田中

いま、会社で働きながら何かを書く人ではなくなったので、
これからどうしたらいいのか、
人生の岐路に立っているんです。

糸井

それには２つ方向性があって、
書くことで食っていけるようにするっていうのが、
いわゆるプロの発想。
　
それから、
書くことが食うことと関わりなく自由であること、
というアマチュアの方向性もある。

田中

そうですね。

糸井

で、僕はアマチュアでいたいと思った。
　
書いて食おうと思うと
自分がいる立場がつまんなくなるような気がした。
　
いつまでたっても旦那芸でありたいっていうか、
「お前、ずるいよ、それは」っていう場所にいないと、
「良い読み手の書き手」にはなれないって思ったんで、
僕はそっちを選んだんですね。
で、田中さんはまだ答えはないですよね。

田中

そうなんです。

糸井

どうなるんだろうねぇ。

田中

糸井さんは旦那芸として書くために、
組織を立ち上げ、物販もして、
みんなが食べられる会社を作ってきましたよね。
「自分のクライアントは自分」っていう立場を、
作り切ったってことですよね。

糸井

そうですね。
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』という小説は、
「俺はキャッチャーだから、その場所で自由にみんな遊べ」
っていう話ですよね。
まさしく、僕が目指しているのはそれで。

田中

なるほど。

糸井

それで、「場」を育てたり、譲ったり、
そこで商売する人に屋台を貸したりみたいなことが僕の仕事で、
その延長線上に何があるかって言うと、
僕は書かなくていいんですね。
本職は、管理人なんだと思うんですよ。

田中

管理人。

糸井

田中さんもその素質があると思うんですよ。

田中

なるほど。

糸井

僕はやりたくないことをどうやってやらないか
っていうことだけで生きてきた人間です。
で、「やりたいことだなぁ」とか
「やってもいいなぁ」って思うことだけを選んできた。
　
あと、人は書き手に対して、
ある種のカリスマ性を要求しますよね。
トランプ大統領よりもボブ・ディランが偉い、
みたいな目を向けがちで。
で、そんなのどうでもいいので、僕は。

田中

わかります。

糸井

その順列からも自由でありたいなぁ。
だから、超アマチュアっていうので一生が終われば、
僕はもう満足なんですよ（笑）。

田中

糸井さんはその軽さをどう維持するかっていう
戦いをされてきたと思うんです。

糸井

そうですね。
同時に、その軽さはコンプレックスでもあって。
「俺は、逃げちゃいけないと思って勝負してる人たちとは
違う生き方をしてるな」って。

田中

わかる、めっちゃわかる（笑）。

糸井

たとえば勝負している人は、
人を斬っても、
まだ生き返って斬りつけてくるかもしれないから、
もう１回刃を両手でもって突き立てて、
心臓にとどめを刺して、
まだ心配だから踏みつけて、
「死んだかな」っていうのを確かめて、
心臓をえぐり出して、
ハァハァ言いながら、「勝った」って言う。
　
俺はそういう生き方はしていないので、
生き返ってきたら、
「そいつ偉いな」って思うみたいなところがあって（笑）。

田中

そうですね。
　
僕はものを書くようになってたった２年ですけど、
書くことの落とし穴はすでに感じています。
毎日毎日書いていくうちに、
やっぱりだんだん独善的になっていく。

糸井

なっていきますね。

田中

はい。
その果てに、書くものが右か左に寄ってしまうんですよね。

糸井

うんうん。

田中

真ん中あたりで心が揺れているのを
うまいことキャッチできるフレッシュな書き手でも、
10年くらいすると
右か左に振り切ってることがいっぱいあります。

糸井

世界像を安定させたくなるんだと思うんですよね。

田中

はい。

糸井

でも、世界像を安定させると、
やっぱり夜中に書いている時の全能感が、
起きててご飯食べている時まで
追っかけてくるんですね、たぶん。

田中

なるほど。

糸井

僕は
「生まれた」、
「めとった」、
「耕した」、
「死んだ」っていう
４つくらいしか思い出のないっていうのが
一番高貴な生き方だと思うんで。

田中

なるほど。

糸井

で、そこからずれる分だけ歪んでいるんで。
で、なんか世界像を人にこう、
押し付けるような偉い人になっちゃうっていうのはねえ。
読み手として拍手はするんだけど、
人としてはつまんないかなっていうのがありますね。

田中

そうなるのが恐ろしかったりしますね。

糸井

しますよねぇ。

田中

自分が書いているものが、はみ出したり、怒ってたり、
ひがんでたりしている、
ということを忘れる人が危ないですよね。

　　　　（つづきます）