(糸井さんのトイレ休憩のため、対談はいったん中断)

(ひとり、着席して待つ田中さん)
- 田中
- ‥‥‥‥。
(しばらくして、部屋に戻ってくる糸井さん)

- 糸井
- いやいや、すみませんでした(笑)。
- 田中
- いえいえ、全然。
- 糸井
-
いやぁ、これまで人と話をしてて、
トイレで中座したのは、
たぶん、これで2回目です。
- 田中
- ええ、こんなに長い中で(笑)。
- 糸井
-
もう1回は、誰もトイレに行けないような状況で、
つまり、行きたくても言いだせないケース。
誰かっていうと、高倉健さん。
- 田中
- ああ、それは無理(笑)。
- 糸井
-
弱ったなぁと思いながらも、
手を挙げて「す、すいません!」って。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
あとで「健さんの前でトイレに行ったのは、
糸井さんがはじめてです」って。

- 田中
- でしょうね(笑)。
- 糸井
-
健さんって、ああ見えて、すごく話好きだから。
誰も途中で言い出せなかったんでしょうね。
- 田中
-
ぼくが健さんのすごさを知ったのが小学校ぐらいで、
主演映画の記者会見がテレビであって、
「この主人公と同じ立場だったら、
どういう気持ちになりますか?」って
健さんが質問されていて。
- 糸井
- ええ。
- 田中
-
健さんが「気持ちですか‥‥」って考えはじめると、
フラッシュが一斉に止まるんです。
- 糸井
- うんうん。
- 田中
-
時間にして1分くらい、
もう放送事故かと思うくらい生放送が止まって、
そしてようやく健さんがひと言、
「‥‥わかりません」って。
- 一同
- (笑)。
- 糸井
- あぁ、あぁ。
- 田中
- そのとき、この人はすごい人だなぁって。
- 糸井
-
健さんって、
1人の人物が1つの企業でもあるわけで、
そのあたりの立ち振る舞いは、
すごかったんだと思いますよ。
- 田中
-
生身の人間が、
そのままブランドになるわけですからね。
- 糸井
-
昔、健さんから「さっき、信号で待ってたね」って
電話を貰ったことがあって。
- 田中
- 高倉健さんから?
- 糸井
-
そういうのって自慢になるでしょ?
健さんは知ってますよね、そのことを。
- 田中
- ああ、なるほど。
- 糸井
-
ある意味、実業家ですよね。
俳優としても素晴らしく、
同時に高倉健を抱えた社長だったと思います。
- 田中
-
生身の人間が、そのまま巨大ブランド化という例では、
矢沢永吉さんもそうですね。
- 糸井
-
ただ、健さんと違うのは、
永ちゃんには「ご近所感」がありますね。
- 田中
- え、そうなんですか。
- 糸井
-
永ちゃんはすごいですよ、
レストランの予約も自分でやりますから。
社内の人の代わりに永ちゃんが店へ行って
「いついつに何人で入れますか?」って。
そういうことが平気な人なんです。
- 田中
- へえ、矢沢さんが。
- 糸井
-
あの人は、本当に「ご近所の人気者」なんです。
昔、社員が引っ越しするとかで、
なかなか物件が見つからなくて。
そしたらある日、永ちゃんから
「俺だけど」って電話があって、
「豪徳寺あたりにいい物件あったから」って(笑)。
- 田中
- 矢沢永吉さんが物件を(笑)。
- 糸井
-
「A、B、Cの3つがあるけど、
BとCは俺が話しつけてあるから、
何時に行くといいぞ」って。
- 田中
- それは、すごい。
- 糸井
-
永ちゃんに言われたら、
行かないわけにいかない(笑)。
- 田中
- 絶対行く(笑)。

