もくじ
第1回先生、味覚ってどう変化してますか? 2017-05-16-Tue
第2回集約の時代から再び独自性・地域性へと 2017-05-16-Tue
第3回米がなくては酒ができない。農業のはなし 2017-05-16-Tue
第4回幸福感。食事とお酒の相乗効果 2017-05-16-Tue
第5回「酒が人間をダメにするんじゃない。人間はもともとダメだということを教えてくれるものだ」 2017-05-16-Tue
第6回<番外編>山田錦の里・吉川にて 2017-05-16-Tue

寒さに弱い北海道出身。経理、飲食業、旅人など様々な職業を経て、いまは日本酒ライターです。「后バー有楽」の女将もやってます。待ってます。
Twitter :@otomi0119

日本酒のこれから

日本酒のこれから

担当・友美

第5回 「酒が人間をダメにするんじゃない。人間はもともとダメだということを教えてくれるものだ」

白樫
前、蔵に30人の大学生が来ましてね、
見学して試飲して、その後で、
「週1回以上、なんのお酒でもいいから、
アルコールを口にする人?」
って聞いたらたった1人でした。
穂・と
うわぁ!1人。本当ですかあ。
白樫
しかも、その1人が、
中国からの留学生の方で。
穂・と
うわぁ……。
ともみ
そうなると、もはや日本酒の今後うんぬん、
とかの次元ではないですよね。
白樫
そうなんです。
なぜだろう?と思って、
それぞれに直接聞いてみたんですよ。
そうしたら、友だちと会うことは好きなんだけど、
会うことの重要性はあまり感じてなくて、
会っているっていうことを写真に撮って、
SNSを通じてそこにいない人たちに、
知らせることが大事なんですって。
穂坂
ほぉ。

白樫
お酒を飲むと顔が赤くなるでしょう。
写真写りが悪くなるんだそうですよ。
あとは、
居酒屋で千円ちょっとの予算だと、
テーブルの上がかなり閑散とするけど、
スタバで同じ金額を使うと、
豪華でかわいい写真が撮れる、と。
「なんでスタバじゃだめなんですか?」
って逆に聞かれちゃいました。(苦笑)
ともみ
それは、お酒に関わる者としては、
かなりショックですね。
千円ちょっとあるなら、
缶チューハイとビールに缶詰。
だめですかね?
私ならそうしちゃうんですけど。

白樫
いや、それじゃあ写真うつりが…。
ともみ
そうですよね。
そうじゃないかとは思いました。
穂坂
以前ね、『これからの日本酒の業界展望』
っていうテーマで学生に卒論を書かせたんですよ。
そしたら調査の中に、
学生が使えるお金っていうのが減ってきている、と。
小遣いの使用内訳で一番大きいのは、
IT関係だそうです。
今のお話のように、
友だちと一緒にワイワイするということも、
実はあんまりない。
1人でもいいんだそうですよ。
ともみ
あぁ。携帯電話があって、
SNSにコメントがきたりすると、
一緒にいるような感覚になるのかもしれませんね!
穂坂
そう。そうなってくると、
お酒はいらないってことになってくる、と。
実は調べてみると、
これは若い世代だけじゃなくて、
もっと上の世代にもこの傾向がみられるんです。
家庭のお父さんたちも、
お酒を飲む環境がどんどん狭まってきてて。

ともみ
改めて、
「なぜお酒を飲むんですか?」と、
聞かれたら、なんて答えましょうか?
穂坂
酒の飲み方で、
大昔から今まで変わってないのは、
コミュニケーションのツールとして使われていること。
人間関係を保つためにありますよ。
平安時代だって同じなんですよ。
今よりもっと明確な上下関係があった中で、
それを調整するための酒ね。
昔の人も「あぁ同じだなぁ」って思いますよ。
ともみ
平安時代は、
偉い人と目下の人とが一緒に飲むんですか?
穂坂
一緒に飲んだみたいですよ。
白樫
お下がりをちょうだいしたり。
穂坂
それも当然ありますよね。そうですね。
ともみ
お下がりってなんのことですか?
穂坂
お下がりは、神様に供えたものを下げてきて、
それでいただくものですよ。
ともみ
ああ、はいはいはい!なるほど。
穂坂
それを使って、みんなで楽しむんですよ。
もちろん上下があるけれども、
一緒に酔って楽しみながら、
自分の位置とか今やってることとか、愚痴とか、
そういうことを全部言い合いながら、
人間関係の親睦を図ったようです。
だから、昔からなんにせよ酒だったじゃないですか。
これが昔からある文化です。
出逢いで酒、別れで酒、ですもん。
楽しいときも酒、悲しいときも酒。
ともみ
でもこんな世の中ですから、
別に酔わなくたっていいじゃない。
お酒なしで同じことをすればいいんじゃない。
って言われちゃうじゃないですか。
お酒で悪いことだって起こるじゃないか、とも。

