スポーツの項を引くと、挿絵が見つかることが多い。
サッカーを知らない人にサッカーを文字だけで説明するのは、
とても難しい。
そんなとき、挿絵はとても雄弁なのだ。
辞書の挿絵の魅力、それは「心ここにあらず」な表情。
それは、スポーツで汗を流していたって変わらない。
まずは、ホッケー。

和やかなホッケーの試合風景。
この穏やかな微笑み。余裕の表情。
「おほほ、あの方、これから打ちますわよ」と聞こえてきそうである。
アイスホッケーを見てほしい。
ホイッスルを鳴らすレフリー。
を、まったく気にしていないプレイヤーがひとり。
気にしていないのか、聞こえていないふりをしてパックを追っているのか。
その表情からは何も読み取れない。
紙面が有限ゆえに、挿絵には「意味の伝わる最小の絵を」という
暗黙のルールがある。
そのルールゆえに、ひとりで行えるスポーツは
たいていひとりだけで描かれる。
しかし、ダーツだけは異なる。

ダーツだけは、観客が5人もいる。
辞書中くまなく探したが、観客が5人もいるスポーツは
他に見当たらなかった。
人望のある選手なのだろうか。
作画担当者はダーツ好きだったのだろうか。
ひとりでダーツは寂しいからという配慮だろうか。
腕組みをしたお姉さんの表情が、心なしか険しい。
厳しい観客に囲まれるおにいさんの緊張やいかに。
次は、縄跳びである。

左端の彼だけ、なぜかあさっての方向を向いている。
どんな理由があって半裸で縄跳びをしているのか。
なにより、そのタイミングで飛ぶと、確実に縄に引っかかる。
気になって他の辞書も調べる。

(Marriam-Webster’s Advanced Leaner’s English Dictionary)
お、あった、あった、縄跳び。
こちらのおねえさんは、きちんと飛べている。ほっとする。
さっきの彼に、ジャンプのタイミングを教えてあげてほしい。
最後は、サーフィン。

進行方向を気にしつつもカメラ目線のおにいさん。
この波の様子だと、立ち上がった直後だろうか。
こちらをまっすぐに見つめる目は、真剣だ。
ことばの意味を正しく伝えようと、
使用者にどこまでも寄り添う姿が愛おしい。
(続きます)