- 糸井
-
それで「どっちかに決まったの?」って聞いたら、
「いや、決まらなかった」って。
- 一同
- (笑)
- 糸井
-
「決まらなかった」も含めてご近所の人ですよね。
ロスの永ちゃんの家でバーベキューをしたときも、
準備から火の世話まで、全部永ちゃんがやってくれる。
- 田中
- 本人がやるんですね。
- 糸井
-
食べ終わったあとは、
リビングみたいな所にDVDがセットしてて、
みんなで永ちゃんのステージを見る。
- 田中
- 見るんだ(笑)。
- 糸井
-
さっき話した「受け手として」という話にも近いけど、
永ちゃんもDVDをいっしょに見ながら
「いいね、矢沢」っていうだよね。
- 田中
- ああ。
- 糸井
-
若いやつの肩に手をまわしたりして
「矢沢、最高だよね」って言う。
そのときは「受け手の永ちゃん」なんですよ。
- 田中
- あぁ、なるほど。
- 糸井
-
いろいろ悪口を言う人もいますけど、
やっぱり永ちゃんのやることって、
ぼくはけっこう好きで。
- 田中
- ええ。
- 糸井
-
影響を受けてるとかじゃなく、
こういうことが可能なんだっていう、
すごくいいモデルなんです。
- 田中
-
そういう人の話って、
すごくおもしろいですよね。
ぼく、前に聞いた吉本さんの話がすごく好きで、
お花見のときの。

- 糸井
- ああ、はいはい。
- 田中
-
午前中から、
吉本隆明さんが花見の場所取りして。
- 糸井
-
そうそう。谷中霊園あたりだったかな、
自転車でブルーシートを背負って、
そこで読む本を持って。
- 田中
- (笑)
- 糸井
-
近くに自転車止めて、ブルーシートに石を置いて。
そこで、夜に人が集まってくるまで、
ひとりで本を読んで待ってるんです。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- たしか、鍋セットも持って行ったのかな。
- 田中
- いやぁ、それ、すごいです(笑)。
- 糸井
-
でも、欠点は鍋が上手じゃないというか、
鍋に火を点けてグツグツいいだすと、
具材を全部入れちゃう。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 思わず「ちょっと吉本さん、それはどうかと思いますよ」って(笑)。
- 田中
- 言っちゃうんですね(笑)
- 糸井
-
でも、吉本さんも「あぁ、そうか、そうか」って、
すぐに謝っちゃうんです。
- 田中
- すぐに謝る(笑)。

- 糸井
-
そういうお手本を近くで見れたのは幸運でしたね。
その、人として間違わない場所みたいなのを、
吉本さんから学んだような気がします。
- 田中
-
偉そうにしないって、本当にすごいことですよね。
大阪弁でいうところの「偉そうくならない」は、
本当に大事だなって。
- 糸井
-
そうですね。その例でいうと、
鶴瓶さんもすごく上手ですよね。
- 田中
- そうですね、まったく偉そくならない。
- 糸井
-
あれは、あれはもう鍛え抜かれた偉そくならないです。
いっしょに大阪の街を歩いたときも。
- 田中
- ええ。
- 糸井
-
「お好み焼き、食いに行こう」ってなったんですが、
まわりが鶴瓶さんに気付きそうになると、
自分から近づいていくんです(笑)。
- 田中
- 自分から(笑)。
- 糸井
- あの男から「こんばんわぁ、鶴瓶やぁ」って(笑)。
- 一同
- (笑)
- 糸井
-
本人は「攻撃は最大の防御や」っていうけど、
ああいうお手本が関西には多いですよね。
- 田中
-
昔、鶴瓶さんと仕事の関わりで
「遅刻した時にどうするか」っていうのを
教えてくれたことがあって。
- 糸井
- ええ。
- 田中
-
会議に遅刻したときは
「すみませんは言ったらアカン」っていうんです。
どうするかというと、
ドアを勢いよくバーンと開けて、
「アウアウ、アウ! アウウウ、ウーッ!」って、
よだれを垂らせば大丈夫って。

- 糸井
- ああ、してそうだ(笑)。
- 田中
-
そしたらみんなが
「鶴瓶さん、そんなに心配しなくていいですよ」
っていってもらえるって。
- 一同
- (笑)。
- 糸井
- 身体性だね。
- 田中
- 身体性(笑)。
- 糸井
-
その、なんていうんだろう、
プロでありながら「身内感覚」の持ち方の上手さというか、
ある意味、「身内」イコール「ご近所」ですからね。
- 田中
-
本当、そうですね。
いやぁ、今日はいいお話がいっぱい聞けて。
- 糸井
-
こんなおもしろい話を、
ただでみんなに聞かせるなんて(笑)。
- 田中
- (笑)。
- 糸井
-
まあ、この対談はそろそろ終わりにして、
田中さんの「これからどうするの話」は、
公なところじゃなく、
もっといびれるような所にしましょうか。
- 田中
- はい、いじめてください(笑)。
- 糸井
- おつかれさまでした。どうもありがとうございます。
- 田中
- ありがとうございました。

(おわります)