- 田中
- ぼくからの質問なんですけれども、糸井さんが、まぁ40代の時に、広告の仕事を一区切りつけた、違うことに踏み出そうと思った時のこと。これこそ、お伺いしようと思っていて・・

- 糸井
- あぁ。
- 田中
-
糸井さんと初めて京都でお会いした時に、タクシーの中で、最初に聞いたこともそれだったんですよね。
その時は、ぼくも辞めるとはまったく思ってなくて。
辞めようと思ったのが、11月の末で、辞めたのが12月31日。なので、それこそ1ヶ月しかなかったんです。
- 糸井
- 素晴らしい(笑)。
- 田中
-
いや、なんか、これが本当にね、
昨日たまたま書いたんですけど、理由になってないような理由なんです・・
- 糸井
- ブルーハーツ?(笑)
- 田中
-
ブルーハーツですよ。なんか、50手前のオッサンになっても、中身は20うん歳のつもりだから、それを聞いた時のことをこう、ふと思い出して・・「あ、これは、なんかもう、ブルーハーツの歌のように生きなくちゃいけないな」って。
かと言って、何か伝えたいこととか、「熱い俺のメッセージを聞け」とかないんですよ。相変わらず、なんか見て聞いて、「これはね」ってしゃべるだけの人なんですけど、でも、なんか「ここは出なくちゃいけないな」ってなったんですよね。

- 糸井
-
どうしてもやりたくないことっていうのが世の中にはあって、ぼくはそこから、本当に逃げてきた人なんです。逃げたというよりは捨ててきた。
・・広告も、なんかどうしてもやりたくないことに似てきたんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
広告の仕事を辞めるっていうのは、「あ、このまま、『あいつ、もうだめですよね』って言われながら、なんで仕事やっていかなきゃならないんだろう?」っていうことだったんです。
で、ぼくにとってのブルーハーツに当たるのが
・・『釣り』だったんですよね。
- 田中
-
この間おかしかった(笑)、
「始めた頃は、ちょっと水たまりを見ても、魚がいるんじゃないか」って(笑)。
- 糸井
-
そうなんです。本当に初めて行った真冬の日に、大きい魚がルアーを追いかけてきたのに逃げたんです。で、同時に、奥さんは、俺が出掛けるっていう時に、「ご苦労様」とかちょっとなめたことを言いながら・・帰って来たら、バスタブに水が張ってあったんですよ。
つまり、生きた魚を釣ってきた時に、そこに入れようと思ったんだね。

- 田中
- すごい!
- 糸井
-
すごいでしょう?
その、馬鹿にし方と、実際にこう水を貯めてね。
- 田中
- 待ってる(笑)。
- 糸井
- そう、そのアンバランスさっていうのが俺んちで、で、その時に、「あれは明らかに魚が追いかけてきた」って思ったことと、「釣ってきた時にはここで見よう」って思ってた気持ち。それは、もう夢そのものじゃないですか。それがぼくの中に、ウワァーッと湧くわけですよ。
- 田中
- うんうん(笑)。
- 糸井
-
奇跡みたいなもんで、普段見えていない生き物が、竿の先に付いたラインの向こうでひったくりやがるわけです。ものすごい荒々しさで。その実感がワイルドにしちゃったんですよ、ぼくを。
で、なんておもしろいんだろうと。
その後、プロ野球のキャンプに行くと、青島グランドホテルに向かうまでの道のりに何回も水が見えて・・野球を観に行くはずなのに、水を見てるんです。
- 田中
- 水を見てる(笑)。

- 糸井
-
正月は正月で、家族で温泉旅行かなんか行った時に、まったく根拠なく、砂浜で一生懸命、何か釣れるのを・・
真冬に、海水浴やるようなビーチで、一生懸命投げてる。
- 田中
- 投げて(笑)。なんか釣れましたか、その時は?
- 糸井
-
まったく釣れません。根拠のない釣りですから。
でも・・根拠がなくても水があるんですよ!
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
いいでしょう?
これ!
ぼくにとってのインターネットって、水なんですよ!
もう、今初めて説明できたわぁ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
「根拠はなくても水がある」んです。
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
それが、自分に火を点けたところがある。
だから、ぼくの「リンダリンダ」は、水と魚です(笑)。

- 田中
- はぁ〜。
- 糸井
-
おもしろいんですよ。朝1人で誰もいない所で釣りをしてると、初めて釣れる1匹っていうのが・・朝日が明ける頃に、何も気配がなかった静かな田んぼの間の水路みたいな川で、突然、泥棒に遭ったかのようにひったくられるんですよ。
その喜び!
これがね、なんだろう、俺を変えたんじゃないですかね。
- 田中
- なるほど。その話が、まさかインターネットにつながるとは。
- 糸井
-
思いついてなかったですねぇ。
広告を辞めるとかっていう、「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと、同時に「水さえあれば、魚がいる」っていうような期待する気持ちを、肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- うわぁ、素敵なお話ですね(笑)。
- 田中
- いや、本当に(笑)。

- 糸井
- すごい釣りのうまい人に、「坊主っていうのはないですか?1匹も釣れなかった経験っていうのはないんですか?」って、ぼくが聞くわけですね。坊主から逃げ出したいわけですから。
- 田中
- うんうんうん。
- 糸井
-
その時に、「釣りがある程度わかっていれば、基本的に坊主っていうのはないんじゃないでしょうか」って、他人事のように言ったんですよ。うれしいじゃないですかぁ。
「えぇ?そんな。魔法じゃなくて、科学だったんですか」って。で、インターネットでもそう思いますよね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
というのを積み上げていったのが今に至るわけで・・
「これからどうなる?」なんてこと、ここじゃ、まったく聞かないですけど。
なんかこう、さっきの釣りの「当たり」みたいなおもしろさのところには、たどり着いてみたいですねぇ。
- 田中
-
今日はいい話、聞きましたよ。本当に。
さっきのね、「ご近所」の話もそうですし、釣りの話もそうですけど、糸井重里さんにお会いして、身体性の話に行くと思ってなかったから、今日。それがもうすごい、何かぼくのこれから、やっぱり変わってくると思います。
- 糸井
- ここで終わりにして。「どうするんですか」話は、公な所じゃなくて、もっといびれるような所で(笑)
- 田中
- いじめてください、もう。
- 糸井
- お疲れ様でした。どうもありがとうございます。
- 田中
- ありがとうございました。
(拍手)

(おわります。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。)