もくじ
第1回〝想いが込もる〟というジュエリーの特性 2017-05-16-Tue
第2回学費を稼ぐために飛び込んだ職人の世界 2017-05-16-Tue
第3回厳しさの中にも愛情が溢れる職人気質の親方 2017-05-16-Tue
第4回下町の職人、世界一を目指してパリへ渡る 2017-05-16-Tue
第5回ジュエリーの歴史や文化を伝えていく人に 2017-05-16-Tue
第6回職人が作業員へと変わっていった背景 2017-05-16-Tue
第7回ジュエリーは人に何を与えるのか? 2017-05-16-Tue

ライター/編集者。函館と東京を行ったり来たりしながら、インタビューをしたり、文章を書いたりしています。
Twitter
IN&OUT-ハコダテとヒト-

〝想い〟を形にする</br>ジュエリー職人の仕事

〝想い〟を形にする
ジュエリー職人の仕事

担当・阿部光平

第2回 学費を稼ぐために飛び込んだ職人の世界

━━
そもそも、臼澤さんがジュエリー業界に入ったきっかけは
何だったんですか?
臼澤
ま、簡単に言っちゃえば、偶然なんですよ。
━━
偶然?
臼澤
僕、生まれが墨田区の向島ってところで、
じいちゃんも親父も職人だったんです。
━━
いわゆる下町の職人さんの家だったんですね。
臼澤
そうです、そうです。
親父はペンキ屋で、独立して、
葛飾区の高砂ってとこで仕事をしていたんですけど、
僕は「職人だけには絶対になるまい」と思ってたんです。
あんなに汚れて、夜遅くまでやって、
夏場は汗だくで、日焼けして真っ黒になる仕事なんて、
絶対に嫌だなって。
その上、ボーナスもなければ、退職金もないし、
元請けが潰れたら自分もダメになるじゃんと思って。
いい時もあるけど、悪い時は本当にお金がないですから。
こんな安定しない職業なんて絶対に嫌だと思ってたんです。
━━
手数=収入ですからね。
僕も、フリーランスなので同じです。
臼澤
そうそう。
だから、僕、公務員になりたかったんですよ。
━━
安定した職に就きたいと。

臼澤
はい。
で、高校では、
甲子園を目指して野球をやってたんですけど、
けっこう強い学校だったので遠征も多かったし、
私立だったから学費も高くて、
親はえらいお金がかかったんですよね。
 
それで、高校を卒業する時に親父が音をあげまして、
「弟もいるんだから、大学になんか行かせられねぇよ」
って言われたんです。
━━
はい、はい。
臼澤
僕は受験をして、大学に受かったんですけど、
やっぱり親父からは
「大学行くっていっても学費どころか、
入学金も出せねぇよ」って言われちゃって。
だけど、母方のおばあちゃんが、
僕のことをすごくかわいがってくれていて、
入学金は出してくれたんですよ。
━━
おぉー。あとは授業料さえなんとかなれば。
臼澤
そうなんですけど、受かったのが理系の学科だったので、
学費も高かったんですよね。
月に20万円くらいだったかな。
 
それで、アルバイトを探したんですけど、
昼間は研究があるから長時間働けないってことで、
仕事がまったく見つからなかったんです。
どこにも雇ってもらえなくて困ってた時に、
古びた建物の2階からカンカンカンカンって
音が聞こえてきて、半ばヤケで
「こんなとこでもいいから働かせてもらえねぇかな」
と思って入って行ったんです。
そしたら、作業場みたいなところに、じいさんが座ってて、
いきなり荒い言葉で「何? あんちゃん」
って言われたんですよ。
━━
いきなり知らない人が入ってきたら、
まぁ、そうなりますよね。

臼澤
それで、「仕事を探してるんですけど」って話しかけたら、
「なんだ、あんちゃん。このご時世でプー太郎かよ」
って言われて。
当時はバブルで、景気のいい時代だったから。
 
「プー太郎じゃないんですけど、
大学へ行くのに授業料を自分で払わなくちゃならなくて」
って言ったら、今度は「このご時世に苦学生かよ」って。
「はぁ」とかって返事をしたら、
その人が「あんちゃんさ、おじさんと賭けしようか?」
って言うんですよ。
━━
賭け、ですか。
臼澤
「あんちゃんがさ、おじさんの下について
仕事を覚えてくれたら、
おじさんが授業料を全部出してやるよ」って言われて。
しかも、授業料の他に小遣いもくれるっていうもんで、
「やりまーす!」って即答したんです。
 
それが、僕の親方になる
長谷川鐵太郎って人だったんですけど。
━━
じゃあ、学費を稼ぐために見つけたバイトが、
たまたまジュエリーの工房だったってことなんですか?
臼澤
そう、偶然なんです。
いくらバブルだっていっても、
月に20万円稼ぐためには
バイトを3つも4つも掛け持たなきゃならないし、
夜のバイトなんかしてたら朝起きられないから、
「4年じゃ卒業できねーかなぁ」って思ってて。
だから、渡りに船だったんですよ。
仕事を1本に絞れるし、学費は出してくれるって言うし、
そもそも他にどこも雇ってくれなかったですからね。
 
「こんないいことねーや」と思って、
「明日から来ます!」って言ったら、
親方が「じゃあ、坊主にしてきてねー」って。
野球部を引退して、
ようやく髪の毛を伸ばしてパーマもかけてたのに(笑)。

━━
これから華やかなキャンパスライフが始まると
思ってた矢先に(笑)。
臼澤
まぁ、古い人ですよね。
「なんで坊主なんですかね?」って聞いたら、
「丁稚は昔から坊主って決まってんだよ」って。
「おじさんさぁ、気が短ぇから、ブン殴っからさぁ。
叩いた時に、頭の形がわかんねぇと、
当たりどころ悪りぃと死んじゃうからよ」
って言うわけですよ。
━━
へぇー。
臼澤
ただ、僕らの時代は野球部でも
殴る蹴るってのが日常だったから、
殴られるのは慣れてるし、「まぁ、いいや」って。
━━
部活とあまり変わらないと。
臼澤
そう。
それで、次の日に野球部時代みたいに
5厘刈りにして行ったんですよ。
そしたら、「あんちゃん、潔いのはいいんだけどよ。
痛えぞ、それ。殴ったら、血でるぞ」って言われて。
━━
え!? 工具で殴るってことですか?
臼澤
そうっすよ。
指輪を入れる鉄の棒があるんですけど、
それでブン殴るんですよ。
カンッって。
芯まで鉄だから痛いんですよ。
ただ、こっちは金属バットで殴られてるから、
それも全然平気で。
━━
野球部のおかげで、免疫力があったんですね。
坊主にしても、金属で殴られることにしても(笑)。

第3回 厳しさの中にも愛情が溢れる職人気質の親方