- 糸井
-
「ご近所の人気者」っていうフレーズは、
『じみへん』で、中崎タツヤさんが、
書いた言葉なんですよね。
で、それをうちのカミさんが、
「俺だ」って言ったんですよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
「ご近所の人気者」なんですよね。
一番近い所で僕のことを人体として
把握している人たちが、「ええな」って言う、
「今日も機嫌ようやっとるな」って言う、
お互いにね。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
ここにやっぱり落ち着けたくなってしまう。
それをご近所のエリアが、
本当の地理的なご近所と、
気持ちのご近所と、
両方あるのが今なんでしょうね。
- 田中
-
でも、やっぱりネットを介したり、
印刷物介したりするけど、
その「ご近所」っていうのは、
フィジカルなことすごい大事だと思ってて。
- 糸井
-
大事ですね。
アマチュアであることとね、
「ご近所感」ってね、
結構ね、隣り合わせなんですよ。
- 田中
- うんうんうん。
- 糸井
-
で、アマチュアだってことは、
変形してないってことなんですね。
プロであるってことは、、変形してる。
- 田中
- 変形?
- 糸井
-
これは吉本ばななさんの受け売りで、
吉本さんはマルクスの受け売りなんですけど、
「自然に人間は働きかける。
働きかけた分だけ自然は変わる」
- 田中
- はい。
- 糸井
-
「それは作用と反作用で、
変わった分だけ自分が変わっているっていうのが、
これはマルクスが言ったんすね」と。
「仕事っていう、つまり、
何かするっていうのはそういうことで、
相手が変わった分だけ自分が変わっているんだよ」と。
それ、わかりやすいことで言うと、
「ずっと座り仕事をして、
ろくろを回してる職人さんがいたとしたら、
座りタコができているし、あるいは、
指の形やらも変わっているかもしれないし
っていうふうに、散々茶碗をつくってきた分だけ、
自分の腰は曲がっているしっていう形で、
反作用を受けてるんだよ」と。
「1日だけろくろを回している人には
それはないんです」って。
- 田中
- そうですよね(笑)。付かないですね。
- 糸井
-
「ずっとろくろを回している人は型が固まるわけです。
で、その型が固まるっていうことが
プロになるっていうことである」と。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
「型が固まるっていうのは、10年あったらできるよ」
っていうのが励みでもあるし、同時に、
「それだけあなたは、もう自由ではあり得ないんだよ」
っていうことでもあって、
だから、その意味では、
そこはもうアマチュアには戻れないだけ
体が歪んじゃってるわけです。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
でも、どの部分で歪んでないものを
維持できているかっていうところに、
もう1つ、「ご近所の人気者」っていうのが。
「お前、そんなことやってると、笑われるよ」と、
「型が固まっていない部分の自分や他人に笑われるよ」
っていうところが、持ち続けられるかどうか。
- 田中
- なるほど。

- 糸井
-
永ちゃん(矢沢永吉さん)はすごいですよ。
たとえば、僕がよく行ってたイタリアンのお店なんだけど、
僕が永ちゃんの関係の人だっていうことも知ってて、
「この間、矢沢さんがお見えになって、
『何時ごろ何人とか入れますか?』って予約して帰って、
その後、社内の人を連れて来てくれました」と、
「矢沢さんって、ああいう気さくな人ですね」。
つまり、みんなの分を予約して、
顔出していくような人なんですよ。
- 田中
- 矢沢さんが?
- 糸井
-
うん。本当に「ご近所の人気者」なんですよ。
で、あと、社員が引っ越しで、
なかなか探しあぐねてるみたいなのがあったら、
何日か経って、すっごい朝早い時間に電話あって、
「あ、俺だけど」って、永ちゃんが
「豪徳寺となんとかにいい物件あったから」(笑)。
- 田中
- 矢沢永吉が(笑)。
- 糸井
- そう。
- 田中
- 物件見てくるの?
- 糸井
-
そう。
「A、B、Cみたいに3つあるんだけど、
BとCは俺、話しつけてあったんで、
何時に行くといいぞ」。
- 田中
- ほぉ。
- 糸井
-
永ちゃんに言われたら、
行かないわけにいかないんで(笑)。
- 田中
- 絶対行く(笑)。
- 糸井
-
「それはご親切にありがとうございます」
って感じで行って。
「それ、どっちかに決まったの?」って言ったら、
「いや、決まらなかったんですけどね」って。
- 一同
- (笑)
- 糸井
-
だから、その、
「決まらなかったんです」も含めて「ご近所」の人。
あの人、一級船舶の免許持ってますから。
- 田中
- へぇ。
- 糸井
-
すごい大変だったらしい、取るのね。
永ちゃんが全部手配してくれて、
なんとか島まで行けるんですよ、八丈島とか。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
-
で、それ全部やって、
向こうの民宿とかも予約しておいてくれて、
永ちゃんが、クルーザー乗っけて行ってくれて、
「俺は船があるから」って言って、
そこで待っててくれるの。
みんな泊まって、また、「帰ろうぜ」って言って、
帰っていく。
- 田中
- へぇ。
- 糸井
-
全部、だから、それ、サービスという
わがままなんですけど。
- 田中
-
あぁ。

糸井:
でも、いいじゃん(笑)。
そんなことだらけですよ。
ロスの永ちゃんちで、
「じゃあ、このままバーベキューして」みたいな、
全部火の世話から何から全部永ちゃんがやって。
- 田中
- 本人が(笑)。
- 糸井
-
で、みんな腹いっぱいになったかなと思ったら、
今度は、こっち側の居間みたいな所に
DVDをセットしてあって、
みんなで永ちゃんのステージを見る。
- 田中
- 見るんだ(笑)。
- 糸井
-
で、永ちゃん自身が、やっぱりここはね、
さっき言った「受け手として」っていうのはね、
近いかもしれない。
「いいね、矢沢」って言うんだよ(笑)。
- 田中
- 言いながら。
- 糸井
-
で、俺と一緒に行った若いやつとかが肩をこうやられて、
「矢沢、最高だね」って言う(笑)。
それはね、「受け手の永ちゃん」なんだよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
永ちゃんでも「ご近所の人気者」が可能なんだっていう、
すごいいいモデルですね。
なんかね、永ちゃん、泰延さんってね。
- 田中
- とんでもないです。
- 糸井
-
ここで終わりにして。
つまり、「どうするんですか」話は、
公な所じゃなくて、もっといびれるような所で。
- 田中
- いじめてください、もう(笑)

