もくじ
第1回コミュニケーション上手な田中さん。 2017-03-28-Tue
第2回自分が書いてくれるのを待っている。 2017-03-28-Tue
第3回ぼくは「寝る前にちょっと」の人。 2017-03-28-Tue
第4回根拠はなくても、水はある。 2017-03-28-Tue
第5回ご近所の人気者は、偉そくならない。 2017-03-28-Tue

毎日、3歳になる息子から「おはよう、へびつかい~」
「ごはんだよ、へびつかい~」といわれてます。
ぼくがへびつかいシルバーで、彼がてんびんゴールド。
おかげさまで、パパのときよりも、息子と心が通じ合ってます。

田中泰延さん、これからどうするの?

田中泰延さん、これからどうするの?

第4回 根拠はなくても、水はある。

田中
「ご近所の人気者」と「アマチュア」って、
実は似たところがありますよね。
糸井
けっこう隣り合わせですね。
うちの夫婦は、ふたりともアマチュアなんです。
田中
えぇ!? ぼくらから見ると、
奥さまはやっぱりプロ中のプロのような気が‥‥。
糸井
プロになるスイッチを持ってるだけで、
仕事が終わったらアマチュアなんです。
まあ、そういうタイプの人は、
プロからすると少し卑怯なんでしょうけど。
田中
そうなんですか。
糸井
だって、いいとこ取りですから。
でも、スイッチを切り替えて、
2つの人格を生きるのは、
まあ、なかなか大変なことですよ。
田中
ええ、そうですよね。
糸井
うちのカミさんは高い所が苦手で、
ダイビングとか「絶対ムリ!」という感じ。
でも「仕事ならやる?」って聞くと「やる」っていう。
田中
おっしゃるんですね(笑)。

糸井
間髪入れずに「やる」と。
それって、仕事じゃないときに
絶対しないのと同じなんです。
田中
ああ、なるほど。
糸井
だから、プロの人の
「それをやっちゃダメ」とか
「これは良くないイメージが付くからダメ」とかも、
アマチュアの人はへっちゃらだったりする。
田中
ああ、はい。たしかに、そうですね。
糸井
「プロ」というのは、
肯定的にもいえるし、否定的にもいえるわけで、
田中さんはいま「生きていく手段」として、
そこを問われることが多いですよね。
田中
ええ、そうですね。
糸井
みんなが興味あるのは、
田中さんが社会にどう機能するかなんです。
だから「何をやって食べていくんですか?」
「どうやって気持ちを維持するんですか?」
とかが気になる。
田中
まさにそうです。そこはみんなが質問するし、
ぼくもときどき考えたりします。
あの、これは僕からの質問なんですが‥‥。

糸井
はい。
田中
糸井さんが広告の仕事を一段落させようと思ったとき、
やっぱりそういうことに直面されましたか?
糸井
まさしくそうですね。
言えないようなことも含めて、もっと大冒険でした。
でも、ぼくは案外平気だったかな。
田中
それは、なぜですか?
糸井
なんでしょうね。まあ、ひとつは、
ぼくよりもアマチュアなカミさんがいたことだと思います。
田中
ああ。
糸井
そういうことをカミさんに相談したことはないですし、
あとで「聞くべきだった?」といっても
「いや、別に」っていう感じなので。
それは、自分が働くつもりだったからかもしれないですが。
田中
それこそぼくも、
まさか会社を辞めるなんて思ってもなくて。
糸井
辞めようと思ったのは?
田中
思ったのが去年の11月末で、
辞めたのが12月31日です。
糸井
素晴らしいねぇ(笑)。
田中
いやぁ、なんか、これが本当に。
糸井
たしか、きっかけは‥‥。
田中
いやぁ、はい。
理由になってないような理由ですが、
やっぱり‥‥はい。
糸井
ブルーハーツ、ですよね?
田中
そうなんです。糸井さんがおっしゃったように
中身はいまも青年のままなので、
ブルーハーツを聞いていた時のことが、
急に思い出されてきちゃって。
「なんかもう、このように生きなくちゃ」って。
糸井
そうですか。
田中
かといって、ぼくには何かを伝えたいとか、
メッセージがあるとか、
そういうのがないんです。
ただ、なんというか、
「まずはここを出ないと」って。

