糸井

でも、なんだろう、「これいいなぁ」っていうの、うーん・・「これいいなぁ業」ですよね。
たぶん、ひろのぶさんも。本当はそれですよね。

田中

もう、「これいいなぁ」ですよ、本当に。

糸井

誰かいたのかな、そういう人って今までに。そんなような人として語られたりする人はいっぱいいるんだけど、どれもやっぱり、文壇だとか表現者の集いの中での「サロンの人」ですよね。

田中

そうですね。閉じられた中で、「あの人は偉大であった」と言うこと。

糸井

それは居心地がよさそうだなっていうのは思うんだけど、そのために趣味のいい暮らしをするみたいになっちゃうのが、なんか、ぼくとしてはちょっと・・
もっと下品でありたいというか（笑）、「何それ？」みたいな。

田中

永遠に馬鹿馬鹿しいことをやるっていうのは、これは一種の体力ですよね。でも、これをやらないところに陥った瞬間、偉そうな人に、やっぱりなるんで。

糸井

なるんですよねぇ。で、ひろのぶさんでもぼくでも、感心されるツボみたいなのが、「いや、自分でも悪い気はしないよ」っていうのが、やっぱりいっぱいあるわけだから。

田中

はい、はい。

糸井

どうしようかって思うんだよ。

田中

そうですよね。どうしようか（笑）。

糸井

で、グルッと回って結論は？ってなると、「ご近所の人気者」っていうところへ行くんだよ。

田中

そこですね（笑）。本当にそこですね。「ご近所の人気者」。

糸井

「ご近所の人気者」っていうフレーズは、『じみへん』で、中崎タツヤさんが、書いた言葉なんですよね。
で、それをうちのカミさんが、「俺だ」って言ったんですよ。

田中

なるほど。中崎タツヤさんのスタンスは、素晴らしいですよね。

糸井

もう１つ中崎さんので永遠に忘れまいとしたのがあって。
主人公の青年が出てきて、お母さんがやってることがすごく馬鹿に見えるんですね。庶民の家ですから。で、そのことにものすごく腹が立って、「母さんは、何かものを考えたことあるの？」って怒りのようにぶつけるんですよ。つまり自分の血筋に対する怒りですよね。

田中

はい、はい。

糸井

そうすると、お母さんが、
「あるよ。寝る前にちょっと」って言うんですよ。

田中

（笑）

糸井

これ、涙が出るほどうれしかったです。これを言葉にした人って、いないでしょ？
で、ぼくは、「寝る前にちょっと」を探す人なんです。「寝る前にちょっと」の人たちと一緒に遊びたい人なんです（笑）。
それを言いながら、自分に対して、「お前も幸せになれよ」っていうメッセージを投げかけ続けるっていうのは、もう俺にとって、俺の生き方しかないんですよ。

田中

はいはいはい、わかります（笑）。

糸井

みんなこうしろ、とも言えない。俺は探したんだもん、それを。
で、今のひろのぶさん、この「青年失業家」を、ランナーの横にいる自転車の人みたいな気持ちで見るわけです。
で、「どうなの？」みたいな（笑）。

田中

「青年」と勝手に名乗ってますけど・・
会社を辞めた理由の１つには、人生、すごい速く感じてきたなと思って。
忘れられない一言があって。80いくつで死んだうちの祖母が、死ぬ前にこう言ったんですよ、「あぁ、この間18やと思ったのに、もう80や」って。その一言でものすごい時間をね（笑）

糸井

素晴らしい（笑）
で、それは翻って、「ご近所の人気者」の話なんですよね。
一番近い所でぼくのことを人体として把握している人たちが、「ええな」「今日も機嫌ようやっとるな」って言う。お互いにね。そのご近所のエリアが、本当の地理的なご近所と、気持ちのご近所と、両方あるのが今なんでしょうね。

田中

やっぱり、ネットを介したり、印刷物を介したりもするけど、その「ご近所」っていうのは、フィジカルなことがすごい大事だと思ってて。
１週間前に、糸井さんの楽屋に、大阪のロフトに５分だけでも訪ねていく。で、今日があると、全然違うんですよね、やっぱり。

糸井

アマチュアであることとね、「ご近所感」ってね、結構、隣り合わせなんですよ。

田中

うんうんうん。

糸井

アマチュアだってことは、変形してないってことなんですね。プロであるってことは、変形してる。

田中

変形？

糸井

つまり、これは受け売りなんですけど、「自然に人間は働きかける。で、働きかけた分だけ自然は変わる」。

田中

はい・・

糸井

わかりやすいことで言うと、「ずっと座り仕事をして、ろくろを回してる職人さんがいたとしたら、散々茶碗をつくってきた分だけ、自分の腰は曲がっているしっていう形で、反作用を受けてるんだよ」と。「１日だけろくろを回している人にはそれはないんです」って。

田中

そうですよね（笑）。

糸井

「ずっとろくろを回している人は、ろくろを回すっていうふうに、変形しているわけです。その変形するっていうことがプロになるっていうことである」と。

田中

なるほど。

糸井

で、「変形するっていうのは、10年あったらできるよ」っていうのが励みでもあるし、同時に、「それだけあなたは、変形しないことからはもう自由ではあり得ないんだよ」っていうことでもあって。だから、「生まれた」、「めとった」、「耕した」、「死んだ」みたいな人からは、もう離れてしまう悲しみの中にいるわけで・・
ぼくとひろのぶさんの、「超受け手でありたい」っていうさっきの気持ちも、もうすでにそこが変形しているわけですよ。

田中

そうですね。

糸井

だから、その意味では、そこはもうアマチュアには戻れないだけ体が歪んじゃってるわけです。

田中

はいはい。

糸井

でも、どの部分で歪んでないものを維持できているかっていうところに、もう１つ、「ご近所の人気者」っていうのが。

田中

なるほど（笑）。

糸井

だから、そこを心の中に置いておいて、「お前、そんなことやっていると、自分の変形していない部分なり他人に笑われるよ」っていうところが、持ち続けられるかどうか。

田中

むずかしい話ですね（笑）

糸井

「プロって弱みなんですよ」っていうのは肯定的にも言えるし、否定的にも言えるし。
ただ、「何でもない人として生まれて死んだ」っていうのが人間として一番尊いことっていう価値観は、ぼくの中にはどんどんこう強固になっていきますね。

（つづきます）