ぼくは東京で、恵介は広島で、
お互い大学時代を過ごしていた土地で、就職をした。
そんな僕らの関係が変わったのは、2016年の夏。
ぼくが恵介に会いに、広島に行ったとき。
会うや否や、恵介はぼくに言った。
「来年、結婚するよ。結婚して、家を継ぐことにした。
地元に帰るよ。」
ぼくはとても驚いた。
結婚は、ぼくが「広島に行くから会おう」と連絡したときに、
恵介から、「ちょっと話たいことがあるし」
と言われていたことで、なんとなく予想はしていた。
だけど、家を継いで、地元に帰ることは予想外だった。
恵介の実家は、農業をしている。
ぼくの実家は、酪農と農業をしている。
二人にとって、実家を継ぐのか継がないのかというのは、
とても身近な、考えなくてはいけないことだったから、よく話した。
でもそのときの話は、
「いつか、継ぐのか、どうするのか、まあ、なんとかしないとねー」
という、遠い未来の話だった。
そんな遠い未来の話が、いきなり目の前に現れて、
ぼくは驚き、慌てた。
そんなぼくに対して、恵介はさらにこう言った。
「で、たっちゃんは、どうするの?
帰ってきたら、俺がいるよ。また一緒に遊べるよ。(笑)」
恵介は、テレを隠すために、冗談っぽく、そういった。
だけど、目は笑っていなかった。覚悟を決めた目をしていた。
ぼくは、すごく心を動かされた。
そのあと、はっきりとした答えを言えないまま、
二人で遊んで、お酒を飲んで、
くだらない話をしていたけど、
ぼくの心はずっとザワザワしたままだった。
そして、ザワザワした心のまま、日々が過ぎ、
ぼくのところに恵介から結婚式の招待状が届いた。
そして、スピーチの依頼も、一緒にされた。
ぼくは、覚悟を決めた幼馴染に向けて、
何を話せばいいんだろうか。
(つぎが、最後です)