もくじ
第1回陶芸、はじめまして。 2016-12-06-Tue
第2回背中を押してくれた存在。 2016-12-06-Tue
第3回いいとこどりしよう。 2016-12-06-Tue
第4回自分のスタイルをつくれるか。 2016-12-06-Tue

1991年生まれ。
放送局にいます。

いま、日本文化に
はまってます。

表現者の方を応援
することが好き。
ミーハーです。

陶芸だから、できること。

陶芸だから、できること。

担当・菊地将弘

ツイッターで偶然、
目に飛び込んできた作品が、出会いのはじまりでした。
誰がこんな作品をつくっているのだろう。

実際にお会いをさせていただき、
彼が、特殊メイクの業界から転身して
陶芸の道に進んだことを知りました。
もっと、興味を持ちました。

これまでの彼自身のこと。
陶芸という表現方法で今後
なにをつくり、伝えていきたいのか。
どういう道を歩もうとしているのか。

表現者であることを選んだ者の、
心のひだの動きを感じていただければうれしいです。

特殊メイクのプロの方のゲストも招き、
じっくり語っていただきました。全4回です。

プロフィール
千代雷央(ちしろ・らいお)さんのプロフィール

第1回 陶芸、はじめまして。

──
最初のきっかけはツイッターなんです。
ある日、タイムラインを見ていたら、
千代くんと共通の知り合い経由で
見たことない作品が目に飛び込んできて。
千代
途中経過も載せていたんですけど、
最終的な完成形を載せたら、友だちが拡散してくれたんです。
──
はい。その完成形に心を奪われました。
「なんだこりゃ」と。
作品そのものと、つくった方に興味を持って。
それで、知り合いに聞きました。
「これをつくった方ってどういう人?」
そうしたら「幼なじみだよ」って(笑)。
また、そこで驚いて。
というのも、ぼくと同い年ですし。
千代
そういえば同い年でしたね。
──
同性代で陶芸の作品を
つくっている人がいるんだということと、
こういった作品をつくる人がいるんだ、
という二重の驚きがあって。
「会えますかね」と知り合いに頼んだんです。
陶芸の作品をつくってる方って、
自分の身近にはいなかったので。
千代
興味を持っていただいて。

──
ここで活動をしていて、
陶芸も教えているから
連絡してみればと言われて。
千代
そうですね。
──
ぼくは深大寺にいったのが、そのときはじめてで。
環境がいいですよね。空気もきれいだし、
時間もゆっくり流れている気がするし、
あと蕎麦も美味しい(笑)。
千代
観光地としての面もあるんだけど、
そこまで混雑はしてないですね。
ゆったりとしていて。

──
夏にはじめて訪れたとき、
印象としては、ジブリのような世界観を
もっている場所だなあと。
温かみもありますよね。
千代
お客さんと同じ場所で
お店の作業をしているところに
親近感のようなものがあるのかなあ。
──
身近に感じられるんだけど
別世界に来たような、そんな違和感が心地よくて。
今回、また取材という形でこさせてもらって、
季節は変わっているんだけど、また趣がありますね。
千代
冬は冬で、また別の。

──
風鈴の音が鳴っていて、
外は開いていて、ストーブもあって。
いいなあって。
千代
夏も窓があいているんで、
風がぱーっとぬけて、風鈴もチリンチリンって。

──
その場で陶芸を教えてもらいながら
お互いの話をして。
また今度ご飯いきましょうって。
千代
ええ。そこからですね。
──
ぼく自身、一度しっかり、
お話をうかがってみたかったんです。
千代
それはありがたいです。
──
千代くんは特殊メイクの仕事から
陶芸の道に転向したんですよね。
千代
はい。特殊メイクのあとに陶芸へ。
なかなか珍しいタイプだとは思います。
──
特殊メイクの道を志したきっかけはなんでしょう。
千代
中学生のころからエイリアンや
クリーチャーの作品が好きで。
ものづくりの方面にいきたいなと思っていたんです。
あるときメイキング映像をみて
「こんな仕事あるんだ」と。
「あ、これかもしれない」
と思い始めたのがはじめですね。
──
そういう造形をつくって表現をしたいと。
千代
はい。調べていくうちに、
特殊メイクとか造形の専門学校をあることを知って。
地元が鳥取なんですけど、
高校を卒業して東京に行こうと。
高校1年生のときには決めていました。

──
はやいですね!
当時から将来、特殊メイクや造形の
プロフェッショナルとして活動したいなって
思っていたわけですか。
千代
方向としてはそうですね。
もともと芸術家に憧れていました。
作品をつくって、その対価として
お金をいただいて生活をしていくような。
──
裏方として自分のつくったものを
世の中に発信したいと。
千代
もちろん自分の名前も
世に出していきたいのはありましたね。
そういう想いを持って上京しました。
──
特殊メイク漬けの毎日ですか。
千代
そうですね。
授業の後も居残りして作業を続けるとか。
没頭してやっていました。
──
専門学校ということは2年間ですかね。
千代
はい。ぼくの通ってた専門学校は2年制でした。
──
その先の進路も、作品をつくりながら考えるわけですか。
千代
1年経つとインターンがあります。
卒業2、3ヶ月前のタイミングからなのですが、
当時、いちばん行きたかったのが自由廊という会社で。
特殊メイクの会社で、業界でも有名です。
──
ほおー。
千代
でも周りのみんなは、
「あそこは人気が高いからむずかしいぞ」って。
ぼくは思いきって電話してアポをとって、
手伝いをさせてほしいとお願いをしました。
──
はい。
千代
一週間後に連絡がきました。
「いついつにお願いします」と。
やって後悔しようと思って電話したおかげでした。
うれしかったですね。
はじめは1週間の期間ということだったんですけど
忙しくて今月いっぱいまで、というように延長が続いて。
そのころは辛いようなことはなくて、
とにかく吸収しようと取り組んでいました。

