もくじ
第1回コミュニケーション上手な田中さん。 2017-03-28-Tue
第2回自分が書いてくれるのを待っている。 2017-03-28-Tue
第3回ぼくは「寝る前にちょっと」の人。 2017-03-28-Tue
第4回根拠はなくても、水はある。 2017-03-28-Tue
第5回ご近所の人気者は、偉そくならない。 2017-03-28-Tue

毎日、3歳になる息子から「おはよう、へびつかい~」
「ごはんだよ、へびつかい~」といわれてます。
ぼくがへびつかいシルバーで、彼がてんびんゴールド。
おかげさまで、パパのときよりも、息子と心が通じ合ってます。

田中泰延さん、これからどうするの?

田中泰延さん、これからどうするの?

第5回 ご近所の人気者は、偉そくならない。

(糸井さんのトイレ休憩のため、対談はいったん中断)

(ひとり、着席して待つ田中さん)

田中
‥‥‥‥。

(しばらくして、部屋に戻ってくる糸井さん)

糸井
いやいや、すみませんでした(笑)。
田中
いえいえ、全然。
糸井
いやぁ、これまで人と話をしてて、
トイレで中座したのは、
たぶん、これで2回目です。
田中
ええ、こんなに長い中で(笑)。
糸井
もう1回は、誰もトイレに行けないような状況で、
つまり、行きたくても言いだせないケース。
誰かっていうと、高倉健さん。
田中
ああ、それは無理(笑)。
糸井
弱ったなぁと思いながらも、
手を挙げて「す、すいません!」って。
田中
(笑)
糸井
あとで「健さんの前でトイレに行ったのは、
糸井さんがはじめてです」って。

田中
でしょうね(笑)。
糸井
健さんって、ああ見えて、すごく話好きだから。
誰も途中で言い出せなかったんでしょうね。
田中
ぼくが健さんのすごさを知ったのが小学校ぐらいで、
主演映画の記者会見がテレビであって、
「この主人公と同じ立場だったら、
どういう気持ちになりますか?」って
健さんが質問されていて。
糸井
ええ。
田中
健さんが「気持ちですか‥‥」って考えはじめると、
フラッシュが一斉に止まるんです。
糸井
うんうん。
田中
時間にして1分くらい、
もう放送事故かと思うくらい生放送が止まって、
そしてようやく健さんがひと言、
「‥‥わかりません」って。
一同
(笑)。
糸井
あぁ、あぁ。
田中
そのとき、この人はすごい人だなぁって。
糸井
健さんって、
1人の人物が1つの企業でもあるわけで、
そのあたりの立ち振る舞いは、
すごかったんだと思いますよ。
田中
生身の人間が、
そのままブランドになるわけですからね。
糸井
昔、健さんから「さっき、信号で待ってたね」って
電話を貰ったことがあって。
田中
高倉健さんから?
糸井
そういうのって自慢になるでしょ?
健さんは知ってますよね、そのことを。
田中
ああ、なるほど。
糸井
ある意味、実業家ですよね。
俳優としても素晴らしく、
同時に高倉健を抱えた社長だったと思います。
田中
生身の人間が、そのまま巨大ブランド化という例では、
矢沢永吉さんもそうですね。
糸井
ただ、健さんと違うのは、
永ちゃんには「ご近所感」がありますね。
田中
え、そうなんですか。
糸井
永ちゃんはすごいですよ、
レストランの予約も自分でやりますから。
社内の人の代わりに永ちゃんが店へ行って
「いついつに何人で入れますか?」って。
そういうことが平気な人なんです。
田中
へえ、矢沢さんが。
糸井
あの人は、本当に「ご近所の人気者」なんです。
昔、社員が引っ越しするとかで、
なかなか物件が見つからなくて。
そしたらある日、永ちゃんから
「俺だけど」って電話があって、
「豪徳寺あたりにいい物件あったから」って(笑)。
田中
矢沢永吉さんが物件を(笑)。
糸井
「A、B、Cの3つがあるけど、
BとCは俺が話しつけてあるから、
何時に行くといいぞ」って。
田中
それは、すごい。
糸井
永ちゃんに言われたら、
行かないわけにいかない(笑)。
田中
絶対行く(笑)。

