辞書の挿絵には、「その図解は、ほんとうにそれでよいのか」と
読者からのつっこみを待っているとしか思えないものがある。
まずは「恐竜」。

とにかく顔が小さい。
最初、どちらがしっぽかわからなかった。
日本では恐竜というと「ティラノサウルス」のような
こわい恐竜を思い浮かべるが、英語圏では異なるようで、
この恐竜はなんとも可愛らしい、つぶらな瞳をしている。
次はこれ。

これは一体なにの図解なのだと、一瞬ぎょっとしたかもしれない。
これはcontortionist。体の柔らかい曲芸師の意味である。
確かに図がないと具体的に想像できない単語だ。
ありがとう、挿絵。
続いて、マスク。

なぜいちばん最初にstocking maskが来るのかと思ったけれど、
アメリカ人の友人に聞いたところ、
「泥棒がつける覆面のことだよ」とのこと。
なるほど、それがいちばんはじめに思い浮かぶのね。
ちなみに、いま手元にある「新明解国語辞典(第六版)」では、
1. 仮面。面。
2. 野球の捕手や審判などがかぶる面。
3. 鼻や口をおおうもの。
とある。
「マスク」と聞いて思い浮かべる、英語と日本語のイメージの差だ。
こうやって複数の辞書を引きながら、
どんどん遠くへ思いを馳せるのはとても楽しい。
続いて、こちら。

下の女性ふたりの表情が気になる。
あまり、なかよくないふたりなのだろうか。
どことなく嫌そうで、腕の間には距離がある。
左の絵では、ふたりとも無表情にこちらを見ているが、
hand in handでは、黒髪の女性が左を向いて、
隣の女性の表情を伺っている様子。
すこし、なかよくなれたのかな。
表情が明るくなった気がしないでもない。よかった。
次は、こちら。

caricatureは「風刺画」の意味。
さすがにやりすぎだよね、笑ってごめんねと思いながら、
それでもやっぱり笑ってしまう。
口元の強調にかすかな悪意を感じる。
そこまでやらなくても、と思う。
しかし風刺画とは、見る人に「滑稽だ」「皮肉を込めている」と、
伝わらなければならない絵なのだ。
隣に描かれた「肖像画」を比べ、似ているものとの違いと、
その境界線を示すのも、挿絵が得意とするところ。
最後は、こちら。望遠鏡です。

道具の場合、その使い方を示すのにも挿絵は使われる。
左の絵はもちろんすばらしいのだが、右側の絵を見てほしい。
なんと望遠鏡を使用したあとの、
収納の仕方まで指南してくれているのである。
「望遠鏡とはなんだろう」と調べている人に、
片付け方まで図解してくれるなんて、なんと親身なのか。
先回りして小石を取り除いてくれる優しさに、ほろっとくる。
(続きます)