糸井
どうしてもやりたくないことって
世の中にはいくつもあって、
ぼくは、本当にそれを捨ててきた人なんです。
田中
ええ、そうだと思います。
糸井
ぼくの場合は
「何かをやりたい」というより
「やりたくないことを、やりたくない」
という気持ちが強かった。
田中
はい。
糸井
つまり、広告というものが、
どうしてもやりたくないことに似てきちゃって、
それで「これは、まずいなぁ」って。
プライドという言葉とも違うもので、
どうしてもやりたくないというか‥‥。
田中
‥‥。
糸井
無名であることはいいんだけど、
過剰にないがしろにされる可能性があったというか、
その‥‥魂のほうが。
田中
ええ。

糸井
ぼくにとってのブルーハーツは、
「釣り」でした。
田中
釣り、ですか?
糸井
そう、釣りです。釣りのコンペって、
もう誰もが平等にできる争いごとで、
その中の勝ったり負けたりで、
もう血が沸いてくるんです。
田中
そういえばこの前、
「釣りをはじめたころは、水たまりを見るだけでも、
魚がいるんじゃないか」って。
糸井
そうそう(笑)。
田中
そう思えてくる(笑)。
糸井
釣りはおもしろいですよ。普段は見えていない生き物が、
ぼくの竿の先に付いた釣り糸の向こうで、
エサをひったくりにくる。それも、ものすごい荒々しさで。
その実感が、もう、ぼくをワイルドにするんです。

田中
そうなんですね。
糸井
プロ野球のキャンプに行っても、
宮崎のホテルに向かうまでに何回も水が見えて、
野球を観に行くはずなのに、
気がついたら水を見てる。
田中
水を見てる(笑)。
糸井
野球キャンプの見物なのに、
折りたたみの竿を持って。
田中
持ってるんだ(笑)。
糸井
正月は正月で、
家族で温泉に行ったときも、まったく根拠なく、
砂浜で一生懸命投げつづけるわけです。
それこそ、夏に海水浴をやるようなビーチで。
田中
そのときは、なにか釣れました?
糸井
まったく釣れません。
田中
(笑)
糸井
だって、根拠のない釣りですから。
田中
あははは。
糸井
でも、根拠がなくても水がある。
一同
(爆笑)
糸井
根拠がなくても水がある。
ぼくにとってのインターネットって、
まさに水なんです。
田中
うわぁ、そこにつながる!
糸井
ぼくも、いまはじめて説明できました(笑)。
田中
いやぁ、でも、そうですね。
糸井
根拠はなくても水がある。
田中
根拠はなくても水がある。
糸井
水があれば、水たまりでも魚はいるんです。
で、そのことが自分の心に火を点けた。
ぼくの「リンダリンダ」は「水と魚」です。
田中
水と魚‥‥。
糸井
朝日が昇るくらいの早朝に、
誰もいないような静かな水路で釣りをしていると、
最初の1匹というのは、
それこそ泥棒にでも遭ったかのように
ひったくられるんです。
田中
ええ。
糸井
早朝のシーンとした状態から、
「俺の大事な荷物が、いま盗まれた!」みたいに、
目の前の糸がパーッと引かれる。
その喜びといったら。
田中
うわぁ‥‥。
糸井
その喜びが、ぼくを変えたんじゃないかな。
田中
‥‥いやぁ、いまの話が、
まさかインターネットにまでつながるとは。
糸井
いままで、思いついてなかったです。
田中
でも、言われてみたら、きっとそういうことですね。
糸井
広告を辞めるときの
「ここから逃げ出したいな」という気持ちと、
「水さえあれば、魚がいる」という期待する気持ちを、
ぼくの肉体が「釣り」という行為につなげたんでしょうね。
田中
ああ、なるほど。
糸井
という、素敵な話です(笑)。
田中
いやぁ、本当に。はい、すごい話です(笑)。

(つづきます)

第5回 ご近所の人気者は、偉そくならない。