──
鍛えられたわけですね。
千代
ある程度は認めてもらえたのか、
専門学校を卒業した後、フリーという立場で
自由廊に出入りするようになりました。
2ヶ月くらい集中的に仕事をして、
また次回というようなスタイルで。
──
一つの案件に対して
プロジェクトのような仕事の進め方になるんですか。
千代
仕事は多種多様にあって、
人手が足りない時期に呼ばれるかんじですね。
会社も信頼できるフリーの方を探していて。
──
ではフリーの方は、
いろんな会社の仕事をするような。
千代
そうですね。
仕事が一段落したら、
また別の会社で仕事をする方が多いですね。
──
うん、うん。
千代
そういうことをやって
継続的に呼んでもらえてはいましたね。
──
コンスタントには関係があって。
千代
自由廊から紹介してもらった会社で
仕事をすることもありました。
特殊メイクといっても
そういう会社って領域が広いんです。
特殊造形が多いんですが、映画のメイクとか、
イベントに展示するキャラクターの等身大の造形とか。
──
呼ばれて自分のスキルが上がっていくかんじですよね。
紹介があった会社でも仕事をしながら。
表現するモチベーションで続けてこられたわけですか。
千代
はい。ただ、会社でつくっているものって
クライアントの作品ですので、
人に「これをつくったんだよ」って
自信を持って言えないところはありましたね。
すべてを自分がつくったわけではないんです。
──
「このキャラクターの、ここの角度みてよ」って
なるわけですか。
千代
自分というものをもっと前に出していきたい、
でもフリーをやめて飛び出すような踏ん切りもつかなくて。
──
やめる勇気はないけれど。
千代
このままで大丈夫かなと。
一つの技術に特化しているとまたちがうと思いますが。
──
たとえば、彫刻だったらこの人っていう。
千代
そういった腕があればいいんですけど。
サブとしての関わり方がどうしても多くて。
──
よくいえばオールラウンダーな存在だったわけですよね。
千代
本来やりたかった彫刻や
作品をつくるということが、あまりできていなくて
葛藤のような感情が出てきました。
いっかい区切りがついて、
次の案件も決まっていなくて
どうしようかなって思ったときに、
いろいろ悩んではいたんですけど。
じゃあここでいったん環境を変えてみようと。
──
一歩を踏み出して。
千代
はい。この業界からはなれてみようかなと。
別業種の仕事をしながら時間をつくって
自分の作品づくりに充てた方が
今後のためになるんじゃないかなって。
──
「もっと技術を磨きたい」と。
千代
そうですね。
フリーですと忙しいときに呼ばれるので
自分の時間がなかなかとれなくて。
そのときの自分の仕事にどうしても追われて、
寝ないと遅刻するような生活だったので。
決意をしてからいろいろ仕事を探していました。
きっかけはまたSNSで、フェイスブックなんです。
──
あら、フェイスブックで。
千代
専門学校時代の知り合いが、
深大寺で陶芸の仕事をしていて、
その方が留学するので、どなたかいませんかと。
ふと調べてみたら偶然、
自分の家から徒歩15分もかからないところに窯があって。
──
へええ。
千代
それで電話しました。
面接をしたその日に合格をもらって。
「いいんですか」みたいな(笑)。
そこからですね、陶芸と出会って。
──
縁というか偶然のきっかけだったんですね。
陶芸、はじめましてですよね。
千代
はじめまして。
──
陶芸とは、なんぞやと。

千代
はじめは陶芸そのもの自体を
あまりよく知らないところから。
──
まずは陶芸のいろはを吸収してから、
自分の作品づくりになっていくんですか。
千代
そうですね。
フラットな気持ちで今までの技術を活かしながら、
特殊メイクや造形的な、陶器では今までない作品を
つくれたらと思っていました。
──
ああ。
千代
陶芸は手を動かしながら覚えていきました。
いろいろ陶芸にふれて、先輩方に教えてもらって。
「これってこういうものなのですか」って聞けば
教えてもらえるんですけど、ああだ、こうだはなくて。
自由な環境で、いろいろつくっていこうと。
そこから陶芸に惹かれていきました。
──
陶芸という表現ならではの魅力はありますか。
千代
粘土を焼いて、
それ自体が作品になるっていうのが、いいですね。
色づけには釉薬という薬品を使いますが、
陶芸独特の色合いの味が出ますし。
──
「焼いたらそれを作品として出せる」というのは、
これまでやってきた特殊メイクのところと
くらべてのちがいですか。
千代
はい、特殊メイクや造形ですと、
粘土で彫刻して、それを型取りして。
その型に別の素材を流し込む複製のようなものですね。
──
つまり、オリジナルではないと。
千代
量産はしやすいんですけどね。
その一方で、陶芸ですと
粘土で彫刻したものを焼いて完成なので、
彫刻したそのままが作品になりますし、
まったく同じものにはなりません。
フィギュアとくらべると「一点もの」なところです。
あとは焼いて作品にするときの偶然性も魅力ですかね。
──
「こんなかたちになったぞ!」っていう。
千代
焼いてはじめてわかるってことは、ありますね。

──
そうして自分の作品も
つくるようになってゆく。
千代
そうですね。
ただ、特殊メイクの業界をやめたとき、
あれだけ作品づくりを望んでいたのに、
自分のつくりたいものってなんだろうと思ったんです。
──
ああー。
自分は、なにを表現したいのか、と。

(つづきます。)

第2回 背中を押してくれた存在。