もくじ
第1回わたしと挿絵 2017-04-18-Tue
第2回スポーツと挿絵 2017-04-18-Tue
第3回笑いと挿絵 2017-04-18-Tue
第4回わたしと挿絵とこれからと 2017-04-18-Tue

外にからだを開いた文章を書きたいです。ちょっと高い牛乳を買ってみる、終電で映画を観に行くなど、ささやかな挑戦の味が好き。

わたしの好きなもの</br>辞書の挿絵

わたしの好きなもの
辞書の挿絵

担当・曽根千智

第2回 スポーツと挿絵

スポーツの項を引くと、挿絵が見つかることが多い。
サッカーを知らない人にサッカーを文字だけで説明するのは、
とても難しい。
そんなとき、挿絵はとても雄弁なのだ。

辞書の挿絵の魅力、それは「心ここにあらず」な表情。
それは、スポーツで汗を流していたって変わらない。

まずは、ホッケー。

和やかなホッケーの試合風景。
この穏やかな微笑み。余裕の表情。
「おほほ、あの方、これから打ちますわよ」と聞こえてきそうである。

アイスホッケーを見てほしい。
ホイッスルを鳴らすレフリー。
を、まったく気にしていないプレイヤーがひとり。
気にしていないのか、聞こえていないふりをしてパックを追っているのか。
その表情からは何も読み取れない。

紙面が有限ゆえに、挿絵には「意味の伝わる最小の絵を」という
暗黙のルールがある。
そのルールゆえに、ひとりで行えるスポーツは
たいていひとりだけで描かれる。
しかし、ダーツだけは異なる。

ダーツだけは、観客が5人もいる。
辞書中くまなく探したが、観客が5人もいるスポーツは
他に見当たらなかった。
人望のある選手なのだろうか。
作画担当者はダーツ好きだったのだろうか。
ひとりでダーツは寂しいからという配慮だろうか。

腕組みをしたお姉さんの表情が、心なしか険しい。
厳しい観客に囲まれるおにいさんの緊張やいかに。

次は、縄跳びである。

左端の彼だけ、なぜかあさっての方向を向いている。
どんな理由があって半裸で縄跳びをしているのか。
なにより、そのタイミングで飛ぶと、確実に縄に引っかかる。

気になって他の辞書も調べる。

(Marriam-Webster’s Advanced Leaner’s English Dictionary)

お、あった、あった、縄跳び。
こちらのおねえさんは、きちんと飛べている。ほっとする。
さっきの彼に、ジャンプのタイミングを教えてあげてほしい。

最後は、サーフィン。

進行方向を気にしつつもカメラ目線のおにいさん。
この波の様子だと、立ち上がった直後だろうか。
こちらをまっすぐに見つめる目は、真剣だ。
ことばの意味を正しく伝えようと、
使用者にどこまでも寄り添う姿が愛おしい。

(続きます)

第3回 笑いと挿絵