- 田中
-
僕は世の中をひがむとか、
言いたいことがはみ出すとか、
何か政治的主張があるとかはないんですよ、読み手だから。
映画評とか書いてたら、
「田中さん、そろそろ小説書きましょう」
と言われるんですが。
- 糸井
- 必ず言われますよね。
- 田中
-
だけど、何かを主張したくて
文章を書くっていうのは僕にはない。
常に、
「あ、これいいなあ」、
「あ、これ木ですか?」、
「あぁ、木っちゅうのはですね」っていう、
ここから話しがしたいんですよ、いつも。
- 糸井
- お話がしたいんですね(笑)。
- 田中
- そうなんです。それでいいんです。
- 糸井
-
でもどうしても僕の中にも歪んだ見方が残ってて、
吉本ばななに言われたんですよ。
「糸井さんはちょっと作家を偉いと思ってる」って。
「で、それはものすごく惜しいことだと思う」って。
- 田中
- あぁ、あぁ。
- 糸井
-
で、同じことをお父さんの吉本隆明にも言われたんですよ。
要するに、「思う必要がないのに」っていうことです。
- 田中
- 本当そう思います、僕も。
- 糸井
-
俺もそう思うんですよ。
でもそういう気持ちが残っているとしたら、
しょうがないなぁ。
絵描きにも映画作ってる人にも拍手するんだけど、
そういう表現者に対する拍手が
ちょっとでかすぎるように見えるのかもしれない。
もっとしょうもないものへの拍手っていうのが
同じ分量でできてるはずなのに。
人にはなかなか伝わらない。
- 田中
-
だから、バランス取って、
しょうもない戯言を言ってる僕のような人間に、
夜中にツイッターで絡むわけですか(笑)。
- 糸井
-
だいたい「www」で返されてますけどね(笑)。
- 糸井
-
文壇だとか表現者の集いは、
居心地がよさそうだなっていうのは思うんだけど、
そのために趣味のいい暮らしをするみたいになっちゃうのが、なんか。
僕としてはちょっと、もっと下品でありたいというか(笑)
- 田中
-
永遠に馬鹿馬鹿しいことをやっていたいですよね。
それをやらないところに陥った瞬間、
偉そうな人になってしまうので。
- 糸井
- 僕はあくまで「ご近所の人気者」でいたいんですよ。
- 田中
- わかります(笑)。
- 糸井
-
「ご近所の人気者」っていうのは、
漫画家の中崎タツヤさんが『じみへん』で書いたフレーズです。
で、うちのカミさんが俺のことを「それだ」って言ったんですよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
一番近い所で僕のことを人体として把握している人たちが、
「ええな」って、「今日も機嫌ようやっとるな」って言う。
お互いにそれを言い合う。
それでいいんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
で、今の時代は、本当の地理的なご近所と、
気持ちのご近所と、両方あるんでしょうね。
- 田中
-
そうですね。
ネットや印刷物を介した「ご近所」もありますよね。
ただ、その「ご近所」っていうのは、
フィジカルなこともすごい大事だと思ってて。
- 糸井
- 大事ですね。
- 田中
-
1週間前、糸井さんの楽屋に訪ねていきましたよね。
5分だけでもちょっと会いに行く。
そうすると今日の対談が全然違うんですよね、やっぱり。
- 糸井
-
なるほど。
あと、アマチュアであることと、
「ご近所感」ってね、
結構隣り合わせなんですよ。
- 田中
- ええ。
- 糸井
-
で、アマチュアだってことは、
変形してないってことなんですね。
プロであるってことは変形してる。
- 田中
- 変形?
- 糸井
-
これは吉本隆明さんの受け売りで、
吉本さんはマルクスの受け売りなんですけど、
「自然に人間は働きかける。
で、働きかけた分だけ自然は変わる」と。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
「それは作用と反作用で、
仕事、つまり、何かするっていうのは
相手が変わった分だけ自分が変わっているんだよ」と。
例えば、ずっと座り仕事をして、
ろくろを回してる職人さんがいたとしたら、
座りタコができているし、
指の形も変わっているかもしれないし。
散々茶碗をつくってきた分だけ、反作用を受ける。
1日だけろくろを回している人にはそれはないんです。
- 田中
- そうですよね。
- 糸井
-
その歪むっていうことが、
プロになるっていうことなんです。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
「歪むっていうのは、10年あったらできるよ」
っていうのが励みにもなるけど、
同時に、
「あなたは歪まないことからは自由ではあり得ないんだよ」
っていうことでもあって。
だから、
「生まれた」、「めとった」、
「産んだ」、「死んだ」みたいな人からは、
離れてしまう悲しみの中にいるわけで。
だから、僕と田中さんの
「超受け手でありたい」っていう気持ちも、
もうすでにそこが歪んでいるかもしれない。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
-
だから、その意味では、
アマチュアには戻れないほど
体が歪んじゃってるかもしれない。
- 田中
- はい。
- 糸井
-
でも、どうやって歪んでないものを維持するか
ということを考えると、
ご近所の人気者でいるというのが大事なんですね。
- 田中
- そこにつながるわけですね。
- 糸井
-
だから、自分はあくまでご近所の人気者であるということを
心に留めておいて、
「お前、そんなことやってると笑われるよ」
っていう意識を持ち続けられるかどうか。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
-
ああでも、「持ってりゃいいんだよね」くらいのね、
それくらい雑に考えたほうがいいような気がする。
- 田中
- はい。
(つづきます)
