もくじ
第1回三日三晩、自問自答したら。 2016-05-16-Mon
第2回「ともだち」という意識で。 2016-05-16-Mon
第3回「ヒット」の概念をひろげる。 2016-05-16-Mon

1991年、静岡県生まれ。株式会社BAKEで、お菓子のWebメディア「cake.tokyo」の編集者として働いています。趣味は写真。Canon 5D MarkⅡで撮っています。→ http://yriica.com

人によろこばれる仕事をするために。

第3回 「ヒット」の概念をひろげる。

古賀
ぼく今回、「ミリオンセラー」というのを
はじめて経験して、ひとつわかったのは、

みんな全然知らないんですよ、
『嫌われる勇気』っていう本のこと…。
糸井
(笑)。

古賀
これがミリオンセラーになったとか。
ミリオンセラーって、経験する前は、
あまねく人が知っているものだと思っていたので。
糸井
大騒ぎしてるから。
古賀
そうですそうです。
そういうものだって思ってたんですけど、
思っている以上に全然知らないし、
誰にも届いてないなって。
もちろん「100万部」という数はすごいんですけど。
そこで、糸井さんに聞きたかったことがあって。
糸井さんの中で「ヒットする」っていう概念は、
何かじぶんの中で明確化されているんですか。

糸井
うーん。ほぼ日をはじめてからは、
もう、ヒット多様性になりましたね。
古賀
ヒット多様性。
糸井
それこそ、生物多様性みたいに。
これもヒット、あれもヒットになりました。
ゲームボードがいっぱいあって、
そのゲームボードの上で、これはヒット、
こっちではせいぜい黒字程度のヒット、
こっちでは売れたけどヒットとは言いにくいみたいな。
ヒットのルールをいっぱい持つようになりましたね。

古賀
それはコンテンツごとに、
ヒットの基準が何となくあるんですか?
糸井
「全てがコンテンツです」ということを
言いはじめて思うんだけど、たとえば、
前の事務所から今の事務所への引越しも
ヒットだったと思うんです。
金銭的に言ったらマイナスになってますよね。
だけど、これヒットなんですよ。
何がヒットかっていうのも説明できるわけですよね。
そういうような、みんながすでに持ってる
「ヒット」の概念をひろげるということを、
たぶんぼくは、ほぼ日をはじめてから
するようになったんでしょうね。
古賀
では、糸井さんの中では、
一山当てたいみたいな気持ちはあるんですか。

糸井
いつも一山当てたいです。
楽になりたくて仕事してるわけだから。
古賀
それ、いつもおっしゃいますよね。
糸井
苦しくてしょうがないわけですよ、ぼくは。

古賀
ほぼ日をはじめられたころと今とでは、
仕事に対する感覚ってちがうんですか。
糸井
たぶんあの時期も、苦しかったんだと思います。
大好きな釣りを一生懸命やることも、はたらくことも。
前日にともだちの分まで釣りのセットをセッティングして、
糸を巻き直して、用意して、車を運転して迎えに行って。
それって、苦しいですよね。
古賀
うん、そうですね。
糸井
でも、趣味も仕事も同じで、
それがたのしくてやってるわけだからいいんですよ。
それこそ、ほぼ日という名前もつけていないころから、
こういうことっておもしろいぞと思ってたんで。
千葉とかに住んでたともだちを車で送って、
そこから帰ってまた仕事してとか、
そういうバカらしいことがたのしかったんですよね。
そのときの気持ちは、ちょっと形を変えてますけど、
根本的には似てますよね。
でも、ひとつひとつの仕事については、
あぁいやだいやだ(笑)。
古賀
ぼくも、本書くのつらいです(笑)。

一同
(笑)。
糸井
あえて言えば、仕事がいやなのに、
こんなにいろいろ手を出して、ね。
人から見たら、よくがんばってるなって
いうぐらいやってるのって、何なんでしょうね(笑)。

古賀
子どものころに、
ドラクエとかスーパーマリオにハマってたときと似てて。
ドラクエも、おもしろさとつらさが
両方あるじゃないですか。
なんでずっとスライムと戦ってなきゃいけないんだ、
早く竜王に行きたいのに! って思ってた感覚と
結構近いんですよね。
ひとつひとつの仕事は本当にめんどくさくて、
スライムと戦うような日々なんですけど、
でもそこを進んでいかないと、竜王には会えない。
糸井
はいはい(笑)。
古賀
ゲームはクリアしないと気持ち悪いじゃないですか。
クリアしたからといって、
すごく大きな喜びがあるわけでもないんですけど。
そのクリアに向かって動いているという感覚が、
目の前に何か課題があったら解かずには
いられないみたいな感じと近いのかな。

