もくじ
第1回陶芸、はじめまして。 2016-12-06-Tue
第2回背中を押してくれた存在。 2016-12-06-Tue
第3回いいとこどりしよう。 2016-12-06-Tue
第4回自分のスタイルをつくれるか。 2016-12-06-Tue

1991年生まれ。
放送局にいます。

いま、日本文化に
はまってます。

表現者の方を応援
することが好き。
ミーハーです。

陶芸だから、できること。

陶芸だから、できること。

担当・菊地将弘

第2回 背中を押してくれた存在。

──
自分がなにをつくりたいのかって、
シンプルですが、表現をする上での本質なのかなと。
千代
いざ業界をやめると、
「自分はなにがつくりたいんだろう」と
正直なところ思ってしまったこともありました。
でも陶芸と出会って、こういう方向性はありだなと。
陶芸といったらお皿やそういう器を
想像する方が多いと思うんですけど。
特殊メイクをやっていた分、
ほかの陶芸をやっている方よりも
かわった造形ができるじゃないかなって。
それを活かして、素材を陶器にすれば。
──
表現のツールとして陶芸の可能性が浮かんできた。
千代
ちょっと話が遠回りにはなるんですけど、
ぼくはもともと動物や自然が好きなんです。
ネイチャーを題材にしたDVDをよく観ていて。
──
そういうDVDがまたお好きで(笑)。
たとえばサバンナの動物たちを
カメラにおさめるような作品ですかね。
どちらかというと、
もうちょっと上の世代の方が
楽しんでいる印象はありますが。
千代
周りに観ている方は少ないんですけど、
陶芸をはじめる前から好きでした。
──
動物が好きなんですか。
「この山がいい!」とか
そういうネイチャーではなくて。
千代
自分の普段の暮らしでは見えてこない、
動物が住んでいる自然界そのものでしょうか。
動物それぞれの生き残る戦術とか、
補食であるとか、
食うか食われるか、
そういう駆け引きから生まれる緊張感というか。
──
一瞬のリアルですか。
千代
そういうシーンって残酷ではあるんだけど
でも、それは実際に起きている事実ですよね。
──
そういう世界はちゃんと存在していて。
千代
たとえば鳥のヒナが生まれて、
はじめて飛び立つというときに
海まで飛ばないといけないんですけど、
海の手前で落ちてしまって、
キツネに持っていかれるような。
──
生と死のはざまの刹那というか。
千代
そうですね。
あと世の中にこんな生き物がいるんだ、
っていうおもしろさ。
──
たとえば爬虫類でも派手な模様や
珍しいフォルムの虫っているわけじゃないですか。
お話を伺っていて思ったのが、
特殊メイクや造形をやってきて、
生き物が逆に人工物のように見えるとか、
「この手があったか!」とひらめくこともありますか。

千代
ええ。特殊メイクをやっていたときに、
空想上のクリーチャーをつくっていて
自然をよく見渡せば
現実にいるじゃないかって(笑)。
──
空想上のいろんな作品には、
リアルから着想を得ることもあるでしょうし。
千代
自分がなにをつくりたくて表現したいのか。
突きつめていくと、ここにヒントがあるなって。
──
ほお、糸口が見えてきた。
千代
フリーをやめて、
かっこいい彫刻をまねる「模刻」をして
技術を磨いていましたが
それを自分の作品にする意味を考えたときに
自分の関心ごとに嘘はつけないなと。
──
好きなところに自分が出るという。
千代
何となく生活していて見えづらい部分を、
ぼくなりに光を当てて切り出すことで、
自然界のように実際に起きていることを
クリエイティブにのせたいなと。
──
自分が感じた一瞬を作品として出したいと。
ご自身で表現したいものがまずあって、
陶芸は手段なんですよね。
千代
自分なりに一瞬を切りとろうと。
──
作品をつくっていくと
「自分は陶芸家なのか」という意識も
芽生えてくると思うんですけど。
そこらへんってどうですか。
千代
そうですね。
はじめは陶芸で表現するなら
器だけをつくらないといけないのかなと
思っていました(笑)。
背中を押してくれたのは明治時代のある陶芸家の存在で。