白樫
そういえば、立川談志師匠が昔、
「酒のせいで悪くなるんじゃない。
そいつが悪いってことを酒が教えてくれるんだ※」って言っていたような。
(※正しくは「酒が人間をダメにするんじゃない。人間はもともとダメだということを教えてくれるものだ」)
穂・と
(笑)

穂坂
はいはい。
アルコールって人の脳を麻痺させますでしょう。
一番最初に崩れるのは、理性の部分なんですよ。
理性が崩れた瞬間に、仮面が剥がれる。
そうすると、その人の持っている本質が出ます。
理論的にいうと、
酒が悪いんじゃなくて、
その人が悪いか?悪くないか?が出るんですよ。
ともみ
あぁ、なるほど。
その人の本質が。
穂坂
なんとか上戸なんていうのはまだ可愛い。
泣き上戸、笑い上戸、怒り上戸、泣き上戸…
普段は一生懸命、理性で抑圧してるんですよ。
お酒を飲んだら楽しい人っているでしょう。
本当は普段から楽しくしたいんだけど、
周りから軽蔑されるからって隠してる人もいますよね。
酒飲むとその人自身がわかります。
だから、酒飲みで悪い人っていうのは、
本心が悪いの。
ともみ
(笑)

穂坂
酒が悪いんじゃないんですよ。
その人の人間性が出ちゃう。
そこだけなんですよ。
だから「酒飲みにウソつきはいない」ってよく言いますよ。
ともみ
聞きますね。
あっ!そうか。
そもそもウソをつけなくなるんですね。
穂坂
そうです、本性出ちゃうから。
だからそれでも嘘つく奴は、本当の悪い奴だって。
3人
(笑)
ともみ
それはどうしようもないですねぇ(笑)
穂坂
どうしようもないです。
ともみ
騙されてる側も酔ってるから、
騙されたことも、
気づかないかもしれないですけどね(笑)
穂坂
かもしれませんけどね(笑)

穂坂
酒を飲むと、
理性から剥がれていくから融和になり、
それでコミュニケーションを潤滑に図れると。
で、段々楽しくなっていくけど、
度を超すと、今度は上戸になったり、
酩酊にはいったり。
その酩酊に入る前、
ちょっと千鳥足になりそうで、
呂律が回らなくなったら、
もう飲むのをやめないといけません。
そうすれば楽しいまま終われる。
このことを、みなさんが知ってくれれば、
良いんですけどねぇ。
白樫
そのコミュニケーションの機会が減っている、
その原因のひとつは、
本音で話せなくなってるから。
ということも、
あるかもしれませんね。
ともみ
本音を話すとマズイってことですか?
だからお酒を飲んで酔うと都合が悪い?
白樫
確かに今って、テレビもSNSも、
なにかあれば、立ち直れなくなるまで、
みんなで叩きますからねぇ。
穂坂
なんかちょっと言い過ぎちゃっても、
今までなら、
「酒の席でごめんね」っていう弁えと教育もあったから。
グレーというか、程々というか、
そういう日本の文化が良かったのに。
今は表面に見えている言葉と事象だけをみて、
それで判断するでしょう。

ともみ
そうですね。
それぞれの背景には、
色んなことがありますからね。
穂坂
結果があるということは、
必ず原因があるっていうことですから。
たとえばある日突然、
違う国に連れて行かれたら、
今まで自分が得た経験を駆使して、対処しますよね。
最初は様子伺いだけで、動けないかもしれない。
全然体験したことないところにポンって連れて行かれる、
その時のように配慮のようなものが必要ということです。
ともみ
そうですね。知ったつもりで、
「要はこういうことでしょう」と判断するのは、
大変危険なことですね。
 
あ!海外という話で思い出しましたが、
ベトナムでもアメリカでも、
言葉の通じない海外の酒場で、
気がつくと仲良くなって乾杯している、
ということがよくあります。
お酒ってきっとそういうことですよね。
穂坂
そうです。その通りです。
ともみ
ムリに言葉で解決しなくてもいい、
ってさせちゃうのはお酒ですもんね。
穂坂
雰囲気を含めて、
なにかを察し合うんですよね。

