- 田中
- とりあえず、呼び方は「ヒロ君」なんですよ。
- 糸井
- 27歳くらいの呼ばれ方ですよね。
- 田中
- もうずっと、入って以来ヒロ君なんですよね。大きい自動車会社のすごい社長とか重役とか、バーッと20何人くらい並ぶプレゼンの時にも、プレゼンに行って、「では、具体的なCMの企画案については、ヒロ君のほうから」。
- 糸井
- (笑)
- 田中
-
向こうはザワザワって、「ヒロ君って誰だ?」、社長が秘書に、「ヒロ君って誰だ?」(笑)。
「いやいや、すいません、ヒロ君と紹介されましたが、田中でございます」、て言ってからプレゼンをするという。
- 糸井
- そこについてはね、ぼくもそうだったから。
- 田中
- あぁ、わかります。
- 糸井
- 平気なんですけど、でも、世の中からすると、変ですよね。
- 田中
- そうですよね。
- 糸井
-
「ヒロ君からのプレゼン」ってね(笑)。
- 田中
- 芸名じゃないだから(笑)。
- 糸井
- でもそういうの、嫌じゃなかったんですよね。
- 田中
- いや、もう居心地よすぎて。
- 糸井
- 相当長いですよね。
- 田中
- はい。24年です。
- 糸井
-
書く人、という認識を持ったのは、東京コピーライターズクラブのリレーコラムというページを誰かが紹介していて。
今はこんなことやってるのかって読み始めたらおもしろくて、っていうのがまだせいぜい2年くらい。
- 田中
- たぶんそうですね。2015年の4月くらいに書きました、そのコラムは。
- 糸井
- それまで、田中泰延名義で、ああやって個人の何かを書くことはなかったんですか?
- 田中
- 一切なかったんです。キャッチコピー20文字程度、ボディコピー200文字とか、
- 糸井
- はいはい。
- 田中
- それ以上長いものを書いたということが、人生の中でないですから。一番長かったのが大学の卒論で、原稿用紙200枚くらい書いた。これは人の本の丸写しですから、書いたうち入らないですね。
- 糸井
- ちなみに、それは何の研究なんですか?
- 田中
-
芥川龍之介の『羅生門』の小説だけで200枚くらい書きました。
もういろんな人の丸写し。
- 糸井
- 切ったり貼ったり?
- 田中
-
切ったり貼ったりして、でもその時に担当教授に見せたら、「これは私は評価できません」と。「とりあえず卒業させてあげますけど、私は知りません」って言われたんですよ。
だから、その時から多少変だったんでしょうね。
- 糸井
- いわゆる、「博覧強記」というジャンルに入りそうなものを書いたんですね。
- 田中
- その切ったり貼ったりが、とんでもない所からしようっていう意識はあったんですよ。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
-
これにこうくっ付くとか、芥川のほんの1行、「きりぎりすが泣いている」っていうのがあるんですけど、それに関しては、「じゃあ、これはなんていう種類のきりぎりすが、この1100年代くらいの京都にはいるか」とか、まったく無関係なことをたくさんこう書いたんですね。だから、今もちょっと近いかもしれない。
- 糸井
- のちにぼくらが石田三成研究で味わうようなことを(笑)、大学の先生が味わったわけですね。
- 田中
- その後書くって言ったら、2010年にツイッターに出会ってからですね。でも140文字までしか書けないので、広告のコピー書いてる身としては、楽だっていうことで始めたんです。
- 糸井
- ちょうどいいんですよね。
- 田中
- はい。
- 糸井
- じゃあ、広告の仕事をしてる時は、本当に広告人だったんですか?
- 田中
- もう、ものすごく真面目な、これ、伝わるかわかりませんけど、
- 糸井
- どうぞ、どうぞ。
- 田中
-
ものすごく真面目な広告人。
- 糸井
-
誰かの物真似みたいですね(笑)。
コピーライターとして文字を書く仕事とプランナーもやってたんですね。
- 田中
- はい、テレビコマーシャル。
- 糸井
- その分量配分はどんな感じですか?
- 田中
- 関西は、いわゆる平面、ポスター、新聞、雑誌っていうのはすごく少ないんですよね、仕事自体が。
- 糸井
- あぁ。
- 田中
-
出版社も新聞社も全部東京なので、いわゆる文字を書くコピーっていうのがほとんど仕事がなくて。
だからツイッターができた時には、何か文字を書く、これが打った瞬間、活字みたいなものになって、人にばらまかれるっていうことに関しては、飢えてたっていう感覚はありました。
- 糸井
- あぁ。友達同士でのメールのやりとりとか、そういう遊びもしてないんですか?
- 田中
- あんまりしてなかったですね。
- 糸井
- っていうことは、筆下ろしは東京コピーライターズクラブのリレーコラム。
- 田中
- 800字くらいの。
- 糸井
- そのうちの中身にあたるものはほとんどなくて。
- 田中
- まったくないですね。
- 糸井
- 800字のうち600字くらいは、どうでもいいことだけが書いてあるっていう文章。
- 田中
- 今でも全然変わらないですね。
- 糸井
- ねぇ。で、おもしろかったんですよ。
- 田中
- ありがとうございます。
- 糸井
-
27、8の若い人だと思ってて、こういう子が出てくるんだなぁって(笑)、もっと書かないかなって思って。いつ頃だろう、27、8じゃないってわかったのは。
- 田中
- 46、7歳だったっていう(笑)。
- 糸井
- 20歳開きがある(笑)。
- 田中
- ヒロ君のまま保存されているんですね。
- 糸井
- まだ触ると敏感みたいなね(笑)。
- 田中
- 23歳であの組織に入ったヒロ君のまま今まで来ちゃってるから、それが好きに書くことになったのが45,6歳ってことですよね。
- 糸井
-
つい、2、3年前。
映画評みたいなものが次ですか?
- 田中
- はい。
- 糸井
- 西島さん*っていう。あの人が、いわば、電通にいた方ですね。
*西島知宏さん・日本のクリエイティブディレクター、 作家、編集者、メディアプロデューサー。
- 田中
-
ある日、西島さんが突然大阪を訪ねて来られて、糸井さんが見られたのと同じ、東京コピーライターズクラブのリレーコラムと、ツイッターで「昨日見た映画、ここがおもしろかった」って、2、3行書いてたそれを見て、「うちで連載してください」と。
「分量はどれくらいでいいですか?」って言ったら、「いや、ツイッターでも2、3行で映画評をしていることもあるので、2、3行でいいです」。
- 糸井
- (笑)
- 田中
- 「いいの?2、3行で?」って、「映画観て、2、3行書けば、なんか仕事的な?」、「そうです」って言うから、映画を観て、次の週に、とりあえず7,000字書いて送りました。
- 糸井
- 2、3行が(笑)。
- 田中
- そう。書いてみると、やっぱりね。
(つづきます)