──
おおー。明治時代ですか。
千代
ええ。本格的に興味を持ってから、
陶芸家について過去から現代まで調べてみて
宮川香山っていう陶芸家に行き着きました。
蟹の作品をみて、衝撃を受けて。
陶芸として、こういう表現もできるってことが。
──
100年前から実践している陶芸家がいたんですね。
千代
高浮彫という高い技術でつくられてる
という魅力もありますが、
彼には蟹や鳥をはじめとして
自然の世界観を表現している作品があって。
──
写実的な世界を表現しているんですかね。
千代
そこにかわいらしさがあるものもあったり、
超絶技巧という写実的なものもあったり。
陶芸家の作品のなかでもっとも印象的で。
──
「こういう作品もあっていいんだ」って。
それを自分なりに噛み砕いて
アウトプットをしますよね。
で、そこに千代雷央として、
こういうものを出したいって
ものがあるじゃないですか。
千代
それはそうですね。
──
「ぼくはこうする」でないと
変な話ですが、同じになってしまいますよね。
千代
宮川香山の作品には用途があります。
アクセントとしての装飾がある形は
そのままになってしまうので、
これまでの技術を活かして、
複雑な彫刻とか、細やかさ、柔らかさ、
そして構図で勝負したいなあと。
いま制作に取りかかっている作品でいうと
獲物をとらえる瞬間とか。
──
そこにフォーカスしていこうと。
背中を押されて、気持ち晴れましたか。
「この道を行けばいいんだ」って。
千代
そういう感覚はありましたね。
自然のリアルな面を
陶芸で表現している人はそこまでいない。
──
草をかきわけていたら宮川香山がうしろから
「きみはこっちだよ」
ってポーンと(笑)。
表に出てみたら未開拓の道がでてきて。
まだ耕されてないぞと。
千代
はい(笑)。
見つけたぞって。
──
実際に作品をつくっていく過程で
行き着いたわけですか。
千代
はじめは、縁起物をつくっていました。
土鈴というもので。
魔よけやお守りの意味合いがあって
種類が豊富で自由なんですよね。
土鈴はつくり自体がやわらかくて、
味があっていいなあと。
──
土鈴をつくっていくなかで
明治の陶芸家とも出会って。
千代
そうですね。
──
土鈴もあるけど、こっちもあるぜと。
千代
方向性きまってからはそうですね。
作業場もある程度は
自由に使わせてもらっていますし、
ありがたいですね。
──
環境があって、材料もあって、
ここからタコが生まれるんだ。
千代
そうですね。
──
構図っていうんですか。
いろんなタコがいるわけじゃないですか。
ウィンナーのタコさんから。
「こういうのにしよう」はあったんですか。

千代
モデルはあるのですが、
リアルで本物みたいにとは思っていなくて
ちょっとデフォルメしたものにしようと思っていました。
最初におおまかな構図をつくってしまって、
いろいろ動かしながら、
「ここはもうちょっと」
というふうに調整しながら、
足が単純なかたちにならないように
バランスは意識しました。
──
デフォルメって
その人のオリジナリティであり、
おもしろさであり、むずかしさもあるのかなと。
そういうのっていうのはセンスなんですかね。
千代
実は、陶芸をはじめる前に
アニメの絵を勉強していました。
というのも絵を描くためには
立体を把握しないとかけないので、
そこを磨けば幅が広がるんじゃないかなと。
──
絵も学んでいたんですねー。
千代
特殊メイクやっているときは
現物しか見ていなくて、
リアルを追求する考えだったのですが
デフォルメによって単純化された
キャラクターもおもしろいなと。
それといままでのリアルを組み合わせて、
割合としては
リアル7、デフォルメ3が
いいんじゃないかなって。
──
それが今になって活きているんですね、
立体表現するための絵の技術が
ここにつながっていると。
陶芸という表現ツールを使うにあたって、
特殊メイクのノウハウもありますか。
千代
そうですね。
実は、陶芸の材料たとえば粘土なんかは
特殊メイクのときとあまり変わらないんです。
ただ、そのまま焼くので、
細さと厚みには気をつけないと
粘土が乾くまでの差でヒビが入るとか。
──
やりながら肌感覚で。
千代
そうですね。
粘土の扱い方は知っていましたし、
彫刻する道具も持っているので。
──
当時からの道具を。
千代
そうですね。
特殊メイクのときと異なるのは、
釉薬という色の薬をかけるので、
いままでの造形のフィギュアとは
色の出方がちがいますし、独特の光沢が出ます。
──
質感とか。
千代
あと、プラスチックの素材は劣化するんですけど、
陶器って半永久的で、ずっとそのままなんです。
──
あー。明治時代の作品が
今でもきれいな状態で残っているわけですね。
自分の作品が100年以上も
保たれるのは魅力の一つですね。
作品は生き続けるみたいな(笑)。
千代
そうですね。
素材でいうと粘土って自然からできていますよね。
──
なるほど。
千代
プラスチックよりも、意味が出てくるんです。
──
色もそうですよね。
千代
釉薬って鉱物を擦ってつくったものもあるのですが、
材料の自然という点も大切にしていきたいなと。