糸井
それは、古賀さんが「バトンズ」という組織を
つくってから思ったことですか、
それとも前から同じですか。
古賀
前から同じですけど、でも前は、
もっと露骨な出世欲みたいなのがあったんですよね。
糸井
ひとりの方がね。
古賀 
ひとりの方が。
ライターの中で一番になりたいとか…。
糸井
永ちゃんですよね。

古賀
そうですね(笑)。
あのライターには負けたくないとか、
そういうチンケな欲はすごくあって。
今それがあるかというと、
そこで競争して消耗するのは、
なんかもったいないなという気持ちがあって。
結局その中でしか見えてなかったわけなので。
外に目を向けたときの面白さを、
今ようやく知りつつある感じですね。
糸井
そういう意味でも、組織をつくってよかったですね。

古賀
そうですね、ほんとに、はい。
糸井
たぶんぼくも同じようなことだと思うんですけど、
よろこんだ話が聞こえてくるというのが、でかいですよね。
この間あったじゃない、それ。
古賀

はい。うちの子が。
糸井
ヒットしたんだよね。
古賀
そうなんです。バトンズのもうひとりのライターの
田中裕子さんが担当した本が10万部いって。
そのときのことは「note」にも書いたんですけど、
あれは気持ちいいですね。
それこそ、じぶんのとき以上に。

糸井
それはうれしいと思いますよ。
人がよろこんでくれることこそが
じぶんのうれしいことですっていうのを
綺麗事として言葉にすると通じないんだけど、
そういう経験をすればするほど、
人のよろこぶことを考えつきやすくなりますよね。
たとえば、お母さんが、じぶんの分のイチゴを
子どもに食べさせるみたいな。
古賀
そうですね。
糸井
ぼくは、古賀さんがやってる仕事よりも、
主役はじぶんじゃないんだけど、
じぶんが苗を植えたみたいな仕事がふえてるんですね。

古賀
たとえば、どんなことですか?
糸井 
おじいさんが、
「もうそろそろめんどくさいことやめようと思うんだ。
漁協に普通に出そうと思うんだよ」っていう話に、
「まあまあ、待て待て」って(笑)。
具体的に、うちで売ってる「海大臣」とかそうだからね。
商売の仕組みってそうですよね。
古賀
そうですね、うんうん。
糸井
そうすると、それを食べてよろこぶ人がいるっていう、
その循環そのものをつくるようになって、
それが、飽きないたのしさになったんですよ。

古賀
でもそれは、最初から、
そのたのしさを得ようと思って
やったことじゃないですよね。
糸井
大元はね。
解決してほしい問題があるからやる、
っていう形はとってるけど、
でも問題がなくても、やりたいんじゃないかな。
ぼくが時計職人で老人だとして、近所の中学生が、
「時計壊れちゃったんだ」って言われたら、
「おじいさんはね、昔時計職人だったんだよ」って言って
直しちゃうみたいな、そんなことのような気がする。
「どうだ、って1回だけ言わして」みたいな(笑)。

古賀
(笑)。そうですね、はい、わかります。
糸井
それだけでもう十分。
「お礼に…」なんてこと言われても、
「それは要らない」って(笑)。
古賀
そうですね。
特にライターだと、まずは
編集者をビックリさせたいという
気持ちがあるんですよね。
編集者が期待してなかった原稿に
120点で返せたときの、「どうだ」(笑)。
なんか、そういうよろこびは大きいですね。
糸井
そうですよね。

糸井
最終的には、お通夜の席でね、
みんながたのしそうに集まっててほしいですね。
もう本人がいないんだから集まらなくてもいいのに、
あの人の周りにはたのしい人がいるから、
あの人が死んだときに集まる人は
たのしい人だって思われたら、
どのぐらいぼくがたのしかったかわかるじゃないですか。
古賀
そうですね、うん。
糸井
そこは、ずっと思ってることですね。
家族だけで小さくやりますっていうお葬式もいいと思う。
けど、誰がいてもいいよってお葬式を、
ぼくはすごく望んでるんです。
ぼくにかこつけて遊んでほしいというか、
最後まで触媒でありたいというか(笑)。
まあ、古賀さんも、
ぼくの年までの間がものすごい長いですから、
いっぱいおもしろいことありますよ。

古賀
たのしみです。
糸井
最後には、たのしかったと思われるような
おじいさんでありたいですよね。
今日はありがとうございました。

(終わります)