糸井
それで「どっちかに決まったの?」って聞いたら、
「いや、決まらなかった」って。
一同
(笑)
糸井
「決まらなかった」も含めてご近所の人ですよね。
ロスの永ちゃんの家でバーベキューをしたときも、
準備から火の世話まで、全部永ちゃんがやってくれる。
田中
本人がやるんですね。
糸井
食べ終わったあとは、
リビングみたいな所にDVDがセットしてて、
みんなで永ちゃんのステージを見る。
田中
見るんだ(笑)。
糸井
さっき話した「受け手として」という話にも近いけど、
永ちゃんもDVDをいっしょに見ながら
「いいね、矢沢」っていうだよね。
田中
ああ。
糸井
若いやつの肩に手をまわしたりして
「矢沢、最高だよね」って言う。
そのときは「受け手の永ちゃん」なんですよ。
田中
あぁ、なるほど。
糸井
いろいろ悪口を言う人もいますけど、
やっぱり永ちゃんのやることって、
ぼくはけっこう好きで。
田中
ええ。
糸井
影響を受けてるとかじゃなく、
こういうことが可能なんだっていう、
すごくいいモデルなんです。
田中
そういう人の話って、
すごくおもしろいですよね。
ぼく、前に聞いた吉本さんの話がすごく好きで、
お花見のときの。

糸井
ああ、はいはい。
田中
午前中から、
吉本隆明さんが花見の場所取りして。
糸井
そうそう。谷中霊園あたりだったかな、
自転車でブルーシートを背負って、
そこで読む本を持って。
田中
(笑)
糸井
近くに自転車止めて、ブルーシートに石を置いて。
そこで、夜に人が集まってくるまで、
ひとりで本を読んで待ってるんです。
田中
はぁ。
糸井
たしか、鍋セットも持って行ったのかな。
田中
いやぁ、それ、すごいです(笑)。
糸井
でも、欠点は鍋が上手じゃないというか、
鍋に火を点けてグツグツいいだすと、
具材を全部入れちゃう。
一同
(笑)
糸井
思わず「ちょっと吉本さん、それはどうかと思いますよ」って(笑)。
田中
言っちゃうんですね(笑)
糸井
でも、吉本さんも「あぁ、そうか、そうか」って、
すぐに謝っちゃうんです。
田中
すぐに謝る(笑)。

糸井
そういうお手本を近くで見れたのは幸運でしたね。
その、人として間違わない場所みたいなのを、
吉本さんから学んだような気がします。
田中
偉そうにしないって、本当にすごいことですよね。
大阪弁でいうところの「偉そうくならない」は、
本当に大事だなって。
糸井
そうですね。その例でいうと、
鶴瓶さんもすごく上手ですよね。
田中
そうですね、まったく偉そくならない。
糸井
あれは、あれはもう鍛え抜かれた偉そくならないです。
いっしょに大阪の街を歩いたときも。
田中
ええ。
糸井
「お好み焼き、食いに行こう」ってなったんですが、
まわりが鶴瓶さんに気付きそうになると、
自分から近づいていくんです(笑)。
田中
自分から(笑)。
糸井
あの男から「こんばんわぁ、鶴瓶やぁ」って(笑)。
一同
(笑)
糸井
本人は「攻撃は最大の防御や」っていうけど、
ああいうお手本が関西には多いですよね。
田中
昔、鶴瓶さんと仕事の関わりで
「遅刻した時にどうするか」っていうのを
教えてくれたことがあって。
糸井
ええ。
田中
会議に遅刻したときは
「すみませんは言ったらアカン」っていうんです。
どうするかというと、
ドアを勢いよくバーンと開けて、
「アウアウ、アウ! アウウウ、ウーッ!」って、
よだれを垂らせば大丈夫って。

糸井
ああ、してそうだ(笑)。
田中
そしたらみんなが
「鶴瓶さん、そんなに心配しなくていいですよ」
っていってもらえるって。
一同
(笑)。
糸井
身体性だね。
田中
身体性(笑)。
糸井
その、なんていうんだろう、
プロでありながら「身内感覚」の持ち方の上手さというか、
ある意味、「身内」イコール「ご近所」ですからね。
田中
本当、そうですね。
いやぁ、今日はいいお話がいっぱい聞けて。
糸井
こんなおもしろい話を、
ただでみんなに聞かせるなんて(笑)。
田中
(笑)。
糸井
まあ、この対談はそろそろ終わりにして、
田中さんの「これからどうするの話」は、
公なところじゃなく、
もっといびれるような所にしましょうか。
田中
はい、いじめてください(笑)。
糸井
おつかれさまでした。どうもありがとうございます。
田中
ありがとうございました。

(おわります)