──
タコをつくった後、
アートイベントに出店したんですよね。
千代
あまり人に自分の作品を見てもらう機会が少ないので
すこし前に誰でも出店できる
アートイベントに参加しました。
展示だけでも良いし、
小物を売っても良いという裾野の広いイベントで。
そこに作品を持っていきましたが、
そこでもタコが目をひいていましたね、
──
生で見てもらえるっていうのはいいものですか。
千代
そうですね。
「これ陶器なんです」
っていうやりとりだったり、
テーマについて聞いてくれたり。
そういうコミュニケーションもあって。
ただ、たくさんの人たちが出品しているので、
なかなか人目につかないのはありますね。
──
心のなかでは「おれを見てくれ」と。
千代
それはありますね(笑)。
──
当たり前ですけど、
どうやって人に知られていくかって
むずかしいですよね。
自己プロデュースっていうんですか。
もちろん作品もつくらないといけないし。
思うところありますか。
千代
作品つくるだけじゃ、技術だけあっても
それを世に広めていく能力というか
自分をプロデュースする力は必要だなと。
ネットで拡散すればいいのかっていう話もありますし。
──
どういう仕方で拡散されるのかっていうね、
いやな拡がり方もありますよね。
千代
炎上とか。
──
陶器だから燃えても大丈夫とか(笑)。
千代
本焼きではありませんって(笑)。
あとは公募展などに出品して、賞を獲るとかですかね。
──
陶芸家として、いま注目している方はいますか。
千代
若手の陶芸家を集めてイベントをされている方を
知っていますが、
そういう能力って自分ないなあって(笑)。
勉強していかないと。
──
実践をしながら着実に歩んでいきたいですねってことで。
千代
はい。
──
3月にね、個展をぜひやってみようと。
千代
そうですね、チャレンジします。
──
同い年として、嫉妬しておりますが、
応援させていただきます。

千代
ありがとうございます(笑)。
個展で終わりでなくここからスタートとして、
この機会に自分の作品を
たくさんの人にみてもらえれば嬉しいですね。
──
ちなみに個展をするにあたって、
特定のどなたかに見てもらいたいってありますか。
千代
うーん、そうですねえ。
──
たとえば学生時代、切磋琢磨した仲の方とか。
千代
それでいうなら、専門学校の同期ですかね。
──
その方は特殊メイクの道に?
千代
そうですね、
彼はぼくより20も歳は先輩なのですが同期で。
当時のインターン先の会社で、いま働いています。
──
特殊メイクのプロとして
仕事をされているんですね。
いまでも連絡は取り合う仲なんですか。
千代
そうですね。
ただ、会うってなると3年ぶりぐらいですね。
──
千代くんが陶芸の活動をしていること、ご存知ですか。
千代
フェイスブックで投稿した作品を
もしかしたら見ている程度で、知らないかもしれません。
──
思ったんですけど
個展のために作品を撮影するじゃないですか。
よかったら同期の方にお見せしませんか?
千代
そうきますか(笑)。
──
この時点で作品をお見せして
特殊メイクのプロから、
千代くんの作品はどのように映るのか、
「こういう活動をしている」っていうのも報告がてら、
お話を聞きにうかがうのはいかがでしょう。
千代
うん、たしかに当時からアイデアがどんどん出てきて、
課題に対して、一歩先をいくものを提出する人です。
──
千代くんに作品の解説をいただこうと思いましたが、
特殊メイク、造形のプロの方にも見てもらって
感想や今後のアドバイスもいただけるといいですよね。
千代
そうですね。
ちょっと連絡してみます。

(つづきます。)

第3回 いいとこどりしよう。