていうのは、
発信しなくても個性なんですよね。
で、そこでピタッと来るものを探してたら、
人がなかなか書いてくれないから、
「じゃあ、俺がやるの?」っていう、
それが仕事になってたんですよね。
- 田中
-
そうですね。
- 糸井
-
自分がやってることも今わかったわ。
僕ね、嫌いなんですよ、ものを書くのが。
- 田中
-
わかります。
- 糸井
-
前から、
前からそう言ってますけど(笑)。
- 田中
-
僕もすっごい嫌(笑)
古賀さんもすごい嫌って言ったけど、
みんな嫌なんですよ、本当に。
- 糸井
-
でも「じゃあ、自分ってないの?」
っていう問いは、何十何年してきたと思うんですよ。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
僕もそうですし、田中さんも、
「お前って、じゃあ、何も考えもないのかよ」
って誰かに突きつけられたら、
「まぁ、そんな人間いないでしょう」
っていう一言ですよね。
そこを探しているから、日々生きてるわけでね。
- 田中
-
そうですよね。
そこで書く行為自体が、
はみ出したり、怒ってたり、
ひがんでたりする、
ということを忘れる人が危ないですよね。
- 糸井
-
それ、
書き手として生きてないのに、
そういうことを考えてる読み手ですよね。
- 田中
-
そう、そう、そう、
そうなんです。
- 糸井
-
「それは作用と反作用で、
変わった分だけ自分が変わっているっていうのが、
これはマルクスが言ったんすね」と。
わかりやすいことで言うと、
「ずっと座り仕事をして、
ろくろを回してる職人さんがいたとしたら、
座りタコができているし、
あるいは、
指の形やらも変わっているかもしれないし
っていうふうに、散々茶碗をつくってきた分だけ、
自分の腰は曲がっているし
っていう形で、反作用を受けてるんだよ」と。
「1日だけろくろを回している人には
それはないんです」って。
- 田中
-
そうですよね(笑)。付かないですね。
- 田中
-
あぁ。この話、対談を起こす人にどこまで伝わるかなぁ。これ、むずかしい話。
- 糸井
-
まぁ伝わらなくていいですけどね。
ここで終わりにして。
つまり、「どうするんですか」話は、公な所じゃなくて、もっといびれるような所で。
- 田中
-
わかりました(笑)。