ともみ
以前白樫さんにご紹介いただいた、
御影駅前の角打ち。
白樫
あぁ!面白いところでしたでしょう。
ともみ
お店も良かったですけど、
そこにいる常連さんもとても素敵な方たちで。
みんなで仲良く飲んで、
その後一緒にもう一軒行っちゃいましたよ。
どこにいてもお酒さえあれば変わらないなぁ~、
としみじみ思いましたよ。
穂坂
いや、それはわかんないですよ。
それは人徳かもしれない。
そういう雰囲気を醸してるのかもしれない(笑)
ともみ
”雰囲気を醸す”って良い言葉ですね。
お酒っていいなぁと、つくづく思いました(笑)

穂坂
僕はね(学生に対して)、
「飲み屋に行くときは最低3人以上で行け」って言うんです。
そうすると1人2種類ずつ頼めば、計6種類。
おつまみも同様で、
それだけの組み合わせを体験できますでしょう。
ひとりで6種類飲むの大変ですからね。
白樫
3人で同じお酒飲んで、
違う感想を言い合うってこともいいですね。
ともみ
それぞれの受け取り方があるんだって、
思えますよね。
先日、別の蔵のお酒を混ぜて、
「この酒とこの酒は合う」
「この料理と合わせると最高だ」
と言って遊んでいましたよ。

穂坂
そう、その遊び心が大事でね。
自分たちが好き勝手やって、
色々試してみるのはルールなんてないんですよ。
正解を求めようとしなくて良いんです。
白樫
そうですね。
それはある意味、全部正解だし、
正解はないですからね。
穂坂
そういう前提でいけば喧嘩にならないですよ。
「俺はこう思う」
「あれ、出身どこ?」から話は始まりますよ。
ともみ
好きな人のタイプが違うように、
それぞれの感じ方があって、
みんな好みって違いますからね。
そりゃあ中には人気の高い、
女優さんやアイドルやモデルさんはいるでしょうけどね。

穂坂
平安時代や大昔と比較すると、
食べられる料理の味つけは濃くなってきています。
すると、
日本酒だけじゃ足りなくなってくるんですよ。
あとは、最初の一杯目から日本酒を飲むかっていうと、
白・と
ビールですねぇ。
穂坂
僕もそれでいいと思うんです。
好きな酒で気持ちよく喉を潤して。
特に一杯目は、喉越しの好き好きがあるでしょう。
僕だって最初は、ビールですもん。
簡単なつまみを食べたりして、
それで、さぁしっかり食べようかって時に、
日本酒に移るかもしれないし。
その時その時の自分の体調も考えて、
自由に選ぶのがいいと思うんです。
お酒を飲む時まで、
「こうじゃなきゃいけない」なんていったらね、
それほどつまらないものはないですよ(笑)
やっぱりね、楽しく飲まなきゃ酒じゃないから。
白樫
先生が仰る通りで、
楽しく1日を終えられる酒が一番いい。
そう思っています。
穂坂
そうです、その通りです。
僕はね、飽きずに最後まで楽しく飲めたら、
それが一番良い酒だと思ってる。
でも身体に悪いかもわからない(笑)
ともみ
つい飲みすぎちゃってね(笑)
3人
(笑)

穂坂
さっき言ったように、
日本酒がこうじゃなきゃいけないっていうの、
僕はないと思ってるのです。
好きに呑めばいい。
 
でも、味がどんどん変わってきて、
味覚がずれてくるのは、
それはまた別の問題。
それも食育のひとつだと思うんですよね。
それを上手く伝えていくことができないと、
昔ながらの伝統食も一緒に消えていく。
ともみ
子どもだけじゃなくて、大人も。
みんなに食育が必要ですね。
地域経済、農業、
親子、上下、友人関係、
日本や日本人としてのアイデンティティ。
大昔の歴史から現代にいたるまで、
様々なものと密接に結びついている、
日本の酒と書いた「日本酒」。
今一度目の前のものだけに固執せず、
立ち返り、見直してみる必要があるのかもしれませんね。
 
先生、白樫さん、
本日は様々なことを教えていただきました。
ありがとうございます。
穂・白
ありがとうございました。

(つづきます・現地レポート)

第6回 <番外編>山田錦の里・吉川にて